Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    dodonpa78

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 28

    dodonpa78

    ☆quiet follow

    ⛓️⏳
    📮⏳
    🎨⏳
    それぞれ短編形式のVDネタ。
    ※ほぼ攻めぴの独白です。

    VD⛓️⏳、📮⏳、🎨⏳⛓️⏳


    発明に没頭するうち、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。自分で言うのもなんだが、過集中にも困りものである。ある種のトランス状態と呼んでも差し支えないこれに至れば生理的欲求──空腹、疲労、苦痛、それらの正常な伝達が麻痺してしまい、次に目が覚めたときは硬い床の上なんてことも儘ある。そして、そういう場合は大抵起立すら容易に叶わない。腹の虫がうるさく騒ぎ立てるだけならばいざ知らず、凝り固まった手足が鉛のように重くて言うことを聞かなかったり、脳が働かず天井のシミを胡乱に眺めることしかできなかったりと、とにかく酷い有様だ。それでいて肝心な研究の進捗は遅々としている。

    「やれやれ、また私は気を失っていたのか。ダイアー女史に知られれば今度こそ大目玉をくらう羽目になるな…。いいや、その前にアンドルーに怒られるか」

    今日は頭を床へ強かに打ち付けた姿勢のまま椅子諸共転がっている──なんてことはなく、運よく机に突っ伏して眠っていたようだ。腕すら下敷きにしていないせいで硬い木机に押し付けていた頬が痛い、ついでに長時間動かさなかった関節が軋み、顔を上げるだけの僅かな動作すら少々時間を要した。もしも無理を通して跳ね起きたなら腰からは鈍い音が響くことはほぼ間違いなく。過去にやらかした際の、脳天を槍で貫かれたかのようなあの澄んだ痛みは今でも私の中で色濃い失敗体験として息衝いている。あまりに悶絶する私を見たアンドルーが泣きそうな顔で慌てていたから、彼をむやみやたらに心配させる真似は慎もうと決意した瞬間でもあった。──私だけで小さな頭がいっぱいになってしまう彼はとても可愛らしいのだが。
    とにもかくにも起き上がった私は、時刻を確かめるべく横倒しになっていた時計に目を移そうとして、その前に傍らへ置かれた小さな箱の存在に気が付いた。

    「なんだ…?これは菓子だろうか、誰かが差し入れでもくれたのかな?」

    穏やかなパステルパープルに染まる長方形の箱には赤いリボンが十字に巻かれている。その愛らしい包装を見れば、中身は菓子であると容易に推察することができた。私は部屋に鍵をかけていないから物を置きに来ること自体は誰にでも可能である。施錠をしない理由は怠っているわけでもなく荘園の人間を信頼しているのでもなく、私自身を信用していないからだ。
    たとえば試合の予定を忘れていた、そんなときに鍵をかけたまま過集中に陥った暁にはあらゆる人間に迷惑をかけて私自身にもペナルティを加算されてしまう。たとえば度重なる不摂生により室内で倒れていたら、これまた多くの者に無駄な労力を割かせてしまうだろう。だから自室にいる間は鍵を開けっぱなしにしているのだ。
    ──彼が、この面倒な私の世話を末永く引き受けているのならば錠を閉める代わりに合鍵を一本作るのだが。

    「ん…?チョコレートか?これは、あー…確実に手作りだな。そうか、なるほど」

    話が逸れてしまったがこの菓子だ。包装を丁寧に解いて蓋を開ければ、シンプルなトリュフが四つ詰まっていた。粒によって大きさが違う、チョコパウダーの丁寧なコーティングがむしろベースの凹凸を際立たせている、よってどこからどう見ても手作りの品である。それも菓子どころか料理慣れすらしていないだろうに、悪態を突きながら挑んだ不器用で愛らしい男のだ。
    私のぽんこつな脳は幸いにも回転する余力を残してくれていたらしい、一枚挟まっていたメッセージカードを見ずとも今日のイベントと、送り主の正体を導き出すことができる。

