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    BoPで弾襄さまが有馬くんに指輪を渡してたあれで、広げまくったD4妄想。
    ちょっとホラー風味だけど、ホラー苦手な人が書いてるのでこわくない。

    cowweb「君の母親の形見だ」
     耳元に毒が注がれたと同時に、掴まれた手に指輪を通される。何の変哲もないゴールドが照明を反射して、有馬の目を射る。何度か瞬きをして、それからその男、大蜘蛛弾襄の顔をはじめて真っ直ぐに見た。
    「なん、」
     今こいつは何て言った?
     ははおやのかたみ?
     掴まれたままの手を振り解くことも忘れた有馬に、弾襄は微笑んだ。いかにもノーブルのお坊ちゃんらしい気品に溢れた傲慢な笑み。そこに何故か、これまで幾度か顔を合わせた時のような見下すような色が無くなっている。代わりに奇妙な熱のようなものが宿っているのを感じた。
     何だってんだ気色ワリィ。
     中王区主催のイベントにほとんど騙し討ちのように呼び出され、ここまできたらヤケクソだとめかし込んで舞台上に立っている。
     悪名名高いアサヒカワにぶちこまれ、2度の脱獄を成功させた凶悪犯に話しかけてくる奴はそう多くない。T.D.Dとの因縁もある。控室や舞台への動線も、他とは被らないように配慮(中王区が配慮だと!)されていたし、どこに行くにも監視の目があった。
     だからこうして舞台上で、大胆にも接触を図って来るやつがいるとは想像もしていなかったのだ。
    「何でそんなもの、テメェが持ってやがる」
     有馬に無償の愛を注いでくれた母。彼女によく似た優しい姉。暴力によって奪われてしまったふたりの姿を留めるものは何もなく、今はもう声すら朧げで、ただ記憶にうっすらとこびりつくだけのものになっている。
     心の脆い場所へ無遠慮に爪を立てられて、いつもの悪態さえ出てこない。のろのろと掴まれていた手を取り返し、わずかに距離を取る。
     場内いっぱいに溢れるビートと歓声が邪魔で、問いかけは多分届いていない。だが有馬が何を問いたいのかは分かっているのだろう。フ、とまたやたらと愛しげに微笑んで、男はゆったりと形の良い薄い口を動かした。
     きょうとへこい。
     それだけ残して弾襄はもう何も無かったかのように有馬から視線を外し、先ほどまでの温度を綺麗さっぱり消した冷たい笑みを貼り付けて、客席を向いた。
     ここでのこれ以上の接触は、中王区に面倒な勘繰りを受けることになるからだろう。何より有馬の後方に立っている3人が、仲間へ妙なちょっかいをかける男にめいめいの殺気を向けているのだ。
    「……まいったぜ」
     多分これは面倒ごとだ。薬指に通された指輪をくるりと撫でて、唇を噛む。
     弾襄について知ってることはそう多くない。キョウトディビジョンで幅を利かせているある宗教団体の頭で、中王区が国を盗るまでは国家の中枢で好き勝手やっていたということ。それも全て燐童から聞いた話で、一応頭に入れておけと言われたからそうしただけだ。
     ご大層な肩書には何の興味も無い。有馬にとって弾襄はただ金払いの良いクライアントでしか無かった。
     直接やり取りしたのも、ひと月ほど前に依頼の品を無くすポカをして…もちろんその後にダイヤモンドパールを持っていた高校生を見つけ出し、レプリカと入れ替える形で取り戻している……以来のこと。その時は弾襄も有馬に何の興味もない様子だったのに。
     それが何故?
