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    nekononora

    94とFGO。書くのも読むのも雑食でいきます。逆、リバ、R、G、などなど書きたいように書き散らかします。
    設定がわからーん!

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    nekononora

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    パーバソのなろうパロ。

    ネタバレに配慮をしておりません。少しの流血表現、欠損表現があります。他の鯖も多数でます。後日、最終まで加筆修正と設定をちょき直したものを支部にあげます。

    #パーバソ

    まったりスローライフ系が溺愛系になりそうです5◆◆◆


     それじゃあと女神達にさよならの挨拶をすれば、目を開けて立っていたのに目を閉じて横になっていた。
     混乱はしない。夢から覚めた時、横になっていても驚かないのと同じで、すんなりと受け入れた。
     目を開ければ、天井にレースの空。
     白いカーテンなのだが部屋が暗い為、夜空のような、もしくは海の中のような感覚に陥いる。
    「……?」
     どちらかといえばこちらに混乱し、そういえば貴方のと紹介された部屋に天蓋付きベッドがあったのを思いだす。
     あの時は部屋の広さと調度品の高級さに圧倒され、家具一つ一つに感想を抱く余裕がなかったが、レースカーテンの天蓋付きベッドって。
     ——そうか私はヒロインだったか。
     なんて心の中でボケつつ、もう少し寝るかと目を閉じる。
     質のいいシーツ、柔らかで温かい掛け布団。弾力のあるベッドパッド。
     最高の寝具だ。
     若い頃ならこの上で飛び跳ねてはしゃいでから、悪夢を見ずに快眠できると胸を踊らせただろう。
     そういえば働きだした時、金を貯めて買ったのは良い寝具だったか。
     その寝具はもう手元にない。一週間もせずに売ってしまった。
     バーソロミューはため息をついて、ベッドからおりる。
     部屋の中は暗く、窓から差し込む月明かりだけが室内を薄く照らしている。
     ——何時間寝ていた? 時計は……そもそもここは二十四時間サイクルなのか?
     そこらはへんもおいおい確かめていかなければと思っていれば、部屋の隅に気配を感じる。
    「……おや」
     隅には大きなクローゼット。その横に枝が太い観葉植物。
     観葉植物に青い鳥がとまっていた。黒いつぶらな目がバーソロミューを見上げている。
     バーソロミューはペタペタと驚かさないようにゆっくりとそちらに歩く。
    「君は確か、カルデアに来た時に肩にとまった子かな?」
     ついてきてたのかと問えば、ちちちち、と鳴かれる。
    「それとも騎士様の誰かの使い魔とか?」
     これにも、ちちちち、だ。
    「ふふ、君の言葉は分からないか。後もう少し寝ようと思うのだけれど、隣、いいかな?」
     クローゼットの手をかけ、開ければ思った以上に広い。ドレスなども収納する想定なのだろう。
     広さは申し分ない。ちょっと広いぐらいだ。
     底部分はと下を見れば床だった。
     このクローゼットは備え付け後から運び込んだものでなく、備え付けらしい。
     ——僥倖。底が抜ける心配をしなくてもいい。
     煎餅布団のような硬い敷布団が欲しいが、流石にないか。ゴワゴワの掛け布団も欲しいところだが。質が良すぎるんだよなぁとクローゼット内を探し、タオルケットを数枚発見する。これも見ただけで質が良い物だと分かるが、あの掛け布団よりはましか。
     バーソロミューはクローゼットの中の服を取り出してベッドの上に置く。
     床にタオルケットを数枚敷き、中に入るとドアを閉じる。
     狭い闇に閉ざされた空間。安心する。
     ——熟睡できそうだ。
     タオルケットを身体にかけると、目を閉じた。



     トントン、トントン。
     とノックの音で意識が浮上していく。
     目を開ければ暗くて狭い世界で、いつも通りの視界に頭が少し働かない。
    「バーソロミュー、起きているかい?」
     その声に一気に意識が覚醒する。
    「っ」
     しまった。
     いつもなら目覚ましがなくても親が起きてくる前に起きるのに。
     押し入れの中で息さえ殺そうとして、違うとすぐに思考を変える。外にいるのはパーシヴァル。ならば言い訳を考えて、すぐに出ていくべきだ。
    「バーソロミュー、私は部屋の外にいる。部屋の外からノックをしている。だから起きたら、ゆっくりでいいから出てきて欲しい」
    「……」
     パーシヴァルの言葉からクローゼットで寝たと知られていると分かる。その上で、気を使っているのだと。
     その気遣いに安心し、バーソロミューはゆっくりとクローゼットから外に出る。
     朝日が差し込む部屋。やはり広さには慣れない。
     だが誰もいない。
     いつもは安心する。今日も安心した。安心はしたが、なぜか少し不安にもなり、すぐにパーシヴァルの顔を見たくなった。
     