    「……甘い」

    ひと口齧れば濃密なミルクチョコレートの香りが広がる。水分不足で乾いた舌にべったりと張り付くが、飲み込み辛さよりも鮮明に味わえる喜びが勝っていた。
    私好みの苦すぎず甘すぎない丁度いい塩梅、きっと何度もレシピを確認し、都度味見して調整しながら作り上げてくれたのだろうと健気な努力が目に浮かぶ。私本人すら覚えていない何気ないタイミングで溢したのであろう好みを把握してくれていたのが嬉しかった。その事実が、チョコレートよりも甘く脳髄へ染みわたってシナプスの輝きを明瞭にしてくれる。人類史に刻まれるべき偉大な閃きの糧となってくれる。

    「あぁ、アンドルー!私の可愛い仔うさぎ!まったく、この滾る想いをどうしてくれるんだ、罪深い!なんて言ったら怒られてしまうだろうか、ひひっ!」

    本当に、無垢で罪深い男だ。発明だけに命も情熱も人生すらも捧げる──その誓いを他ならぬ私本人に破らせたんだ、悪い男だろう?
    この緩む頬を、赤らんだ耳を、疲弊した脳が過剰分泌する脳内麻薬をどうしてくれるんだ。抱き締めてキスをして、その白い頬が林檎のように熟れる様を間近で眺めたい。少々乾燥した唇を貪り、僅かに残る甘さの欠片を分け与えて蜜の如き唾液を嚥下したい。着込んだ服を寛げて、生白い痩躯を余すことなく晒させ隅々まで触れたい。そして、潤む紅玉に私だけを映し──か細く儚い声で「愛してる」を紡いでほしい。
    高揚はもはや胸中のみで留まることなく全身を突き動かす。扉を開け、廊下を疾駆する。一秒でも早く会いたいのだ、あの天使じみた可愛い男に。
    そうしてようやく見つけた薄い背へ私は飛びついた。「ハッピーバレンタイン!アンドルー!」の歓喜と共に。振り返った彼は頬の赤みの照れ隠しに怒ったフリをしていたが、構わずキスをお見舞いしたのだった。




    📮⏳


    「…い、いつも素敵な手紙をありがとう、ビクター」

    本当に血が通っているのかと時折心配になってしまう白い肌を珍しく赤く染めた彼は、緊張でか細く震える手を必死に律しながら薄紫色の小箱を差し出してくれた。受け取るや否や中を見る前に脱兎の如く逃げてしまったのでお礼を伝えそびれてしまったけれど、何をくれたのかは分かる。だって今日は特別な日だから。

    「ん!」

    アンドルーさんもいなくなってしまったその場で箱を開けるのは嫌で、部屋まで戻った僕は扉をしっかりと施錠してウィックの傍らへと座り込む。貰ってから気が付いたけれど、なんとウィック用のより小さな箱も用意されていた。僕も、僕の相棒も等しく大切に想ってくれる彼が大好き。
    ところで──箱も、秘密を内包するという点においては手紙と似通っていると思うんです。このプレゼントは僕とアンドルーさん、そして相棒だけが共有していい秘密だから万一にも他の方の目には触れてほしくない。
    僕と彼の交流を知る者は相棒だけでいい。性行為よりも厳かに、淑やかに、そして密やかに交わさなくてはいけないやり取りですから。たとえ、同じ屋根の下に住まう仲間たちといえど知られたくはないんです。記憶や思い出という秘密もまた当人だけで楽しみ、墓石の包装で閉ざされなければならない。

    僕だけの秘密を開ける前に、まずはウィックの前に置いた箱へと手を掛ける。蓋を持ち上げればその下からはメッセージカードが出てきた。

    『ウィックへ、いつも手紙をはこんでくれてありがとう。ウィックも食べられるケーキだから安心してほしい。 アンドルー』

    僕が教えた文字が拙くプレートに踊っている。不安定に揺れた線が執筆の不慣れさと努力を表していてとても可愛らしい。それをウィックに見せれば、相棒はふんふんと鼻を鳴らしてプレートを嗅いでいた。
    箱に収まっているのはそれだけではない、なんとカップケーキまで入っている。メッセージの通り、相棒が食べられる素材を懸命に探してくれたのだろう。日頃からこの子にもよく目をかけてくれている姿を思い出して、つい口が綻んでしまう。

    (よかったですね、ウィック)

