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    あきうお

    おすすめ避けでいかがわしくなくてもワンクッション挟んでます。

    普段はマストドンにいる
    https://fedibird.com/@sakana080

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    あきうお

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    同棲マヨ巽

    「マヨイさん、俺たちでルームシェアをしませんか?」
     きっかけは巽のその一言だった。それなりの活動期間になり、後輩も増え、そろそろ寮を出ても良い頃かも知れませんね、なんて話をしていた時の何気ない提案だ。
    「ええっ! ど、どどどっ……同棲、ですかあ!?」
    「おや、きみが身構えてしまうと思ってあえてその言葉は避けたんですけど」
     真っ赤になってどもるマヨイに、巽はくすりと苦笑した。
     アイドルとしての歴が長い、という事は、つまり巽とマヨイが恋人となってからも長いという事だ。まだALKALOIDがユニットとしての地盤を固める前、いつクビになるかと戦々恐々としていた頃からの仲なのだ。そう考えると、もう随分と経つ。
     自分たちはアイドルで、それを思えば結婚……なんて関係はまだ暫くは先の事に思えたけれど、一緒に暮らすという事を考えた事が無いわけではない。もうすっかり慣れているとは言っても、寮生活をしていては二人だけの甘い時間を過ごす事もなかなかに難しいのだから。
    「俺はけっこう本気なんですが。マヨイさんは気が進みませんか?」
     冗談めかしていた巽だが、軽い口振りながらその目には本気が窺えた。まるでプロポーズのように手を取られて、マヨイは胸がドキドキと鼓動を早めたまま止まらなかった。
     素直に嬉しい、とそう思った。
    「ふ、ふつつか者ではありますが……!」
     心臓の鼓動に耐えられずにぎゅっと目を瞑ったマヨイだったが、その閉じた瞼の目の前では、巽が全てを照らさんばかりの満面の笑顔になっていた。

    ***

     表向きにはルームシェアという名の同棲が決定してから引っ越し先の新居を決めるまではそう時間は掛からなかった。巽がそれほど住まいにこだわりが無かったのと、二人とも少しでも早く一緒に暮らしたいと早る気持ちがあったからだ。引っ越しの日程も、二人のスケジュールを確認しながら最短で調整した。どれだけ急いているのだろうと、自分達でもおかしくなってしまったくらいだ。
     そして、引っ越しの当日。荷物を運び入れた部屋の中には段ボール箱が雑多に積み重なっていた。
    「マヨイさん、この荷物はこちらで良かったですかな?」
    「あっ、はいぃ。その辺に置いて頂ければと……と言うか、私の方は良いですから、巽さんもご自身のお片付けをして頂いても大丈夫ですよ?」
    「どうせ俺の方はそんなに量もありませんし、手伝わせてください」
    「うう、私ばかり荷物が多くてすみませぇえんっ。ありがとうございますうぅ……」
     そんな会話をしながら、荷物を共有品と各自の物とに分けて、それぞれの部屋へと運び込む。その作業の中で、荷物を運ぶ巽が足元のゆく手を阻む段ボール箱を適当に脚で退かす姿がたびたびマヨイの目に入った。
    ( 巽さん……意外と粗雑なんですねえ…… )
     改めて目にするパートナーの意外な一面はちょっぴり面白い発見に思われた。出会った当初、寮で同室になった事はあったけれど、あの頃はまだ遠慮も多かったから知らない事も、逆に見せていない事もあるだろう。これから一緒に暮らせばこんな発見が毎日あるのかも知れないと、今からわくわくと胸が躍る。
     そして、夜。まだ室内には未開封の箱を積んだまま、マヨイはベッドの中に入った。同じく、隣の部屋で就寝したであろう巽のことを思って、すぐそばに彼がいる事実にこそばゆくなりながら眠りに落ちた。