    ◇◇◇


     ちちちち

     仲良くなり、何かとパーシヴァルを気にかけてくれる小鳥が、日が明けぬうちに“起きて”とベッドで寝るパーシヴァルの頭の上を旋回する。
    「……どうしたんだい?」
     すっきりとした目覚めとはいかない。
     ガウェイン達から聴取によって判明した事実を聞き、今後の対応を話し合い、ベッドに入ったのは遅かった。
     そして起きたのもいつもより早い。

     ちちちち

     旋回していた青い鳥が天井近くまで舞い、壁まで飛ぶと、隣の部屋に続いていた扉の取手に止まれば、コンコンと嘴で続く。
     その扉は昔は隣と行き来する為の扉だった。
     この二部屋は夫婦の部屋として作られており、行き来する為の扉。
     前の持ち主が客室にする為か夫婦喧嘩のはてか、向こう側にクローゼットに設置して塞いでしまった。
     だが夫婦で飼っていた猫がいた為、猫用ドアは残されたままだ。
     そのドアを使って行き来してきたらしい。
    「……そうか。知らせてくれてありがとう」
     パーシヴァルはバーソロミューがクローゼットの中で寝ていると知り、どうするか考える。
     向こうの部屋に行き、狭いクローゼットから抱き上げ、話を聞きたい。
     だがそれはまだ早いのだろう。
     パーシヴァルは彼を起こすのは私の仕事にすると伝達する為にベッドから出た。
     

    ◆◆◆


     クローゼットから出て、部屋からも出て、パーシヴァルに朝ごはんはどうだいと誘われて廊下を歩く。
     何か言った方がいいのか、言わなくていいのか、どう誤魔化す? 誤魔化す必要はあるのか、普通はどうするんだ? とぐるぐると考え、普段よく回る口は回ってはくれず、出た言葉は、とても外れたものだった。

    「ちょ、朝食が終わったら、海に行ってもいいかい?」

     違うそうじゃないと思うが、パーシヴァルが微笑んで、「えぇ。昨日はゆっくりと見られませんでしものね」と言ってくれた。


     砂浜を歩き、裸足で浅瀬を歩いてみたり、少しだけと船に乗せてもらったり、どんな仕事があるのだろう、どんな仕事ならできるだろう、賑わうなら新しい仕事が生まれるな、どのような仕事が生まれるだろうか、え? この貝殻が魔物? 触ってもいい? 触る! と全力ではしゃいでいるように見せた。
     実際に気分は高揚し、感情は高まり、浮かれてはいた。
     だがそれは計算でもある。冷静な部分を隠し、護衛についている騎士達をまくための。
     まいたら身を隠して、攫われたように見せかける。
     筋書きはこうだ。

     この町は昔々、とても栄えた水上都市があった。
     栄華を極めた果てに、不老不死に手を出し、女神エレシュキガルの怒りに触れた。
     カルデアにおいて人はいつか死ぬべき定めであり、それは覆されてはならないと。
     そうして都市は滅ぼされ、長い月日の後、港町が残った。だが細々と脈々と不老不死の研究を続けていた一派がおり、その一味も二十年前に神の怒りに触れて、今度こそ不老不死の研究をしている者はいなくなったと思われた。
     それが生き延び研究を続けていた者がおり、女神エレシュキガルの恨みと渡り人の力を欲して、バーソロミューを攫う。
     攫われたバーソロミューは愛し子の力を一画使い、誘拐犯を倒す。

