帰り道 授業が終わり、放課後の時間へとなると教室の中が一気に騒がしくなった。
部活へ行く者、アルバイトへ急ぐ者、友人達と喋り教室に残る者。
いつもと変わらぬ平和を絵に描いたような風景。
悪魔執事をやっていた俺が、今は平凡な高校生をやっていると言ったら、過去の自分はどう思うだろうか。
そんな事をぼんやりと考えていると、クラスメートに不意に声を掛けられた。
「ハウレス~。彼女さん、迎えに来てるよ」
「彼女……あっ」
ドアへと視線を向ければ。
主様がひょっこりと、半分開いたドアから顔を覗かせていた。
小動物を思わせる仕草に思わず微笑ましくなる。
クラスメートに礼を言い、彼女の元へと向かった。
「あるじさ、」
「わー!わー! ここ(学校)では、それ禁止だってば!」
慌てふためく主様を見て、口を押さえる。
以前の記憶の癖で、ついそう呼んでしまった。
名前は教えて貰ったが、どうもこちらの呼び方の方がしっくりきてしまう。自分はもう執事ではないというのに。
「すみません」と謝ると、「しょうがないなぁ」と笑って許してくれた。
学校を出て、二人で歩きながら帰路を目指す。
夏が過ぎ、秋も終わりを迎えようとしていた。
ピンクと白のチェック柄のマフラーを巻いた主様は、寒いのか「はぁ」と息を吐いて手を温めていた。
途端、狙ったかのように冷たい風が吹く。
「ひっ! う~、寒い寒いっ」
「主様……こうすれば少し温まりますか?」
ぶるぶると震える主様を見かねて、彼女の小さな手を取る。
主様の手はひんやりと冷たくなってしまっていて、少しでも温まればと両手で包み込んだ。
「ふふっ、ハウレスの手、あったか~い」
するり。主様が暖を取るように、俺の手に頬を寄せた。
滑らかな彼女の肌が、彼女の甘い香りが、ふわりと包み込み不覚にも顔が赤くなる。
恋人として付き合ってからもう長いのに、未だ体の方は慣れてくれないらしい。
「主様。何か暖かい飲み物でも飲みましょうか」
丁度近くにあった自動販売機で彼女の好きなココアを買えば、当たりが出たのかもう一本買える事になった。何にしようか悩んでいると、主様がすかさずボタンを押した。
「ハウレスはこれが好きだよね?」
がこんと出てきた缶コーヒーを取り出し、はい、と笑顔で手渡される。
その姿が愛らしく、思わず彼女を抱きしめてしまった。
「わわっ、どうしたのハウレス?」
「何故でしょう、主様を抱きしめたくなりました」
「ふふっ、そっか。寒いから今日はくっつきながら帰ろ」
腕の中で笑う彼女に、俺はまた愛しさが増していったのだった。