     同居を始めてからはあっという間だ。
     気付けば一ヶ月が経ち、お互いが同じ空間で長く過ごす事にも設備を共有する事にもすっかり慣れた。お互いが一緒に暮らしている事が当たり前のようになっていく。
     朝、自室を出てまだ寝癖のついたままの髪で挨拶を交わし、夜はパジャマ姿で一緒にゆっくりとした時間を過ごしてから「おやすみなさい」と交わし合ってそれぞれの部屋へと寝に入る。
     同居を始めて数日はそんなたわいのない事が嬉しくて、とてもくすぐったい気持ちになった。
     そして、今。そんな日常化した流れがマヨイの悩みと化していた。
    ( はあ……また何も言えずに終わってしまいました…… )
     巽と夜の挨拶を交わして自室のドアを後ろ手に閉じた後、マヨイはがっくりと肩を落として項垂れた。のろのろと無気力にベッドまで歩いて、そのままヤケになって布団の上へとダイブする。ベッドのそばに置いているぬいぐるみを抱き寄せて、右に左にごろごろと寝返りを打った。
     マヨイと巽は一緒に暮らすにあたって、それぞれの部屋を分ける事にした。巽は相変わらず持ち物が少ないのに対して、マヨイは物を集めがちで部屋を一緒にするには申し訳なかったからだ。それに加えて、アイドルとしての活動の幅が増えた今ではそれぞれが個々に仕事を受ける事も増え、日によっては帰宅時間が遅くなることもあった。だから、お互いの生活を考えて自室兼寝室は分ける事にしたのだが……今となっては、それは大きな失敗だったのではないかとマヨイは思う。
    ( お引っ越しをしてから、巽さんとは毎日一緒にいられるのに……もうずうぅっっと! 触れ合いがありません‼︎ )
     ここで言う『触れ合い』は夜の事だ。
     朝はむしろ、巽がいわゆる「行ってきますのキス」を求めるようになって、照れ臭いながら家を出る前にそうするのがすっかり習慣化してしまった。二人だけの家では人目を憚らずにできるからとは言え、巽は割とベタで古風な事を好む節がある。
     しかし、夜は全く何も無いのである。一緒に住めばそこはもう二人だけの城。今までと違って、同室者や寮生の目を気にしてこそこそとする必要も無い。だからこそ、マヨイは一緒に生活を共にすれば、自然と夜の生活も今まで以上に充実するに違いないと思っていた。思っていたのに、現実のなんと酷いことか。
    ( これからは、えっ、えっちな事も……っ毎日だってできると思っていたのに! まさか、まさかこんなにタイミングが掴めないだなんて思いませんでしたぁ……っ )
     これまでは、別々に生活をしていたからこそ、二人きりになる日には『そういうこと』もするのが暗黙の了解となっていた。直接的に誘わずとも、二人で過ごせば自然とそういう流れができていた。
     ところが同居を始めた今となっては、二人でいるのは当たり前で、開始当初に部屋の散らかりや片付けを理由にそういうことを後に後にと先延ばしにしているうちに、ついには完全に言い出し難くなってしまった。
    ( 巽さんは平気なんでしょうか……きっとそうなんですよね、巽さんは一緒にいられるだけであんなに幸せそうで。巽さんはあんなにも清らかですのに……せっかく一緒にいられても、こんな風にいやらしい事ばかり考えてしまう自分が嫌になりますうぅ…… )
     素直に夜の営みがしたいのだと言えば巽は快く受け入れてくれるだろう。けれども、今更ながらに夜のお誘いをする事がマヨイにとってはどうにも恥ずかしくなってしまっていた。何と言って、寝室に入ろうとする巽を引き止めれば良いのかも分からないのだ。
     悶々としたまま寝室に入り、やり場のない欲求は一人寂しく発散した。発散した、などと言っても、結局は発散できていないからこうして日々、悶々としている。今だってそろそろ溜まった鬱憤と欲求不満とで、半身が落ち着かない。
    「はぁ……情けないですねえぇ……」
     ひとりごちて、マヨイはそろりと自身のパジャマのズボンへと手を伸ばした。自身を慰めようと下着の中へと手のひらを潜らせようとした、その時だった。

