軍パロボイバグ 今、ワタシは軍を率いて戦場最前線に歩みを進めている。数年前から始まったこの戦争は、甚大な被害を出して尚終わる気配を見せない。そしてワタシは、この戦争で最前線に立ち戦うために生まれた、特殊な能力を持つ生体型殺戮兵器だ。ワタシの後ろを歩む何人かも同じ生体型殺戮兵器だが、得意としている事がそれぞれ異なる。ガードールという、ワタシ達の中でも一番小さな少女はバリアを張り味方を守る事ができる。ユニドールという片目を髪で隠した少女は治癒能力を持つ。エレドールという糸目の少女は周囲に電撃を発生させ敵の動きを止めたりできる。フラドールというポニーテールの少女は自身の身体に炎を纏わせ近接格闘時の攻撃を強化できる。メタドールという銀髪の少年は、水銀を発生させ攻撃や防御に応用できる。時には連携して、時には単独で戦闘して勝利を積み重ねてきた。今回の戦線も同じ事だ。正面を睨みながら歩いていくと、こちらに向かう集団が確認できた。皆種類の違う銃で武装していて、こちらより数は少ない。少数精鋭、とでも言いたいのだろう。こちらだって質でも負ける気は無いが。そして1人の少年が集団を先導している。リーダーであろう、ワタシと同じ歳くらいのその少年は黒い髪に青いメッシュを二箇所入れている。彼を見た時、思わず息を呑んでしまった。
「……っ…!!」
ワタシは本能で感じ取った。彼は、ワタシ達と同じ生体型殺戮兵器だ、と。彼の隣を歩いている、かなり背の高い真っ黒な長髪をした瞳に星を宿した青年も同じだろう。たじろいだ一瞬の間に、目線と目線がパチリとぶつかる。キッと鋭い目線が刺さる。ワタシも負けじと睨み返す。その瞬間、ガードールが何か言葉を漏らしたような気もしたが、気にしている余裕など無かった。一瞬で空気が張り詰める。もはや言葉は不要だった。軍刀を抜いて彼に斬りかかる。彼もライフルを両手に構えて迎撃の姿勢だ。身体強化が施されたワタシ達と同じ存在だからこそできる芸当だった。後のメンバーも続いて戦闘に入る。銃使いの相手と戦うには射程のハンデが大きい。彼の両手に握られた銃から放たれた閃光が時々頬や身体を掠める。代わりにワタシの刀が彼を掠める事もあった。ワタシの攻撃が届かないところに居たらダメだ。銃は接近戦に弱い。できるだけ密着する事を心がけながら、何とか彼を仕留めようと刀を振った。彼の方も、密着戦だろうがお構いなしに弾を放ってきた。弾が出なくなったら銃を投げ捨て、背から別の銃を取り出して撃つ。気づけば両方、全身ボロボロだ。それでも、離れたら仕留められると思い速度は下げなかった。むしろ能力の出力を最大まで解放し、己の出せる最高速度で戦った。頭に直接銃を突きつけられかける事もあった。それを何とか躱す。頭上で放たれる轟音と鉛の玉。すかさず隙を見せた身体に刃を振るった。
ザクッ。
「______ッ!?げほ…っ、が…!!」
身体を切り裂く音と同時に目の前で血の華が咲く。同時に頭上からも血が降ってくる。雨みたいだ。戦いの決着と同時に、自分の身体にも痛みが戻ってくる。その生を告げる痛みの鋭さに、思わず跪いてしまった。その痛みの中に、微かな記憶を感じた。今まで忘れていた、何かの記憶。それが鮮明なものになったのは次の瞬間だった。ガードールと、長い黒髪の青年の声が揃った、その瞬間。
「っ、バグドールさん!」
「バグドール様…!!」
「……っあ……!?」
脳の奥から、今まで感じた事のない記憶が湧き出してくる。そうだ。ワタシ達は、かつて______。
足元で血を流す『バグドール』を呆然と見る。いつの間にかしんとした戦場。どうして、今まで忘れていたんだろう。遅かった。全て。この手で、ワタシは、今______。呼吸が荒れる。心臓が不規則な鼓動を刻み出す。カチャ、という金属の音にハッと顔を上げる。目の前で、あの青年______エラードールがこちらに銃口を向けていた。その手は震え、星の瞳には涙が浮かんで光っている。頬を伝って流れる様はまるで流星だ。
「ッ……貴様……!よくも、よくも…ッ!!バグドール様を…!!殺してやる、今ここで、貴様を殺して俺が、仇を討つ!!」
もう最早、ワタシには生きる意味が見出せなかった。世界はモノクロに堕ちていく。光なんてもう無かった。自分で、光は無くしてしまったから。
「………もう、好きにして……………」
掠れた声が、相手に聞こえていたかは分からない。ばん、ばん、と複数の銃声が聞こえた。痛みは無かった。時間がスローに感じる。ガードール達が駆け寄ってくるのが見えた。
______来世の彼は、こんなワタシを赦してくれるのだろうか。いや、もういっそ、赦さないで欲しいとまで願ってしまっていた。どうか、愚かなワタシが、来世は忘れていませんように。薄れていく意識の中、最期に残ったのは願いと後悔だけだった。