色欲の吸血鬼 後編「お手をどうぞ、姫君」
「俺は姫じゃねぇ」
竜馬は、女たちの代わりになる選択肢をした。
吸血鬼の男が手を振ると、女たちは皆我に返った。そして、脇目も振らずに屋敷を飛び出していく。
依頼人の男には護衛というか、女たちが安全に戻れるようにと頼んだ。自分一人の犠牲で、これだけの人数が助かるなら、それでいい。反撃の機会はいつでも狙えるので問題はない。
「そういえば名前を教えていなかったな。俺は隼人。お前は?」
言いたくなくて口をつぐんだ。しかし、隼人の目を見ると、自然と口が開く。
「りょ、うま」
「竜馬、か。俺のところに来てくれて嬉しいよ」
そう言って、そっと抱きしめてくる。
そのままその長い牙を突き立てられた。思わず顔を歪めると、後ろ髪をそっと撫でられる。
「ううっ」
ちゅるちゅると血が吸われていく。その感覚に恐怖を覚えると、また髪を撫でてくる。
「やめ」
そう言いそうになったタイミングで口を離された。
「よく耐えたな。いい子だ………ご褒美をあげよう」
そう囁かれると、顎を掴まれる。抵抗できずにいると、ポカンと開いた口に舌を入れられた。まさかディープキスか、と身構えていると、何やら液体のようなものが流し込まれた。
いや、ただの液体じゃない。これは、何度も味わった、
「んむーっ!んー!」
「暴れるな。飲み込むんだ」
吐き出そうとしても、隼人が口を塞いでくる。
そう、それは血液だった。
吸血鬼の血液が体内に入ればどうなるか、竜馬は知っている。
「嫌だ!やめろ!眷属になんてなりたくねぇ!」
「俺とともにいてくれるんだろう?」
そう問答をしている間に、ごくん、と喉が鳴った。「さあ、姫君は眠る時間だ」
竜馬はフラフラとし始めた。隼人にお姫様抱っこされても抵抗しなくなっていた。
「起きたら何もかも忘れているさ。おやすみ、竜馬」
吸血鬼は高らかに、邪悪に笑った。