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    80okaaa

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    ホルセト風手作りサラダ〜ワンドロ仕立て〜の投稿作品です
    お題は「嫌われたかと思った」

    私のお母様説得はそろそろ十回を超えた。
    どうしても認めてはもらえないならそれも止む無しと思っていたけれど。

    「愛し合っていると言ったわね」

    何度も門前払いを食らっていたが、今日は初めて会話になりそうだった。

    「はい。確かに、私と叔父様は愛し合っています」


    語気を強めて繰り返すと、母は眉根を寄せて不愉快そうにした。
    そして、あらぬ方を見ながら、そう、とだけ言うとまた黙り込んでしまった。

    しばしの沈黙の後、母は重い口を開いた。

    「私はあなたがセトに好かれてはいないと思っていたのよ」

    まじまじと見つめてくる。

    「だってそうでしょう?あなたはあいつから王位を奪った張本人。それにね、あのこは本当に好き嫌いが激しいの。昔から私達兄弟とアヌビス以外に全く心を開かなかった。あなたは身内ではあるけど、降って湧いた他人に近い者。それどころか敵同士だった」

    あのこ、と母は言った。

    母はすぐに目を釣り上げると、
    「あなたの思い過ごしってことはないの?」
    と詰問してくる。
    「いや、まさかそんなことは、」
    「愛し合ってるって、どうしてわかるの」

    母が言わんとしていることが、判った。

    愛し合ってる筈だった。
    そう、思っていた。
    でもそうじゃなかった。

    そういうことは、確かにある。
    あった、のだ。母には。

    「そう言われたの?それは本心?地上に戻るのに有利になる様、あなたを懐柔したんじゃないの?」

    畳み掛けてくる。

    「叔父様がどういう方か、母上はよくご存知ではありませんか」

    あのこ、と言った母上なら。



    母はため息をついた。
    大きくてひどく重たいため息を、ついた。

    「あいつのどこが好きなの。顔?」

    「叔父様の綺麗なお顔もとても好きですが、私は」

    母は、値踏みする様に見上げてきた、同じ青い目で。

    「叔父様の、傷つきやすいのに全力でぶつかってしまうところが好きです。乱暴なのに優しくて、全部を飲み込んでしまう潔さ、誰かの所為にすれば楽なのにそれができない不器用なところが、とても大切で大好きです」

    母はまた眉根を寄せながら
    「普段無口なのにすごい喋ったわね」
    と、怪訝な顔をした。

    それから、
    でも、そうね、とだけ答えた。

    一瞬、遠い目をした。
    慈しむような、目だった。


    赤い夕陽が差し込んで、叔父様の赤い髪を思わせる。

    明日、太陽の舟に叔父様を迎えに行く。
    エネアドの決定で母上の預かりとなった叔父様は、ヘリオポリスの宮殿で一緒に暮らすことになる。

    長い間、夢にみたことが現実になる。
    叔父様には、すべて解決するまで言わずにいたが、たぶん、知っている筈だ。
    ただ、
    この事が決まりかけてからも何度かお会いしたが、叔父様は何故かずっと浮かない顔をしている。


    俺は知っている。
    俺が太陽の舟の叔父様に会いに行くとき、いつも帰り際、寂しそうにしているのを。
    また来ます、と言えば、おう、と軽く答える叔父様が、舟の上から帰っていく俺をいつまでも見ているのを。

    長く、舟を訪ねられなかったことがあった。

    毎回いろいろと理由をつけて面会の許可を取っていたが、なにをどうしても許可が下りなかった。
    半ば強引に面会にこぎつけ、いざ会うと叔父様はあっけらかんとして、そういえばひさしぶりだな、などと言う。
    俺は少し拍子抜けして、でも、いつものように一緒に酒を飲んだ。
    叔父様は浴びる様に飲んで、飲んで、酔いつぶれた。
    珍しいなと思っていたら、おかしなことを言いだした。
    今日で最後なのか、と。
    俺は意味がわかならくて、なにも言えずにいると
    別れを告げに来たんだろう?と言う。
    ろれつのまわらない舌で。

    いつまでも会いに来ないのは、飽きたから。
    久しぶりに会いに来たのは、終わらせるため。
    叔父様はそう、思っていた。
    そうじゃないんだとわからせるために言葉を尽くして、でも結局体に刻みこむしかなくて。
    翌朝、疲れ果てた叔父様が
    嫌われたんだと思った
    と、小さく啼いた。


    あなたに会うために、俺は何でもした。
    取り戻すために無謀な真似をしている。

    あなたが不安に思うことがあるのなら、みんな取り除いてやりたいと思う。

    だから、母上にはなんとしても叔父様とのことを認めてもらいたいと思っていた。


    だけど、
    今の母を見て気がついた。
    俺が認めてほしかったのは、叔父様のためだけじゃない。


    「叔父様を恨まないで欲しいのです」


    たくさんのものを失った母上。

    「母上だって叔父様を嫌いではないでしょう」

    だけど、取り戻せるものもあるのだと、証明したい。
    信じてもらいたい。


    母は少し驚いた顔をして、それからなにかを逡巡して、最後にぽつりと、
    そうね
    と、言った。


    「でも、ええ、そう。あいつのことは、」

    「はい」




    「ぶっ殺すわ」


    「え・・・ええ、どうして」

    「そりゃそうでしょう。大事なひとり息子を私から持っていくんだから殺されて当然よ」

    「そ、そんな。では叔父様とのことを認めてはいただけないのですか」

    「認めるかどうかは、まず、ぶっ殺してから考えます」





    物騒な言葉が投げつけられましたが、とりあえず考える余地はあるみたいですよ、
    叔父様。





    〈了〉












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