     というもの。
     因みにバーソロミューとエレシュキガルとテノチティトランが過去にあった出来事等から一晩で作り上げたシナリオであり、事実でない部分の方が多い。
     例えば水上都市は本当にあり、不老不死の研究をして神の怒りにも触れはしたが、その神はテノチティトランの兄らしく、そして滅んだ原因は敵国が攻めてきたからだ。
     古代の都市から不老不死のを研究する一派が港町に潜んでいたのは確かだが、二十年前の神の怒りの時にきっちりと潰したらしい。
     だからこの町にはバーソロミューを攫う者などいない。それでは困るのででっち上げだ。
     騎士が護衛についてくれてはいるが、それはあくまで外を警戒して。
     護衛対象が逃げるか隠れるかをするかは警戒していないはず。多分。なんかがっちり警戒されてる気もするが。
     そうして逃げ出す機会を伺い、神を鎮める神事を行なう為の神官が住んでいるという神殿を見学していた時、チャンスは訪れた。
     騎士達の目が離れ、神官達だけになった。
     よし。神官ならば警戒もされていまいと逃走しようとして、喉元に突きつけられた刃物。
     大人しく着いてこいと命令され、そうして本当に誘拐されてしまった。


    ◇◇◇


    「そこそこ組織も大きくなってたからね。もちろん一枚岩じゃなかった。それでも不老不死の研究っていう目標は一致してたからさ、なんとかえっちらおっちらやってた感じなんだよね……。で、私が捕まった時に逃げた連中も、その前からわりと別組織みたいな動きしてた奴等もいるわけでして……。まぁ私が生かされてるのもそこら辺の炙り出しもあるんだろー? まぁいいけど。で、話を戻すと、その中の一派に、渡り人と不死の関係を研究してる奴等がいてさ。渡り人ってこっち来る時、死んでるらしいんだ。少なくとも肉体は。それが女神の力によって肉体が再構成か新たに作られて魂が注ぎ込まれてカルデアに。だから不老は無理でも、身体さえ作り変えて魂を入れ替えちゃえば不死には辿り着けるんじないかっていう研究なんだよ……私が言うこっちゃないかもだけどさ、気をつけなよー。上の奴等は捕まったって話で、残ったのは顔も知らない下の奴等ばっかだけどさ、過激なんだよ。嘘か本当か、昔、渡り人を捕まえて解剖して研究したって話もあるし。それが嘘でも渡り人については研究してるからさ、例えば“スーツ”なんて服着てたら一発で渡り人と見抜かれちゃうし、ひょっとしたらこの港町は不死の研究と因縁があるからね、潜伏場所として選ばれて、スーツ姿を見られちゃってるかも……」


    ◆◆◆


     どうやらバーソロミューを攫った神官達は神官ではなかったらしい。
     なんでもこの都市の因縁とは関係なく不死の研究をしていた一派で、上が捕まって、逃げ延びた先がこの港町で、良くしてくれた神官達と入れ替わったらしい。町の人には急な人事異動と嘘をついたようだ。
     ——うーん。これはヤバいなぁ。
     バーソロミューは猿轡をはめられ、手と足を縄で縛られ、床に転がされ、冷静に男達の話を分析しながら、状況を理解していく。
     ——なんであれ研究をしているのだから頭が良くてもいいだろうに、どうにも全てにおいて行き当たりばったり、杜撰すぎる。
     ——神官達と入れ替わったとして、神殿の維持や、総本社的な機関とのやり取りでボロがでる。
     ——今とて攫ったはいいが、いまだに港町からは脱出おらず、どっかの地下室だし。祭壇っぽいのの上だし。
     ——攫わなかった方がよかったのではとか揉めてるし。まぁ攫ってくれたのだし、利用させてもらうか。
     できれば言葉を発した方がいいが、発せなくとも見守っているから心の中で願えばいいのだったか。

     ——愛し子バーソロミューの名において、女神エレ

    「騎士にこの場所がバレた! ずらかるぞ!」
     扉が開く音、男の切羽詰まった声。
    「こうなったらあれを使うしかない!」
     なんていう、アニメでもそうそう聞かない負けフラグの台詞と共に男の一人がバーソロミューに手をかざす。
     バーソロミューが乗せられていた祭壇が青白い線が描かれていき、
     ——なんだ?
     と、詠唱を止めてしまう。
     青白い線は幾つもの魔法陣で、気がつけば周囲は暗く閉ざされ、狭い、覚えのある空間にいた。


