おれだけのおんなのこ21になったウタは世間から天使と呼ばれるだけはあって、どこを切り取っても魅力的だった。屈託なく笑うところも、何でも信じてしまう純粋さも……いや、今更こんな御託は並べなくてもいいか。兎にも角にも愛おしい存在だった。目に入れても痛くないというのはこのことだろう。これから先、何があってもおれが守って一生をかけて愛してやればいいと、本当にそう思っていた。
今思えば、これは娘に対する感情じゃないと薄々気付いていたのに、おれはその気持ちに“よい父親”という名の蓋をして誤魔化してきた。
ある晩のこと、いつもの通りおれの隣で眠るウタを見て、何を思ったか勃起した。丸いカーブの輪郭、長い睫毛、小さく整った鼻、柔らかそうな唇、と女性らしい身体の曲線美………結局、その日は無理やり寝て誤魔化したが、その翌日も、翌々日も俺の下半身は大暴れしていた。
ーーーそんな馬鹿な!おれが娘に欲情なんかする訳ない。そうだ、きっとこいつは最近女を抱いてないせいだ、そうに決まってると理由をつけ、おれは船を島に寄せて娼館へ向かった。(ウタには用事があるとだけ伝えた)
娼館の女達ははやたら湿っぽく、どいつもこいつもおれの嫌いな甘い香りを漂わせていた。中でもなるべくウタに似てない女を選んで抱いた筈なのに、射精間近に脳裏に浮かんだのはやはりウタだった。
おれの抵抗も虚しく、とぼとぼと明け方の船に戻るとウタが船首に跨り歌を口ずさんでいた。どうやら新曲らしい、澄み切った朝にお似合いの、爽やかなメロディだった。ウタはやたら身綺麗になったおれを見つけると大喜びで両手を振った。頭上から降り注ぐ罪悪感、身体全体が鉛のように重い。おれは今すぐ海に頭から突っ込みたくなった。
「シャンクスおかえり!ねぇ、新曲ができたんだよ」
「そうか。どんな曲なんだ?」
「うーんとね……好きな人に聴いてもらいたい曲!」
「……好きな人、か」
一瞬ふっと幸福を感じてしまった、がすぐさま再び降り注ぐ罪悪感その2。今すぐおでんさんが言っていた“切腹”をさせてくれ。よく考えてみろ、この娘の言う好きな人、すなわちそれは家族愛だ。ウタはどちらかと言えば博愛主義だし、万人を分け隔てなく愛することができる子だ。別におれを性的な目で見ている訳じゃない。それなのに、少しでもおれに気があるのでは?と勘繰ってしまった自分を殺したい。
「もう誰かに聞かせたのか?」
「ううん、だってシャンクスに1番最初に聞いて欲しいから」
「は………お、おれにか?」
「そうだよ。……わたしのこと、まだ9歳の娘のままだと思い込んで放ったらかして、他の女のところに行っちゃうわる〜い海賊。それがウタの好きな人」
ウタは船首から華麗に飛び降りると嬉しそうにおれの手をとり、自分の胸に触れさせた。
「ねぇシャンクス。今度こそちゃんと答えて。わたしのこと、愛してる?」
答えられるわけがない。そう思った矢先、ウタに強く腕を引かれ、おれは。
「……答えられないならそれでもいいよ。アンタの全部、奪ってやるから」
ああ。もうこの女〈むすめ〉は、とっくに大人になっていたのかもしれない。