勘違い クラさんと仲良くなり、便利モブオフ会を開くようになり、本人には言ってないが、深く感謝している事がある。
それは、勘違いオジサンになる前に気づかさせてくれてありがとー!!
だった。
というのも、便利モブのもう一人、三木さんが三木さんだから悪い。
第一印象、ちょっとガラの悪そうな近づきづらい雰囲気出しておいて、少し仲良くなっただけでお世話させてくださいお金出させてください何でもやりますよをやられたら、そりゃ勘違いする。
ひょっとして僕の事、好きなのかなって。
後から仲良くなったクラさんに対する三木さんの態度を見てなければ、その勘違いは訂正される事なく、僕の方から告白してたかもしれない。
よかった。
本当によかった。
舞い上がってはいたが、そこで気づけて。いい夢がみれた。
わりと恥の多い人生ではあるけれど、勘違いオジサンになって、フラれて思いだしては呻くほどの恥はかきたくはない。
たから深く、とても深く、クラさんには感謝しているのだ。
いつか、恩を返そうと思うほどには。
だから——
「だから僕にできる事ならさせて欲しいんです、クラさん」
吉田は膝に乗ってきた猫を撫でつつ、にっこりと笑う。
ここ二週間ほど、クラージィはうんうん何かに悩んでいた。
それは大食漢である彼の食に影響を及ぼすほどで、三木はもちろんのこと、吉田も大変心配した。
クラージィは赤い血を飲めないぶん、食事で補っているというのに、と。
あの手この手で聞き出そうとしたがうまくいかず、次はどの手でと考えながら帰ってきたら、廊下でふらつくクラージィを発見し、吉田は引きずるようにクラージィを部屋に連れ込み、恩があると語った。そしていかに心配しているかも。だから何かあるのなら力になりたいと。
黙って聞いていたクラージィは、吉田の顔を真剣な表情で見つめる。
こうして見ると、クラさんもクラさんでとても整った顔をしてるよなぁなんて思っていれば、かたい声で予想外の事を問われた。
「……ヨシダサンノ事、ミキサン好キナラ付キ合イマスカ?」
「えぇ!?」
「ラブデスカ?」
「ラブって……」
誤魔化そうかと思った。
だが、真剣なクラージィの顔と、「答エニヨッテハ、私ノ悩ミ、解決シマス」と言われては、正直に答えるしかない。
蚊の鳴くような声で、「えぇ、まぁ、はい」と往生際悪く答えれば、クラージィの顔がパッと明るくなった。
「悩ミ解決シマシタ! 両想イ!」
「え? えぇ?」
「ミキサン、ヨシダサン、オ互イ好キナノニナンデ交際シナイ思ッテマシタ! ミキサンニハモウ好キ聞イテマス! 両想イ!」
ちょっと待って欲しい。
ニコニコ顔でそんな重要発言をしないで欲しい。
誰が誰を好きで、誰と誰が両想いだって? しかもちょっと待て。この集合住宅の壁は薄いのだ。そんな大声で話したら——
ゴトン、と壁を挟んだ隣部屋から音がする。
そちらは三木の部屋がある方向で、急展開に混乱しっぱなしではあるが、とりあえず次に会うまでに告白の言葉を考えておかねばと思うのだった。