    ◇◇◇


     カルデアにおいて女神エレ様への信仰は生活の一部であり日常。
     特に神殿は信心深く、神官の渡り人様への危害など考えられなかった。
     だからパーシヴァル達も少し警戒をといてしまった。
     それが間違った判断だと気づいたのは、ランスロットが神殿の庭の隅の土に違和感を抱いた時だ。
     ランスロットはその土の箇所を見つめ、次に一番近くの木に目線を移し、ぼうっと虚空を見つめる。
    「ランスロット卿? いかがなされた?」
     ガウェインの問いかけにも答えず、数秒、ランスロットの雰囲気が鋭く研ぎすまられた緊迫したものとなる。
    「ガウェイン卿! 神官達は偽物だ!」
     弾かれたようにバーソロミューの元に駆け出したのはパーシヴァル。
     神殿の中を探し回るが、バーソロミューの姿はどこにも見当たらず、神官達の姿まで消えていた。


    ◆◆◆


     暗くて狭い押し入れの中。
     この中にいれば安心で、殴られる事も冷たい言葉を吐かれる事もない。
     だからずっとここにいなくちゃと縮こまった。


    ◇◇◇


    『不老不死の研究してたからねー、この港町だってそこそこの知識はあるわけですよー』

     って事でそこ右、と、駆けるパーシヴァルの肩に乗った紙の人型から徐福の声が出る。
     バーソロミューを探し神殿や何か見なかったか聞いてまわっていたところにふらりと現れた人型。
     徐福の式神と名乗るそれは、バーソロミューの行き先がつかめないパーシヴァル達に『私分かるかもー』と情報を提供した。
    『この港町ができる前、まだ水上都市だった頃からある地下の祭壇、書物を信じるならこの辺り、あぁ、あそこの建物の中とか怪しい。ほら、入り口に人が立ってるとこ』
    「なんだおまえ……らぁ!?」
    「急いでいるので」
     パーシヴァルは男性を殴りこそしなかったが、駆ける勢いのまま突き飛ばして強制的に移動させる。
     吹き飛ばされた男性は数メートルは宙を舞って地面に叩きつけられ転がるが、パーシヴァルに気にしている余裕はない。
     取ってを掴んでドアを開けようとして、鍵がかかっていた為にそのまま力任せに引き開けた。
     同時に中からパーシヴァルに向かい突進してくる男が一人。
     手元には短刀が握られていたが、パーシヴァルの腹部に到達する前に、パーシヴァルの背後から飛んできた矢によって弾き飛ばされ、またパーシヴァルの拳によって男は顔の形をかえながら吹き飛ばされた。
    『じゃあどんどん倒してどんどんいこうぜー! どっかに地下に行く入り口がって、あ、わかりやすいとこにある』
     部屋の中央にあいた穴からは地下へと続く階段が見えた。

     襲ってくる男達をトリスタン達と協力して倒しながら降りていった地下。
     最下層に足を踏み入れ、開けた空間、石の祭壇が光り、黒い泥に半分以上飲み込まれているバーソロミューを見て、パーシヴァルは駆け出そうとする。
    『待って! 一旦、逃げて!! 取り込まれちゃうから!! 早く!! っていうか崩れるから!! 助けるならそれからでも出来るから!!』
    「しかし!」
    「行きますよ!」
     ガウェインがパーシヴァルの腕を掴んで無理やり走らせる。
     来た道を駆け上がり、徐福の言葉に従い、建物から出て足を止めずに駆ける。
     しばらくして、地中から建物を壊すように現れたのは二階建ての家ほどの巨大な泥人形だった。


     真っ先に動いたのはランスロットだった。
    「最果てに至れ 限界を越えよ」
     両手で掴んだ柄を胸元に引き寄せ、刃を眼前に構える。
     刀身に青く白い魔力が帯び、神が造ったとされる剣に魔力が充填されていく。
    「彼方の王よ この光を御覧あれ!」
     地面を蹴り走りだし、壁を駆け上り、屋根を足場にして跳びあがり、泥人形の頭上に躍りでる。

