【Sleeping Beauty of Blood】
冗談めいた音程で吐露された本音はしかし、実の所酷く辟易していた。
「意識障害…?」
食堂での邂逅に今朝の澄野は幾らか安堵の表情を浮かべて、良い医者でも見つけたと言いたげだった。千手観音の有難いブレックファストに肖り作業めいた咀嚼を繰り返しながらの単刀直入。
「ああ、どうもそうみたいなんだ。お前なら何か良い薬でも知ってると思って」
「意識障害に効く薬は無いしキミの場合心療内科の方面だろう。先ずは問診からだね…といっても今の状況なら誰だって病の一つや二つ抱えたくもなるだろうけど」
百日の防衛戦に加えての連続殺人、犯人は未だ行方不明、対策を講じる術もない。齢十七に課せるにはあまりにも酷なシチュエーションばかり。過去から戻ったと謂う澄野も精神は強く持てど躰は正直だった。面影はふむ、と顎をさすりここ数日の記憶を手繰る。傍目にはさして変わりないように見えるが全く気にならなかったと言えば嘘になる。覚えがあるのだ。少人数の班に分かれて熟す学園生活。数日前に澄野と組んだ九十九兄妹がたった数刻の間に二つの異なる場所で澄野を見かけたと騒いでいたのだ。当の本人が其れを全く覚えていなかったと言うのも聞いている。件の話題を今一度澄野に振ってみたが結果は同じだった。
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