    (何が目的だ)
     イベントが終わり、糖分に釣られて捕らえられかけた時空院を回収、4人で一塊のようになって中王区の包囲を抜けて、いったん地方へ身を隠す。
     落ち着いて話ができたのはイベント終了後から数日後のことだった。
    「大蜘蛛弾襄の部下からあるデータを受け取りました」
     隠れ家に選んだ比較的綺麗な廃墟のリビング、中央に据えられたソファーに座って向かい合う。
    「DNA鑑定の結果報告書です」
     4人で囲む机の真ん中に封筒が置かれる。今どき珍しい紙の資料には、グラフや文字がびっちり書かれていて、すぐに理解できるものではなかった。燐童に説明を促す。
    「これは、大蜘蛛弾襄と有馬さんに血の繋がりがあることを示しています」
    「ハァ…!?」
     いつの間に、どうやって…と考えて、人の出入りが激しいイベント会場の控室で、幾度も着替えやヘアメイクを行ったのだ。髪の毛の一本くらい盗みすことは容易かっただろうと結論する。
    「資料が偽物である可能性は?」
    「それを疑われないよう紙の資料を寄越したのでしょう。ここに来てすぐ調べましたが、使用された紙は鑑定を行う機関オリジナルのもので、特殊な技法で作られたこれらの複製は非常に難しい」
     大戦中に離れ離れになった家族の再開を助けるため、各国の支援を受けて作られた機関だ。これからどう変容するかは分からないが、現段階では非常にまともで、信用できるものだと燐童は言う。
    「捏造は不可能だということです」
     渡された指輪はすぐに外して燐童へ預けてあった。今は資料の横に横に並べられている、その内側に掘られた文字は、toを挟んだふたつのアルファベット。片方は弾襄の祖父のもの、もう片方は有馬の母のものと一致する。
    「勘弁してくれよ、」
     母親を支配し、暴力をふるう男が本当の父親ではないことは、子供ながらに気づいていた。血の繋がりのある男は別にいる。だがそれがどこの誰かを知る術は、母の死により永遠に失われたと思っていたのだ。
     父親というものに夢を見たことが一度もないとは言えないが、今となってはかけらの興味もない。ひとりで生きていく力もないガキの頃とは違うのだ。
     それが今更どうして…。
     若くして有馬を産んだ、母の美しい顔を思い出し、そんな母を孕ませて捨てたクソ野郎があの大蜘蛛弾襄の、よりにもよって祖父だと理解したと同時に、やたらと熱のこもった弾襄の視線や、指輪をはめた意味ありげな手つきも思い出して全身が総毛だった。
     頼るものもない孤児の頃から今まで、生き残れたのは時に神がかるほどの勘の鋭さ故だ。その有馬の勘が改めて告げている。これはとんでもない厄介ごとだと。
    「つまり、どういうことだ?」
     ぼんやりの話を聞いていた谷ヶ崎が、燐童に丸投げの質問をした。谷ヶ崎のなぜなにどうしてに、もうすっかり慣れっこの燐童は「つまりですね」と指を立てて、まるでどこかの教師のように話し始めた。
    「有馬さんは大蜘蛛弾襄のお父さんと腹違いの兄弟で、大蜘蛛弾襄とは叔父と甥の関係にある、可能性が高いという話です」
     理解したのか、きゅと谷ヶ崎の眉間に皺がより、その色素の薄い瞳が燐童から有馬へ向けられる。言葉少なな男だ。代わりにその薄灰の瞳が雄弁に感情を伝えてくる。今も何を心配しているのかすぐにわかって、有馬は「やめろやめろ!」と声をあげる。
    「お前、俺があいつのとこに行くと思ってんのか!?誰が行くかバカ!オエッ想像もしたくねえ!」
    「けど、有馬、」
     なおも何かを言いたげな谷ヶ崎を制したのは時空院だ。
    「家族がみな良いものとは限りませんよ伊吹。君だからこそ分かるでしょう?」
    「……そ、うだな、悪い」
     しん、とリビングに沈黙が落ちる。
    「では改めて、我々はどう動くべきか、採択しましょう」
     キョウトへ来いと言った、弾襄の誘いをどうするべきか。これまで通り良い取引き相手とするなら、きちんと断りの返事をするべきなのだろう。有馬としてはもう2度と変わり合いになりたく無い、というのが正直なところだ。
     時空院はもうこの話に飽きたのだろう、指輪をつまみ上げて「綺麗ですねえ」と鑑賞を始めた。少しくすんではいるが、確かに金がかかっていそうな代物だ。
     イベントでも皆を飾り立てて楽しんでいた男は、美しいものを鑑賞する喜びも知っていて、今もリングの細かな装飾にうるりと瞳を輝かせている。
     たかが金の輪に何をそんなに感動することがあるのか、有馬にはかけらも分からない。その日食うものと安全な寝床があれば御の字の幼少時を過ごしたせいか、美を愛でる情緒など全く育たなかったらしい。
    「気に入ったんならお前にやるよ」
    「おやいいんですか? お母上の形見では?」
    「どうだかな。仮にそうだとしても、おふくろも気にしやしねぇよ。ンなことよりこれからどうするかを決めよ「あ、」
     有馬の声を遮るように、時空院が間抜けな声をあげた。
    「ンなんだよ!」
    「有馬くん見てくださいこれ」
     時空院の節くれ立ち、ナイフの柄に添うように僅かに変形した小指に、くだんの指輪が嵌められている。意味がわからず睨みつければ、時空院は先ほどまでの笑みを消して、殺気すら感じる、やたら怖い真顔で有馬を見ていた。
    「有馬くん、私は誓って、自らこの指輪をはめたりしていません。この子が自分から、私の小指に喰いついてきたのです」
    「は?」
    「ほら見てください」
     時空院が手を掲げる。その指にはめられた指輪の隙間から。じわりと赤が滲んでいた。
     血だ。
    「おいなんだそれ…」
     その血はじわじわと量を増し、指輪に添うような赤い輪になる。しかし滴り落ちることは無い。
     まさか指輪に吸収されている?