    「縛鎖全断・過重湖光!!」

     重力と自分の身体を最大限に利用して剣を振り下ろす。
     泥人形の頭のてっぺんから真下に、胸元まで裂ける。
     べろりと途中まで左右に避けた泥人形の切断面は美しく、青白い魔力を帯び溢れだしていた。
    「ランスロット卿! バーソロミューが中に!」
     パーシヴァルの抗議の声にランスロットは泥人形に向かい剣を構えたまま距離を取り、冷や汗を流して怒鳴り返す。
    「手応えがない! まだ増幅するぞ! 油断めされるな!」
     泥人形の切断面がボコボコと盛り上がり、青白い光が黒に変色したいく。同時に元に戻ろうと動きだす。
    「宝具起動」
     トリスタンが弓を下に構えると、弓の弦を引く。
     空気が震え、幾つもの真空の矢が生みだされる。
    「我が弓の切なる曲を 痛みを歌い 嘆きを奏でる」
     弦が震える度に生み出された矢がランスロットが作った切断面へと弾き飛ばされていく。
     だがその全てが吸収されるように泥人形へと飲み込まれる。
     トリスタンは弓を起こすと、泥人形に向かい構え、弦を全て掴み引き絞る。

    「痛哭の幻奏」

     弦を放てば、最大出力の真空の矢となり泥人形へと飛んでいく。
     打ち込まれた場所は腹部。穴が開き、向こう側が見えるようになるものの、それだけだ。
     切断面と同じく塞がっていき、泥人形は巨大さを増していく。
    「……」
     ガウェインが剣を構えたところで、パーシヴァルの肩に乗る人型が騒ぎだす。
    『うっわぁ! なにこの術式めちゃくちゃじゃねーかよー! こんなんよく起動させたなー! え、どうするこれ、どうするよー! 逃げていい? 逃げようよ!!』
    「徐福、助言を」
     パーシヴァルが槍を構えて短く、はっきりと言うと、うぇ〜という嫌そうな言葉の後、ため息が聞こえてきた。
    『バーソロミューはあの中、どっかに動力源として取り込まれている。大きな水晶みたいなのに守られているはずだから、ちょっとやそっとじゃ壊れない。でも壊してしまえば助け出せて、泥人形も崩れる。でもさっきみたいな攻撃を一二度受けたところで壊れない。逆に言えば、さっきみたいなのじゃないそれこそ神にも届くとされた攻撃ならば、壊せる。でもそれは……』
    「うん。分かった。ありがとう徐福」
     パーシヴァルは徐福の言葉を遮って、槍を構える。
    「パーシヴァル卿。先ほどの攻撃でおおよその位置は特定しました。ランスロット卿が切り裂いた下、私が穴を開けた上、その中間あたりです」
     トリスタンの助言の後、ガウェインがパーシヴァルの前にでる。
    「我が焔で水晶までの梅雨払いをいたしましょう」
     そう言うと、ガウェインは剣を空に向かって放り投げ、舞わせる。
    「この剣は太陽の映し身」
     空を舞う剣の刀身から炎が吹き出し、回転する剣に合わせて円を描き、太陽のようにあらゆるものを照らす。
    「もう一振りの星の聖剣 あらゆる不浄を清める焔の陽炎!」
     落ちてきた太陽の柄を掴めば、下段に構える。

    「転輪する勝利の剣」

     焔を纏ったまま一閃すれば、炎の道ができ、あらゆるものを飲み込んで燃やしていく。
     泥も例外ではなく、人形は炎の剣を受け、燃やされ抉れ、水晶が露出する。
    「ここに光を!」
     水晶の奥に愛しい人影を見つけ、パーシヴァルの槍が光を放つ。
    「聖槍 二重拘束解除」
     駆け出したパーシヴァルの槍が一際輝き、そして黒を纏う。
    「カウントダウン」
     槍を突き出して光と一体化し、水晶に向かって突き進む。

    「ロンギヌス・カウントゼロ!」

     槍は水晶に届き、槍が触れた箇所から数センチほどのひびが広がった。


    ◆◆◆


     怖くなってもこの中なら大丈夫。
     小さくなって目を閉じで、耳を塞いでいればなにも怖い事などない。
     外は怖い。
     だからここでいい。
     出たくなんてない。
     そう思っていた足元に何かがあたる。
     おそるおそる目を開けても暗いから何かは分からない。でも形から絵本だと分かる。騎士が出てくる、一番好きな絵本。
     真っ暗では読めない。
     懐中電灯はどこだろうと手で探そうとした時、障子にビシリとヒビが入り、そこから光が漏れてくる。
    「!?」
     そんな。おかあさん? 何か気に触る事をしたか? どうしよう。布団の中に潜り込んでみるか?
     絵本を抱いて、布団を持ち上げようとして、

