野生の証明「虎とか狼とか」。以前、自らをそう例えたところ、無礼なことに、弟と「あいつ」は腹を抱えて笑っていた。
――だが。
「あいつ」の柔らかそうな肌に、噛みつきたいと思うことがよくある。そして、そこに舌を這わせたら、どんな味がするのか、とも。
噛んだり、舐めたり。それから、もっと酷いことも。内に秘めたそれらの願望からすると、とりあえず自分がケモノであることは間違いないようで――。
――大事にしたいけれど、滅茶苦茶にもしたい。
すやすやと健やかな寝息を立てている「あいつ」――小波 美奈子の頭を撫でながら、桜井 琥一は複雑な想いを持て余していた。
とある初夏の日曜日。桜井 琥一、琉夏兄弟の住処である海辺の家を、小波 美奈子が訪ねてきた。
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