Happy birthday 誰かの誕生日を祝う事は特別な事だ。
生まれてきてくれてありがとう。私と出会ってくれてありがとうって、ちゃんと伝えたいから。
今日のデビルズパレスは少しソワソワと浮き足立っている。
理由は簡単。明日は執事の一人であるボスキの誕生日だからだ。
皆、彼をお祝いしようと準備をしているのだろう。
私も勿論、お祝いするつもりだが……。彼にプレゼントをあげるとしたら、何が良いのだろうか。
私は恋人であるハウレスに相談してみる事にした。
「ボスキの好きなもの……ですか?」
「うん。明日、誕生日でしょう? だから、何をあげようかなって」
「そうですね……。ボスキの好きなものといったら……」
「肉」
ハウレスと私の声がピッタリと重なる。
それが可笑しくて、お互いにクスクスと笑い合う。
「でも、お肉ってロノがとびっきり美味しく料理しそうで……勝てる気がしない」
「いえ、主様が作ったものなら、ボスキは喜んで食べますよ」
「そう……かな?」
だったら、嬉しいけど……。
でも私、料理にそんな自信があるわけじゃないんだよね……。美味しくないものを作って、ボスキに無理して食べて貰うのは悪いし……。
うぅん、と頭を悩ませているとハウレスと目が合った。そうだ。
「ハウレス、一緒にクッキー作ろう!」
「え……、俺、ですか?」
ハウレスが瞬きをする。
本格的な料理は難しいけど、簡単な焼き菓子なら作れるし……。バレンタインで父親に義理でチョコレートのクッキーを作った事あるし、味には少々自信がある。
ハウレスが料理が得意じゃない事は知っているけど、でも、だからこそ一緒に作りたかったのだ。
「うん、思いを込めればきっと美味しく出来るよ」
だから、一緒に作ろう。
そう説得すると、ハウレスは思案顔を浮かべた後、ふわりと笑みを浮かべて頷いたのだった。
誕生日当日。
私とハウレスは何とかクッキーを作る事に成功した。私は紅茶の味の、ハウレスはチョコレートのクッキーだ。
ラッピングもセンスの良いボスキに失笑されないように、黒の巾着袋にシルバーとブルーのダブルリボンでシックにまとめてみた。
後は渡すだけ……。喜んでくれると良いな……。
クッキーの入った袋を大事に抱えながら、ハウレスと共に食堂に行けばボスキは早速皆に祝われている最中だった。
「わ、凄い。流石、ロノ」
思わず感嘆の声が漏れる。
テーブルの上にはこの日の為に作ったであろう煌びやかに盛り付けされた料理の数々が並べられていた。
特に目を引いたのは、薔薇の花のように積み重ねられたお肉のケーキだ。
これなら見た目も華やかだし、ボスキも喜ぶだろう。
「おい、アモン。何で花なんだよ。俺はくれるなら肉が良いって言っただろ」
「も~、ボスキさん。その花は誕生花なんすよ~。それに肉なら、これから十分食べるから良いでしょう」
「リンドウとブッドレアの花束かぁ。綺麗だね」
「冗談だよ。……ありがとな」
アモン、フェネス、ボスキ。彼らの会話を聞いて微笑ましくなる。私とハウレスは目を合わせ、そして彼らの元へ向かった。
「ボスキ、誕生日おめでとう」
「おめでとう」
「主様、ハウレス」
私達に気づいたボスキに、クッキーの入った袋を渡す。
軽いけど、二人で一生懸命作った、思いが詰まった確かな重み。それを受け取ったボスキは、私とハウレスを交互に見た。
「主様が作ったのか?」
「ふふ、ハウレスもちゃんと作ったよ。受け取って」
お前が?と言いたげな目をするボスキに、ハウレスは何処か気まずそうな顔を見せる。
ほら、と彼の背を軽く押した。
「ボスキ……。主様と作ったクッキーだ。味は保証する」
「へえ……。あの料理が壊滅的なハウレスがねぇ……。でも、ラッピングはハウレスにしちゃ悪くねぇじゃないか」
「主様と一緒に選んだからな」
ふふん、と得意気な顔をするハウレスにボスキはジト目で見やった。
「…………お前一人で何もやってねぇじゃねーか」
そう呟いたボスキの顔は呆れていたけど、声音は優しく嬉しそうだったのだ。