    「バーソロミュー」
     
     優しい男性の声が耳朶を打つ。
     父と呼ばれる者の声ではない。母よりも言葉を交わした事のないあの父の声なんぞ忘れてしまったが、それでも違うと断言できた。
     誰だろう? 誰でもいい。ここから出そうとするなら隠れなければと考えて、また自分を呼ぶ声がする。
    「バーソロミュー、大丈夫ですから、出てきて」
     大丈夫? 何が。
     外に出て何が大丈夫というのか。
    「海辺でのんびりスローライフをするのだろう?」
    「……」
     そうだ海。
     常に聞こえる波の音に包まれて、潮風に肌を晒して、穏やかな小波や荒れ狂う大波に揉まれながら暮らすのだ。
     そこには、

    「……パーシヴァル?」

     バーソロミューの思考がようやく晴れていく。
     狭くて暗い空間ではあるが、ここは押し入れではない。
     無数にヒビが入った箇所から光が漏れ入り、影から外に誰かが立っているのが分かる。
    「よかったバーソロミュー。ある程度は壊す事ができたのだけれど、頑丈で……中から出ようとしてくれるかい?」
    「あぁ分かった」
     とは言ったものの、どうすればいいのか。殴るか蹴るかと考え、そっとヒビがはしる壁に手を当てれば、ビシリと音が鳴り、そこを中心に崩れ落ちていく。
     途端に光が中に入り込んできて、眩しさに目を細める。
     数秒して目が慣れ、バーソロミューの瞳が映し出した光景は、頭や腕、脚から血を流し、髪と顔の左半分を炭のように黒くしたパーシヴァルだった。
     空のように澄んでいた瞳は黒く濁り、バーソロミューを映すとニコリと笑う。
    「うん、よかった。この後はガウェイン卿達が力になってくれる、から……」
     あんしんして
     なんとかバーソロミューの耳に届いたその言葉。その途中でパーシヴァルの目は閉じられて膝から崩れ落ちていく。
     反射的に受け止めようと手を伸ばし、受け止められずに後ろに倒れて尻餅をつくが、離すまいと腕に力を込めた。
     身体にぬるりとした彼の血が染みうつり、炭のように黒くなった部分がボロリと嫌な感触で沈む。
    「待て、待ってくれ、なにが……」
     少しでも情報が欲しくて周囲を見れば、ここは海の上だった。
     海に立つ、女神テノチティトランが操縦していたロボットの手の平の上だ。港町からは、人の判別ができるがという程度に離れており、ガウェイン達も怪我をおい、建物が壊れているのが見てとれる。
     何かと戦った? 何と? 

    「彼の槍は神にも届く槍。重なる世界を繋ぎ止める錨の一部。それゆえに私情での使用は禁じられ、抜錨すれば世界からの反動をその身におう」

     頭上から降ってきたテノチティトランの説明が耳を通り過ぎていく。
     こうしている間にも彼の腕が崩れ落ちている。黒い欠片になって風に遊ばれて舞って消えていく。

    「その騎士は全て理解して貴方の為に禁忌を犯した。貴方を救う為に何度も。諦めなさい」

     どうすれば。剣と魔法の世界なら回復魔法があるか? 港町まで戻れば、誰か回復をできないのか?

    「その騎士である理由はないでしょう? 貴方のソレは一目惚れなんて不確かな愛を与えられなかった無償の愛と誤認しているだけ。雛鳥が初めて見たモノを親と思うように、初めて理屈ではない愛を与えてくれた者を親のように慕っただけ」

     またパーシヴァルが崩れる。
     こんどは頭だ。
     左上半分。

    「バーソロミュー。貴方の記録を見ました。“普通”はそこで諦めると言えば、貴方は納得するかしら?」

     そうだと空を見る。彼の瞳のように澄み渡った空を。
     空を見る必要はなかったかもしれないが、神を呼ぶ時は腕を組んで天を見上げるような気がした。
     女神エレシュキガルを呼ぼう。彼女ならこの状態でもなんとかできるかもしれない。幸い、まだ一画も使っていない。
     詠唱はなんだったか。思いだせない。だからただ、震える声で願いを口にした。

    「パーシヴァルを助けて」
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