     コンコン。

     突然、マヨイの部屋の戸がノックされた。タイミングがタイミングなだけに、マヨイは心臓が止まりそうなくらいに驚き、慌てて飛び起きた。
    「はっ! はいいいッ‼︎」
     裏返りそうな声で勢いよく返事をすると、ガチャリとノブが下りて遠慮がちに巽が顔を覗かせた。
    「起こしてしまいましたかな? ごめんなさい。……中に入っても……?」
    「はっはいぃ! まだ寝てはいませんでしたのでぇっ、ええと、何もない部屋ですけどご遠慮なく⁉︎」
    「ありがとう。では、失礼しますな」
     招き入れた巽をどうしようかとおろおろしているマヨイにくすりと笑いながら、巽は躊躇なくベッドのふちに腰掛ける。すぐ隣にやって来た巽にヒィと小さく鳴いたマヨイは、まだ心臓がバクバクとしたままだ。自慰をしようとしていた事がバレていたら、一人やましい事を考えていた事がバレていたらどうしようと思考はますます混乱していた。
    「ええっと、巽さんは何かご用が? いつもでしたら、もうお休みになられる時間ですよね?」
     と言うか、さっき「おやすみなさい」をしたばかりだ。
    「ご用……ふむ、きみと話をするのに用が無くてはいけませんか? いえ、すみませんな。用、はあるんですけど。ううむ……どうも上手くいきません」
    「……?」
     ふるふると頭を振って自省している様子の巽にマヨイはキョトンとした。それから、落ち着かない様子の巽を見ているうちに冷静さを取り戻すと、もしかして……とほんのりと期待を抱き始める。
     もしかして、巽もマヨイと同じなのではないか?
     そう思い至って、胸がそわりとする。ほんのりと期待に頬が染まり、マヨイのわかりやすい反応に巽も恥ずかしそうに微笑んだ。
    「ああ、マヨイさんにはわかってしまったようですな。恥ずかしながら、夜這い……と言いますか」
     聞いているマヨイの顔がますます赤くなっていく。それから瞳が「待て」をされている犬のように爛々と輝きを増していた。巽はそんなマヨイを愛らしいと感じ、同時に断られる事はないのだと安心した。
    「マヨイさん。久しぶりに、しませんか?」
     巽がほんの少し、マヨイの方へと身体を前のめりにしてはっきりと口にした。マヨイはその言葉を噛み締めるように反芻する。
    「〜〜〜〜〜ッ、ぜひっ! 喜んでえええッッ‼︎」

     巽とマヨイが身体を重ねるのは一ヶ月と何日かぶりだ。それ自体は、お互いに忙しければ間が空くことはいくらでもあったから初めて事でもなかったけれど、同居を始めてからの一ヶ月はやけに長く感じられた。それはマヨイだけではなく、巽にもそうだった。言い出せずに悶々とした日々を過ごしていたのはお互い様だったのだ。
    「あうう……いつもいつも、巽さんにばかり言わせてしまってすみませぇええん」
     マヨイがただでさえ下がった眉をますますハの字にして謝った。
    「ふふ、きみが恥ずかしがり屋さんなのは知ってますから、これくらいは俺に言わせて下さい。と言っても、俺も待たせてしまいましたけど。すみませんな」
     申し訳なさそうな顔をしているマヨイの眉間に巽が小さくキスをする。目尻に、頬に、それから口元のホクロにと巽が軽いリップ音を鳴らして唇を落としていくと、今度はマヨイがゆっくりと巽の身体をベッドの上へと押し倒した。巽の頭が柔らかな枕の上へと着地したのを確認して、柔く唇同士を重ね合う。
     マヨイが巽にされたように、顔から辿って首筋までキスを落とすと、巽はくすぐったそうに身を捩った。マヨイは顔を上げて上体を起こすと、目の前の巽の姿にどきりと胸が疼くのを感じた。
    「パジャマ姿の巽さん……だなんて、もう見慣れたと思っていたんですけど。なんだかとても新鮮ですねぇ」
    「そうですか? ふふ、言われてみればそうかも知れませんな。パジャマを着たマヨイさんに押し倒されるなんて、俺も初めてですし。確かにいつもより少し、あどけなさが愛らしいですな」
    「私のことは良いんですよぉ……! あぁあ、私達、本当に一緒に暮らしているんですねぇえ」
    「なんですか、今さら……んっ!」
     マヨイが再び巽の肩口に顔を埋めて、その存在を確かめるように匂いを嗅いだ。薄っすらとシャンプーの香りと、巽自身の心落ち着く匂いがする。
     寮生活をしていた頃は、こっそりと逢瀬を重ねる時も部屋を抜け出すためにいつもジャージや普段着を纏っていた。デートで出先に行った時もそうだ。だから、こんな風に完全な寝巻き姿でなんてした事はないし、その『初めて』にやけに気持ちが昂ぶった。
     マヨイのしなやかな指先がぷつりぷつりと丁寧に巽のパジャマのボタンを外して、露わになった肩口へと吸い付いた。びくりと反応する巽の身体は、以前に比べて少し硬っているようにも感じられる。
    「巽さん、少し緊張なさってます……?」
     マヨイが巽の胸の上に手のひらを滑らせながら巽の顔色を窺った。
    「緊張……と、言うよりは期待、でしょうか。久しぶりにマヨイさんと触れ合えるので、俺もドキドキしてしまって」
     言いながら、巽もマヨイのパジャマへと手を伸ばす。巽の指によってマヨイのパジャマの一つ目のボタンが外されて、その指が一つ下へと移動する。同時に、巽がマヨイへと目配せすると、口付けを求めて瞳を閉じた。
    「今日はたくさん、俺をきみで満たしてくださいね」