    「時空院!」
     背筋が寒くなって、飛びつくようにして指輪に手をかける。が、外れない。どの方向に力をかけてもぴくりとも動かない。
    「有馬くん痛いです」
    「クッソが!」
     こんなものもう切ってしまえばいいと、倉庫から工具箱を取ってこようとした瞬間、部屋中全ての窓や鏡、グラスの類が全て一気に甲高い音を立てて割れた。
    「……っ!」
     全員それぞれ防御の姿勢を取り、次に備える。しかしその後に訪れたのは元通りの静寂だ。
     風通しの良くなったリビングで4人の視線が交錯する。
    「おい、オイオイオイオイオイホラー映画かよ!」
    「うーん今までいろんなところで色んな目に遭ってきましたけど、オカルトは初めてですね」
    「丞武、指は?」
     視線を向けられて、時空院が「大丈夫では無さそうです」と首を振る。
    「血を吸い尽くして、私を殺すつもりなのでしょうか? とにかく、とても怒っています」
     うーん、と首を傾げる様子はいつも通りの時空院に見えるが、殺気は消さないまま、周囲を油断なく警戒する空気がピリピリと肌を指すようだった。
    「……怒る、って誰が、」
    「私にもわかりません。ですが、指輪がはまった瞬間から気配を感じるようになりました」
     部屋の温度がさらに下がったような気がして、ぞわぞわと全身が総毛立ってくる。
     身じろぐと床に飛び散ったガラス片がじゃりじゃりと音を立てた。ムショにもオカルトの類はあったが、ほとんどがただの噂話で、実際の目撃者なんてひとりもいなかった。ジャンキーが見た幻覚だろうと鼻で笑っていたのに。
    「まさかですけど、有馬さんの母親の仕業、とか、」
    「オイ燐童、俺のおふくろを勝手にモンスターにすんなよ」
     それこそまさかだ。有馬の母親は善良を絵に描いたような人間だった。人を害することはおろか、恨むことも上手くできなくて、だから散々に踏みつけられて搾取され、最後は命まで奪われたような女だ。
    「俺も、有馬のお母さんは違うと思う」
     お母さんて。随分と可愛らしい呼び方にフ、と笑いかけた有馬は、けれど窓の外の何も無いところをじっと見つめる谷ヶ崎に気づいて、言葉を失った。
    「や、やめろ、瞳孔を細くすんな、猫かテメェ…!」
    「猫? 違う、いるのは女だ。お前より、あのクライアントさんに似てる」
    「えっ谷ヶ崎さん見えちゃう系の人なんですか!?」
     いやっ…!
     燐童と有馬の悲鳴のような声に重なるように、メールの着信音が鳴り響いたのはその時だ。2人同時にソファーから跳ね上がるようにして、無意識に側の仲間に身を寄せた。
    「びっ、くりさせんな!!」
    「マナーモードにしてたはずですけど!?」
     声を張り上げて恐怖を誤魔化すふたりの他は静かなものだ。それぞれ窓の外と携帯をじっと見つめている。
     メールの送り主は大蜘蛛弾襄だった。
     まるで全てを見ていたかのようなタイミングで送られてきたのは、キョウトの奥地にある大蜘蛛家所有の別荘へとD4を招待するもの。
     行けば確実に面倒ごとに巻き込まれる。だが行かなければ時空院はどうなる。意味のわからない指輪に喰われたまま、血を吸われ続けたら……。
    「行くぞ」
     ソファーから立ち上がるなり、低く唸るように谷ヶ崎が言った。
    「仲間を人質に取って脅すような真似されて、大人しくする理由も無ぇ。さっさとツブして仕舞いにする」
     うん、と燐童も頷く。
    「虎穴に入らずんば、と言いますしね。ここに居ても何も分からないどころか、状況は悪化するばかりでしょう。僕も谷ヶ崎さんに賛成です」
     時空院もそれに続く。
    「異論はありませんよ。有馬くんは?」
     3人の視線を受けた有馬は「聞くまでもねえ」と怒鳴るように返した。
    「これは俺に売られた喧嘩だ。俺が買わねぇでどうす、」
     谷ヶ崎が握りしめた拳を、ゴンとテーブルに押し付けた。年代物とはいえ分厚い木でできた天板がメリメリと裂けて割れる。
     女の放つ冷気のような怒りを周囲から吹き飛ばした、谷ヶ崎の怒りは炎のようだ。
    「有馬、間違えるな」
     薄灰の瞳がゆらゆらと陽炎のように揺れている。

    「これは俺たち全員に売られた喧嘩だ」
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