桜雨ピーっと鳴ったケトルに慌てて駆け寄り、小さく息をつく。
今日も同居人は帰っていない。依頼人のアフターケアだのなんだのと理由づけをしては、「晩飯はいらねえから」と鼻歌交じりにいそいそと出かけようとする背中に「はいはい、いってらっしゃい」とさして関心の欠片もない空気を纏い、わざとらしくなげやりに送り出したのは約数時間前。
時計の針は刻々と時を刻んで、見もしないテレビは画面が闇に浮かび上がる。白いクロスに反射した残光がやけに際立っていた。興味も沸いてこないのに、手もとも碌に見ないままチャンネルを変えて一周するとリモコンをビーズクッションに向かって投げ、ポスっと音がする。
『香さんって強いですよね』
一冴羽さんのそばにいて。
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