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    PA___SaRa

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    遅刻した🐯誕生日ネタのトウ虎です
    まだ3月だからセーフだと思いたい

    夜に行く列車に乗って 収録を終えて、スタジオ近くの駅のコインロッカーに預けていた荷物を回収すると、狗丸トウマは御堂虎於の手を取って改札を抜け、寝台特急の乗り換え駅行きの電車に飛び乗った。
     時刻は夜になり、電車の窓から見える景色には鮮やかな照明が灯っている。車内ではまだ人の数が多い。周囲を気にせずに話してしまえば、きっと自分たちがアイドル――ŹOOĻの狗丸トウマと御堂虎於である事がバレてしまう。そのため、二人の間には会話はなく、話したいことはラビチャを使用して会話をした。
    『眠い?』
    『眠くはない。それより水を買い忘れた』
    『特急乗る前になんか買っておくか。長旅になるみたいだし』
    『そうだな』
     スマートフォンを介して会話をする二人の間には静寂が漂い、二人がかの有名なアイドルだと気付く乗客は誰もいない。直接会話をしなくて正解のようだった。
     トウマと虎於は忙しい日々を過ごし、三日間の纏まった休みを二人で得ることが出来た。前もって纏まった休みが欲しい、とマネージャーである宇都木士郎に相談し、スケジュールが前倒しになると言われ、もぎ取った休みだ。その所為なのか虎於の目元にはうっすらとしたクマがある。
     楽屋やロケバスでも何処でも寝られるトウマとは違い、虎於は寝具の上でしか熟睡する事ができない。忙しい日々の中、その都度仮眠を取るのが難しい体質である虎於の睡眠時間は、圧倒的に足りていないと言えた。
    『特急乗れれば寝れるからさ。もうちょっと辛抱な?』
     スマートフォンの画面から視線を外してトウマがラビチャ相手を見ると、虎於と目線が合った。どうやら虎於もトウマを見ていたらしい。少し驚いた表情からふわりと柔らかな笑みを浮かべた虎於に、トウマはえも言われぬ感情を抱いた。
     タイミングよく電車が目的の駅に着く。「降りるぞ」と一言発し、トウマは電車に乗った時と同じように虎於の手を取って電車を降りた。飲食物を買い込んで他愛ない話をしながら移動をする。人波を抜けて目指すのは寝台特急のホームだ。
     特急列車はもう既にホームに着いており、二人は急いで列車に乗り込んで自分達の客室に入った。軽く荷物を整理し終わると、トウマはシャワーカードを買ってくると言い部屋を出ていく。部屋に残った虎於はツインの片割れのベッドに座りながら、窓から覗くホームを見た。
     二人の休みが被りどこかに出掛けることは幾度とあったが、纏まった休みをお互いに取り旅行に出掛けるのは、初めてのことであった。希望した日付は年度末も近く、飛ぶ鳥を落とす勢いの二人のオフを合わせるのは大層難しかっただろう。虎於はここにはいない有能なマネージャーに思いを馳せた。
     宇都木やŹOOĻのメンバーである亥清悠と棗巳波は、トウマと虎於が恋人同士である事は知っている。付き合うとなった時、三人には伝えておきたい、とトウマが願ったからだ。最初、虎於はメンバーとマネージャーにトウマとの関係を伝える事を嫌がったが、紆余曲折を経て二人で三人に交際宣言をした。そのおかげか、二人のオフ日はなるべく揃って――今回のように年度末やツアー中など難しいシーズンもあるが、取れるように手配してくれるようになった。
     ぼぉっとホームを見ているとトウマの声が聞こえた気がした。扉へと目を向けるとシャワーカードを買いに行っていたトウマが帰ってきており、車掌が切符を切りに来ていると言いながら部屋の中に入ってくる。
    「切符切って貰うのって中々なくね? テンション上がるなぁ」
    「たしかに」
     車掌に二人分の切符を切って貰い、買ってきたシャワーカードをテーブルの上に置いて、トウマは空いている窓側のベッドに腰を下ろした。シャワーカードは二枚あり、無事に二人分の枚数を買えたようだった。
    「これシャワーカードな。六分間しかないから気を付けろよ」
    「六分で全身洗うのは無理だ」
    「シャワー使ってない時は時間止められるから大丈夫だよ。でも、ちんたらしてると六分なんてすぐ経っちまうな」