    相棒の頭を優しく撫でれば大きく左右に揺れる尾で感情を返してくれる。そして一頻り僕の手を堪能したのち、濡れた鼻先で僕の箱をつんつんとつついた。
    お菓子を食べるなら一緒に、ということなのだろう。僕は頷きをひとつ返すと箱に巻き付くリボンを慎重な手つきで外していく。間違っても破かないように、毀すなんて以ての外だ。
    畳んだリボンを膝の上へ置き、蓋をそっと持ち上げる。内側を暴くこの瞬間、いつも緊張して鼓動が早くなるんです。アンドルーさんのシャツを寛げるときだってそう、僕だけが知っていい"彼"を網膜に刻み付ければ涙すら零れそうになる。
    ──見たいけど見ずに閉ざしておきたい、そんな二律背反を振り切って照明の下に曝す。はたして箱の中には手紙やウィックを模したと思しきチョコレートが6つ詰まっていました。型でくり貫いたであろうそれは少し歪で、チョコペンで描かれた輪郭はメッセージのように震えている。けれどそれが愛おしくて堪らない。

    「んー!」

    嬉しくて思わずウィックに見せると、ぴょんぴょんと跳ねて喜びを共有してくれる。ああ嬉しい、嬉しくて心臓がどうにかなりそう。
    チョコレートに被せられた便箋を手に取る。アンドルーさんはいつも「学が無いから恥ずかしい」「字が汚いから嫌だ」と渋って滅多に手紙を書いてはくれないけれど、今日は綴ってくれた。僕だけのために。その事実が胸の昏いところをじんわりと照らしてくれるんです。
    封を開けて手紙を取り出す、その前に封筒の口へ鼻先を寄せて香りを堪能する。甘いチョコレートに混じるインクとアンドルーさんの匂い、大好き。
    そうして楽しんだあとに、ようやくメッセージカードを封筒から引き抜く。

    『ビクターへ いつもやさしく助けてくれてありがとう。あいしてる。今夜、部屋に行くからかぎをあけておいてくれるとうれしい。 アンドルー』
    (ああ…!僕のアンドルーさん、貴方は本当にいじらしくて健気で可愛い人。愛してる、僕も愛しています。早く貴方に会いたい)

    文字の大きさはばらばら、文も斜め上がり、少々難しい言葉はスペルミスが見られる。でも、だからなんだと言うんでしょう。ここには嘘偽りない僕への愛だけが詰まっているんです。それ以上に必要なものなんてありますか?
    手紙に口付ける、ペンが辿った僅かな凹凸の軌跡をなぞる。今夜部屋に行く、この文字はきっと綴るにあたってすごく緊張したのだろう、他の文字よりも凹んでいることから筆圧がかかったのだと察することができる。
    荘園支給のインクの匂い、でも筆者によって全然香りは違うんですよ。アンドルーさんの手紙からはアイリスの優しさと土の馴染み深さが漂ってくる。これが僕とウィックをひどく安心させるんです。

    (今夜、楽しみだな)

    早くあの太陽が沈んでしまえばいい。月の昇りが彼を導いてくればいい。
    23時の鐘が愛しい恋人を僕のもとへ届けてくれるそのときを、胸を躍らせながら待つのだった。




    🎨⏳


    「バレンタインデー、ね」

    退屈なマップ、退屈なハンター、退屈な試合運び、こんなものに参加するなら一秒でも長くキャンバスに向き合いたいのにこの荘園はそれを邪魔してくる。芸術は時と場所を選んではならない、インスピレーションとは流星のように不意に訪れて瞬く間に去っていくものなんだからその機会を無駄にすることなんてできない。でも参加しないと鬱陶しいペナルティがあるから、貴重な時間を削って渋々出てやっている。
    今日も今日とてそうだった。代わり映えしない待機室ではしゃいでいる女たち、救助職の枠に恋人がいないからますますつまらなかった。ただ少し違ったのは、「バレンタインデーなのー!ハンターさんにもチョコレートを用意したから、受け取ってほしいなの!」と元気に響く庭師の声。
    ハンターは泣き虫、チョコに釣られてまんまと優鬼だ。奴らが遊んでいる間にさっさと五台分の暗号機を解読した僕は、一向にゲートから出ない仲間たちを横目にすぐさま脱出した。もちろん仲間を待機室で待つわけもなく部屋へと戻る、少し足取りが軽いのは筆を握りたい意欲からか──はたまた俗っぽいイベントの熱気にあてられたからか。
    そんなこんなで辿り着いた自室、デスクに載っているのは、部屋を出る前には無かった薄紫色の小さい菓子箱。誰がなんの目的で置いて行ったのかなんてすぐに分かる、僕の部屋に入ることを許可している人物は世界にただ一人しかいない。