     同居してから初めての同衾を迎えた翌日は、マヨイは一日中、気分が満たされていた。
     朝、目が覚めると目の前には巽がいて、にこにことマヨイの事を見つめていた。相変わらず寝起きの早い巽より先に目覚めることは難しい。それでも、今は早朝からわざわざ離れた水場まで赴く事も無くなった巽は、マヨイの隣にいてくれた。温かな体温を感じながら目覚める朝は、それだけでマヨイを幸せな気分にさせるのだった。
     この新居に移って初めての一夜の後はなんだか初心に戻ったように照れ臭く、甘酸っぱい感覚にさせられる。家を出る際の恒例のキスでも、今日の巽はいつもに比べてほんの少し、照れがあった。「では、行きましょうか」と背を向けた彼の耳がほんのり色付いていたのをマヨイは見逃さなかった。
     そうして夜、マヨイは自室のベッドに寝そべって、再び昨夜のできごとに浸っていた。このベッドで巽と……と、そう思い出しただけで顔が緩んでニヤついた。
     巽とはとても甘い一夜を過ごした。一月以上の時間を空けた巽の身体は思い過ごしではなく固くなっていた。それを丁寧にじっくり解きほぐす手間もマヨイにとっては至福のひと時で、そうしてマヨイに施されるほどに巽もまたどろどろと蕩けていき……それが昨夜、ここで、あったのだ。
    「うふっ、うふふふふふっ!」
     抑えきれずに、マヨイが声に出して笑う。衝動的にベッドの上で手足をばたつかせると、反動を受けてスプリングがギシギシと大きく音を立てた。
     ごろごろとベッドの上を転がり、身悶えしていると、ガチャリと部屋のドアが開いた。
    「マヨイさん? 何やらドタバタされているようですが……大丈夫ですか?」
     ピタリと動きを止めて部屋の入り口の方を見やると、やや眠たそうに寝ぼけ眼を擦る巽がいた。
    「うひっ! あっ、えっと、何でもありませぇん! うるさくしてしまってごめんなさあぁい……っ」
    「そうですか。なら良いのですが……明日も仕事ですし、あまり遅くならないようにして下さいね。おやすみなさい、マヨイさん」
    「はぁい。おやすみなさい、巽さん……」
     ふあぁふ、と欠伸をする巽をマヨイは手をひらひらと振って見送った。パタンとドアが閉じられてから、マヨイは大きく息を吐いて再びぼすりとベッドの上に身体を倒した。シーツに沈めた鼻ですううっと大きく息を吸う。
    ( 巽さんの匂い……消える頃にはまたここで……♡ )
     今度は音を立てないように静かに身悶え、声を殺してくふくふと笑った。昨晩を迎えるまではあれほど寂しかったこのベッドは、すっかりマヨイの中では様変わりしていた。
     巽とは『寝室は一緒にしましょうか』なんて話もしたけれど、こうして自身のベッドに特別な感慨を抱けるうちには、もう少しだけこのままでいたいともマヨイは思う。次の夜はまた巽を自室に招くのか、それとも、マヨイが巽の部屋に赴くのも良いかも知れない。マヨイは巽の残り香を感じながら、次の『お楽しみ』に胸を膨らませて、まだすぐには眠れなさそうな気分のまま布団の中に潜り込むのだった。
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