     昔から長距離の移動には新幹線や飛行機しか乗って来なかった虎於からすると、寝台特急という存在は不思議なものであった。祖父達の会話の中で、夜行列車の話はよく聞いていた。かの有名な海外ミステリの題材でもあった為、名前とぼんやりとした列車の内容は知っている。しかし、この現代においてわざわざ時間を掛けて、ましてやシャワーの時間が短いという面倒さを取ってまで乗るべき利点が、虎於には皆目見当もつかなかった。
    「てっきりトラみたいな家って家族総出でこういう列車乗ってそうだなって思ってたけど、ちげぇの?」
    「乗ったことはないな。忙しい人達だったから、行ける旅行も飛行機ばかりだった」
    「マジ? なら俺がトラの初めての相手じゃん。出雲まで楽しもうな」
     出発時刻になったのだろう。ホームには乗り込んだ寝台特急の発車アナウンスが響いている。行先は島根県は出雲市。虎於の誕生日も兼ねて、二人は泊りがけの旅行に行く。
     滑るようにして列車は走り出す。トウマ越しに見えるホームは、二人が列車に乗り込んだ時よりも人影が少なくなっていた。二人の客室は一階室にあり、窓から見える景色はホーム床に近い視線となる。新幹線や都内を走る電車では見られない視界に、虎於の胸の内は好奇心で満たされ始めていた。
    「床が近いな。面白い」
    「グリーン車とか乗らねぇの? あぁ、新幹線に乗るからグリーン車は乗った事ないのか」
     トウマがそう聞くと虎於は肯定として頷く。どうやら虎於の実家では普通列車に乗るような区画でも、新幹線があるのならばそちらを選んでいたようであった。スケールの違いに驚くことはもう無いだろう、と思っていたが、まだ驚くポイントがあったのか。とトウマは新鮮な気持ちになった。
    「じゃあさ、今度は熱海とかに行かね? グリーン車でゆっくり行こうぜ」
    「旅行は始まったばかりなのに、もう次の予定を立てるのか?」
    「いいじゃん。楽しみは沢山用意しておくもんだよ」
     そう言うとトウマはスマートフォンで東京駅発の熱海行きの電車を調べ始めた。寝台特急は関東を抜けるどころか未だ横浜駅にも着いていない。東京駅を出て、煌びやかな都内を走っている。
     トウマに向けていた視線を虎於は外へと戻す。段々と少なくなってくるビル群を抜けて、列車は東京を出ようとしていた。
    「熱海にはトラんところのホテルってあんの?」
     トウマからそう聞かれると、虎於はあるぞ、と答えた。
    「客室の数を絞ったホテルがある。密会にはぴったりの部屋があるな」
    「おま、密会って……うん、まぁ、そうなんだけどさ。なんかトラん家のホテルを使うのってビビっちまうんだよなあ」
     変な遠慮しないで気楽に泊まりたいじゃん? と言いながら立地の良い、けれども御堂グループではないホテルをトウマは探す。実家のホテルに泊まる事も、なんなら泊まったホテルでの性行為も気にしない虎於からすると、トウマがそういった点を気にするのがほんの少し可笑しく思えた。
    「はは。変なところを気にするんだな」
    「だってさぁ。広い意味で言ったらトラの実家みたいなもんじゃん? 恋人の実家でえっちすんの、ちょっと恥ずかしいし……」
     誰もいない訳じゃないし、トラが泊まると支配人さんとか挨拶に出て来るし……。と口をもごもごさせる姿を見て、確かに……と虎於は納得した。家族がいる中で恋人の実家での性行為は、確かに気恥ずかしい。今回の旅行で泊まるホテルを実家所有の物ではなく、別のホテルにしたことを今更ながら英断だと思った。
     気の早い熱海旅行と今回の旅行で行きたい所を二人は話し合う。途切れぬ会話は時間を忘れさせ、列車は静岡をも脱しようとしていた。
     夜半過ぎの列車には静けさだけが漂っている。急いでシャワーを済ませ、二人は寝間着に着替えて布団へと潜り込んだ。
    「そう言えばさ。出雲に着いたら願掛けで神社に行きたいって言ったじゃん?」
     どんな所ででも寝られるトウマであったが、今回ばかりは興奮で寝付けなかったのだろう。お互いに寝ようとして三十分ほど経ったであろう頃に声を掛けてきた。心地よい微睡みの中列車の振動を感じていた虎於は、薄っすらと目を開けてトウマに視線を向ける。
    「……いってたな」
    「わりぃ。寝てた?」
    「いや、ねてなかった」
    「嘘つけ。声が寝てる」