    「ふぅん、クッキーね。これ、パレットとキャンバス?っはは、チョコペンで描かれてるのってもしかして僕?」

    箱を開ければメッセージカードと、どう見たって手作りな不格好のクッキーが現れる。パレットを模したらしいチョコチップクッキー、そしてキャンバスを模したらしい正方形のそれには赤いチョコペンを使って何かが描かれていた。よくよく見ると、それは僕だ。ぼっこりと膨らんだベレー帽と顔らしい三本の線でなんとか分かった。
    絵とカウントするにはあまりにも微妙なラインだが、アンドルーが描いたものを初めて見た。上手いかどうかはさておき、僕のために描かれたものだと思うとそれだけで額にでもいれてやりたくなる。
    そもこういった贈り物に評価をつけるなんてナンセンスだ、イベントの趣旨を無視した自己満足な批評は的外れ極まりない。個人の贈り物にまで点数や価値を求めるのはそれこそ三流以下のすることだろう、つまりは僕が大嫌いな有象無象。自らの審美眼が素晴らしいと信じて疑わず、己の知る錆びた物差しで価値を付けることしか知らない無能ども。
    だというのにアンドルーときたら──

    『僕なりに頑張って作ってみたけど、上手にできなくて恥ずかしいから置き逃げさせてくれ。ハッピーバレンタイン。 アンドルー』

    「ああもう!なんなのさ、直接渡せばいいだろ!?興味なんて無かったから知ってるわけないけどさぁ!バレンタインってそういうものじゃないの?」

    置き逃げってなんなんだよ置き逃げって。はしたないけど堪らず叫んでしまう。僕がケチでもつけると思っているんだろうか、それとも言葉通り恥ずかしいだけ?眉根を寄せてメッセージカードを睨みつけるが、当然ながら綴られた文字が形を変えるわけもない。
    アンドルーの素直なところはとても好ましい。かつて周りにいた貴族どもと違って下手なおべっかなんて言えないし、欺瞞にしても諂いにしてもまず嘘を吐くという行為にあまりにも向いていない。話術もまた才能だが、アンドルーはその才能から見放されている。良くも悪くも拙くて研ぎ澄まされてはいない語彙が僕にとっては心地よかった。
    それに、意外と物を教えるという行為は悪くない。さながらまっさらなキャンバスへ色を塗りたくっていくようなものだ、あの白い男を僕の手で染め上げていくのは絵画とは別種の高揚を感じる。
    が、逃げ癖は駄目だ。それは話が別だ、特に今日のようなお誂え向きに恋人と過ごす口実を用意できる日は。バレンタインになんて興味ない、浅ましい情動に脳まで支配された猿たちが浮かれる日だ、アンドルーと付き合い始める前まではそう蔑んでいた。──けどそれはそれ、これはこれだ。だからってアンドルーが僕と顔を合わさないのは違うだろう、僕とあいつの関係なんだ、僕の基準でなにが悪い。有象無象は好きにすればいい、他人の恋路なんて反吐が出る。でもアンドルーは僕のものなんだ、よって一緒に過ごすべきだ。

    「…でなけりゃ、夜を空けておいた僕が馬鹿みたいだろ。意気地なし」

    いつもは筆を握っている時間、それを丸々空白にした理由なんてひとつしかない。言うまでもないことで、それを埋められるのはあいつだけ。
    だから今はクッキーを食べず、メッセージカードも入れて蓋をする。リボンを結び直す。リテイクを突き付けてやるから覚悟しろ、手渡しされなきゃ食べてやらない。
    その前にまずは、自室に引き籠っているであろう恋人を引き摺り出すところからだ。今日ばかりは絵筆に触れることもせず部屋を後にし、恋人が籠城する場へと勇み足で向かったのだった。



    END



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤🍌🍌🙏😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works