Hello,world 年が明けた。新しい年がまたやってきた。
まだ隣で眠る赤い熊を起こさないようにスリッパは履かず、ひんやりとした床を裸足で歩く。洗面所で軽く洗顔と歯磨きを済ませると、そのままキッチンへと足を運んだ。ゆっくりコーヒーメーカーを起動させつつリビングのテレビをつけると、新年の特番でタレント達が各々楽しげに何かを話している。
「ハッピーニューイヤー!」
「去年はお世話になりました〜」
「今年もよろしくお願いします」
(あ………)
当たり前に進んでゆく時代の移り変わりを目の当たりにして、急に胸の鼓動が早くなる。おかしいな。去年も一昨年も、無事に過ごせた筈なのに。早まる鼓動を鎮めるため、ぱたぱた小走りでリビングにある本棚を漁る。
2024と書かれた1冊の本。ソファへと持ち込んでカバーを外し、中身をぺらぺらと捲る。
1月。みんなからお年玉を貰った。福袋を買ってみた。
2月。バレンタインに大量のパンケーキを作った。
3月。お返しにチョコと、指輪を貰った。
4月。お花見をしながらみんなで宴をした。
5月。みんなでバーベキューをした。
6月。雨の中を2人でドライブした。
7月。海開きと同時にみんなで海に行った。
8月。バカンスに行ってお揃いのアロハシャツを着た。
9月。何故だか風邪を引いた。
10月。ハロウィンを全力で楽しんだ。
11月。カメラを持って、2人で少しだけ世界を旅した。
12月。クリスマスをお祝いした。恋人がサンタクロースは本当だった。
積み重なった思い出を捲ると自然と心が落ち着いた。どの瞬間も、無理に何かをしたわけじゃなく、確かに今やりたいと思ったことをやっていた。
ーーー今年はどんなことをやろうかな、どんな未来が待っているのかな。
ーーー過去にあったことは変わらないけれど、未来は変えられるから。
今でも目まぐるしい毎日だけど、こういうことはずっと忘れないようにしないとね。
アルバムを置いて、コーヒーもほったらかして再び寝室へと戻る。ブランケットを捲り、まだまだ冬眠中の赤い熊にぴとりと抱き着いた。この寒い中半袖半ズボンで毛布にくるまってるんだから、本当子供みたい。キンキンに冷えた足をすね毛まみれの太い足に絡めると、うつ伏せで眠っていた身体がこちらを向いて「こら」って言いながら私の身体を抱き寄せた。
「ちゃんと布団入っとけ、風邪引くだろ」
「へへ、じゃあシャンクスがあっためて」
「お前なぁ……ん、」
お父さんモード発動前にキスで封印してやった。そのまま大きな背中に腕を回して全身ぴったりくっついてみる。愛する人の温もりを、鼓動を、身体全体で感じる。
「あったかい」
これが、新年を迎えたわたしが今やりたいこと。