     短い問答を交わすとトウマは何も話さなくなった。虎於はトウマが何を話そうとしたのかが気になってしまい、どこかへ行ってしまった睡魔を呼び戻せずにいた。
    「……途中で話を止めるな。神社がどうしたんだ?」
    「あー、眠そうな声だったから黙ってればまた寝れるかな? って思ってさ。でも完全に起こしちまったな……」
    「気にするな。まだ時間はあるからゆっくりこの後寝るさ。そのかわり、いい頃合いになったら起こせよ?」
     それで、神社がどうしたんだ? と、虎於が尋ねると、トウマは妙にハッキリしない口振りでぼそりぼそりと話し出した。
    「トラがシャワー行ってる間に調べてたんだけど、行こうとしてた神社がさ、カップルで行くと別れちまうって噂があるみたいでよ。迷信だとは思うんだけど……せっかくトラとの旅行なのにそれが原因で何かあったらイヤだなぁって……」
    「っふ、ふふ、あはは。願掛けしに行く予定なのに、迷信で悩むのか。はは!」
     予想していた内容よりも思いの外空想的な内容だったため、虎於は深夜を過ぎた時間なのに小声ながらも笑い声を上げてしまった。まさか声を上げてまで笑われると思っていなかったトウマは口を尖らせ、不服さを隠さずに露わにした。
    「そんなに笑うことなくね?」
    「ふふ、悪い、悪かった……ははっ。トウマはそういったものは気にしないと思っていたから」
    「結構気にするぞ? 朝のニュースで自分の星座の運勢がよかったら、一日嬉しくなる位には気にしてる」
    「最下位だった場合は?」
    「星座占いなんて嘘っぱちだよ」
    「あはは!」
     良い運勢は信じ、悪い運勢は信じない、という都合のいい使い方がなんだかトウマらしく思えて、虎於は胸の内が温かくなるのを感じた。肩を震わせながら笑うその姿を見たトウマもまた、心が愛おしさで満たされていく。
     迷信だとはいえ、気になるようであれば別のところへ行こう。と言う虎於の提案により、参拝は取り止めて別の場所へ行く事となった。流石に寝ようとしている時にスマートフォンを使うのはよくない為、明日起きてから行きたい所をリストアップしようと二人は話す。
     たかが迷信で自分達の関係性が崩れるとは思っていないが、そういう小さな点でも気に掛けてくれるトウマが安心して楽しく満喫できる旅行にしたい、そう虎於は思った。時期が時期だが、もしかしたら梅の花がまだ咲いているかもしれない。梅が有名なところへ行くのもいい。あとはメンバーとマネージャーの為に土産を買いたがるだろうから、物産店などに寄るのもいいだろう。
    「……なぁ、トラ。そっち、行ってもいい?」
     再び訪れた眠気の中行きたい所をリストアップしていると、トウマがおずおずといった様子で声を掛けてきた。
    「なんだ? 流石にもう寝かせてくれ……」
    「……起こしたいわけじゃないんだけどよ。トラと一緒の布団で寝たいなーって……」
     ぽつりぽつりとつぶやくように話す声は、列車の振動音に負けそうなくらい小さなものなのに、虎於の耳にはクリアな音で入ってくる。 
    「いや無理だろ。寝台が小さすぎる」
    「詰めれば行けそうじゃね?」
    「自分と俺の体格を考えろ。……ホテルに着いたらな……」
    「へへ。夜はトラのこと、抱き締めて寝るわ」
     ホテルに着いた後なら良い、と虎於から言われて満足したらしいトウマから、ゆっくりとした寝息が聞こえてくる。空調が効いており寒くはない客室だが、いつもなら隣りにある体温がないだけで、微かな寂しさを感じていたのだろう。夜の楽しみを胸にして、トウマは寝入ってしまった。
     ようやくゆっくり寝られる。と一つ溜め息を溢し、虎於は眠りについたトウマを見る。日中や仕事中での鋭い眼差しは閉じられ、幼さを感じられる寝顔がそこにはあった。泊まるホテルでの撮影もある宿泊ロケやツアー中――他のメンバーも同室にいる中での寝顔とは違う、虎於だけが見られる無防備な寝姿。
     いい誕生日プレゼントを貰ったな。そう思いながら虎於の意識は夜に溶けていった。
     

     不規則な光が瞼を叩く刺激で虎於は目を覚ました。
     トウマが客室の電気をつけたのだろうか、と薄目を開けて辺りを見回す。客室の電気はつけられておらず、光の正体は開けられた窓カーテンから覗く朝日であった。光の侵入が不規則だったのは、木々や建物に太陽が遮られたからなのだろう。
