砂糖はなくても構わない 恥ずかしげもなくパンツ一枚で早朝のベランダに立つ兄を見て、凛は真っ先にこの人の中には羞恥や情緒というものがないのか、と思った。
昨晩、初めて身体を繋げたというのに起きたら隣に兄がいないものだから寝起きで靄がかかっていた頭も一瞬で冴えてしまった。ベッドから飛び起きてリビングへと向かえば、そこには呑気にベランダに立っている兄の姿。はぁ、と兄にはバレないように小さく安堵のため息をついた。
「おはよ、兄ちゃん」
「おう」
兄はこちらに見向きもせず、ただ青とオレンジのグラデーションがかかった空を眺めていた。兄の背中は色濃く情事の跡を残しており、昨晩の出来事を思い出させる。
「コーヒー飲む?」
「あぁ」
気恥ずかしくて見ていられず、誤魔化すようにキッチンへと足を運んだ。凛は寝起き以外にも理由がありそうな掠れ声で確認すると、ケトルの電源を入れた。その間に二杯分のコーヒー豆を量り、電動のコーヒーミルで砕いていく。勢いよく砕かれたそれは濃く香り、幾分か凛に冷静さを取り戻させる。
1436