     早めに起きたのであろうトウマは寝台の上に胡座をかき、外の景色を見ていた。寝間着を着替えていないし、なんなら寝癖だって直っていない。起きてからそう時間は経っていないようだった。
    「と……ま……」
     虎於の口から出たのは、寝起きの掠れた声だった。あまりにも掠れすぎていて、自分でも笑ってしまいそうになる。空調が効いている分、空気が乾燥していたのだろう。枕元近くのテーブルに置いたペットボトルの水を視線だけで探す虎於に気付いたトウマは、足を崩して彼が探していたボトルを手に取り、虎於に渡した。
    「おはよ。声、カッサカサだ。マスク着けとけばよかったな」
    「……ん。大丈夫だ……すぐ治る」
     虎於は上体を起こし、渡されたボトルを受け取ってカラカラに乾いた喉を潤した。ほんの少し、生き返ったような気がした。
    「すげぇ美味そうに飲むじゃん」
    「こんなに車内が乾燥するとは思わなかった」
    「それは俺も思った」
     トウマはそう言い、前もって買っておいた缶コーヒーを口にした。常温で置いておいた為、温度がぬるくなってしまい「駅に着いたら温かいヤツが飲みてぇ」と独りごちる。
    「外の景色を見ていたのか?」
     虎於は尋ねた。
    「そう。丁度目が覚めちまって。降りる時間までまだ余裕あるけど、寝台特急で見る景色って初めてだからさ。トラも見る?」
     こっちに座って一緒に見ようぜ。そう言ってトウマは自分の寝台を軽く叩いた。虎於は誘われるがままにトウマの隣に座り、流れゆく景色に目を向ける。都心を走る車両から見えるものとはまるで違う風景が、目の前に広がっていた。
     広く拓けた場所だ。
     沢山の驚きや愉しさ、色々な物をかき集めて一つの煌びやかな箱に敷き詰めた都心とは違った、シンプルさがあり長閑でもあり、そして温かみをも感じる景色だ。
    「綺麗だ……」
    「そうだな」
     感銘を受け思わずといった様子で虎於が言葉を溢すと、トウマはその一言に賛同した。車窓を流れる風景はどこを切り取っても美術作品の様で、楚々とした風情が感じられる。この列車で、この時間でしか見ることが出来ない、一等品の景色だ。
     くあり、と虎於は一つ欠伸をする。規則正しい振動音と地方特有の景色も相まって、再び眠気に襲われたのだろう。どうやら虎於自身が思っていた以上に、過酷な仕事の日々は体力を消耗させており、見ていた景色はリラックス効果があったようだ。
    「……眠い……」
    「あと三時間くらい余裕あるから寝てるか?」
    「…………そうする」
     もう一歩も動けないほどの眠気に襲われた虎於はトウマの肩に頭を乗せ、体の力を抜いて寄り掛かろうとする。ずるずると虎於の体はズレ落ちて行き、最終的にはトウマの胡座をかきなおした腿の上に、頭を置く形になった。いわゆる膝枕の形である。
    「おい。重いって。自分の布団に戻れよ」
    「……無理だ。自分のベッドに戻れないくらい眠い……」
    「はぁ? ったく、しょうがねぇなぁ」
     枕から感じる人肌の温かさは、虎於が思っていた以上に睡魔を呼び込んでいる。指一本さえも動かせられないほどの眠気に従う気持ちよさに、下りてしまった瞼を開けることは出来ない。
     デカい猫みたいだな、と嬉しそうにトウマは笑う。下ろしたままの虎於の足を寝台の上に上げさせ、端に除け置いていた掛け布団を寝ている大きな猫に掛けた。
     普段と違うシャンプーを使った為に、微かに手触りが硬くなったロージーブラウンの髪を撫でる。この旅行の為に、虎於はタイトなスケジュールをこなしてきているのだ。頭を撫でるその手は優しく、慈愛に満ちている。
     よく頑張ったな、と小さく呟くとトウマは外の景色に目を向けた。次の停車駅に着く頃には時間も通勤帯となり、カーテンを開けたままでいると他の乗客から自分達が気付かれてしまう。それに、せっかくまた寝た虎於を日の光で起こしてしまうのは忍びない。トウマは開けていたカーテンを閉めて、人の目も朝日も入らないようにする。
     終着駅まで枕にされている自分の足は痺れずにいられるのだろうか、と一抹の不安を覚えながらも、あどけなさを感じる寝息を聞いている内に、まぁなんとかなるだろう、と楽観的に考えてしまう。
     柔らかな空気が、ただただそこに溢れていた。
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