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    nekononora

    94とFGO。書くのも読むのも雑食でいきます。逆、リバ、R、G、などなど書きたいように書き散らかします。
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    「貴方を愛する事はありません」の異世界パーバソの進歩①

    同姓でも結婚ができ、相手に嫁ぐ方を妻、嫁がれる方を夫と呼ぶ世界だよ。貴族の爵位とかふっわふわ知識です。

    #パーバソ

    半年後、離縁予定の旦那様の様子がなにやらおかしいです -1-◆◆◆プロローグのような何か◆◆◆


     バーソロミュー・ロバーツ。
     悪名高いロバーツ家の男爵子息、25歳。
     引きこもりで教養はなく、腰まで無造作に伸ばした髪は櫛が通らぬほど痛み、髪に隠された顔は二目と見られぬほどに崩れている。声はしわがれ、ヒステリックに叫び、メイドや妹に手を挙げ、暴れる癇癪持ち。
     しかもまことしやかに囁かれる噂では気狂いであると。
     あのロバーツ家が制御しきれぬ、悪行に利用できもせぬ、せめて不利になるような事はするなと、家に閉じ込め無駄飯をくらわしているそんな男。
     そのバーソロミュー・ロバーツは今、数年ぶりに見た、記憶よりもでっぷり太った父親に告げられた決定事項に、言葉を飲み込むのに必死になっていた。
     何か音を発すれば、漏れそうなその言葉。
     だからうざったい髪の下、必死に唇を噛み締める。
     そんな息子の様子を見てどう思ったのか。ロバーツ家当主は告げるだけ告げると、置き土産とばかりに罵倒を残して小屋から出ていった。
     閉められる扉。去っていく気配。
     足音が聞こえなくなったのを確認してから、バーソロミューは息を吐き出すと同時に吐き捨てた。
     
    「お前、正気か?」

     と。


    ◇◇◇パーシヴァル・ド・ゲール15歳の事情◇◇◇

     十と五つの人生。
     成人は迎えたとはいえ、まだ未熟で経験不足。これからも予期せぬ波乱が待ち受けているであろう。だが今、今後の人生も合わせても、一、二を争うほど緊張し、罪悪感を抱いているのではと侯爵家三男、パーシヴァル・ド・ゲールは考えていた。
     それでも伝えねばと言葉を発する。

    「私は貴方に伝えねばならない。それが仮初とはいえ夫婦となる貴方にできる誠意だからと考えるからです」

     自分の声が硬い。申し訳なさが声を震わせそうだから腹に力を入れているせいだろう。
     顔もすぐに眉間に皺が寄って口角が下がり、自責の念が出そうになる。
     頬の内側を噛んで顔を引き締めれば、せめてとパーシヴァルは真っ直ぐに前を向き続けた。
     これから自分の配偶者に酷い言葉を投げつけるのだ。
     家は上の兄が継ぐ。もしその兄が不慮の事故や病気でなくなったとしても下の兄がおり、二人とも優秀でゲール家は安泰と言われていた。
     なので三男のパーシヴァルは家を出る事はほぼ覆らない。兄達ほどの重圧も責務もないが、貴族であるのだから、恋愛結婚ができるとは思ってはいなかった。だが伴侶となる方を愛され愛する努力をしよう、そう決めていたというのに。
     パーシヴァルは自分のする事から目を背けるなと、顔を上げ続ける。
     ひょっとしたら顔に力を入れすぎて睨みつけるようになっているかもしれない。
     恐がらせたら申し訳ないと思いつつ、低く重みのある声を心がけ、テーブルを挟んで向こう側に座る男爵子息に言葉を投げつけた。

    「私が貴方を愛する事はありません」

     投げつけられた相手は言葉を受け取っているのかいないのか。
     傷んで腰まで伸びた髪は顔を覆っており、表情が読めない。
     身体が強張っているかさえも、傷んでいる布を何重にも着ているので分からない。
     匂いで分かるはずもないが、もし分かったとしても、部屋中に匂いが充満するほどつけている交際で、何も分かりはしない。
     何を考えているのか分からない。
     それがパーシヴァルの結婚相手、男爵家長男バーソロミュー・ロバーツであった。


     ロバーツ家には黒い噂が絶えず、だが噂止まり。
     このままのさばらせれば国の膿になる、いやすでになっている。
     というのにロバーツ家は尻尾を巧妙に隠し、後一歩で捉える事ができなかった。
     そんなおり、ロバーツ家の手がゲール家に伸びた。
     実直さと清廉さをうりにする騎士の家系で、騙しやすいと勘違いしたのだろう。実直で清廉ではあるが、侯爵という地位に長年立ってきた事だけはあり、謀も得意なのだが。
     ゲール家はロバーツ家の手を即、振り払う事はできた。
     だがここはあえて策にハマったふりをして、尻尾を掴もうという話になった。王や主要な貴族には話が通っている。
     そうしてゲール家の罠により、ロバーツ家は投資に失敗し、服を仕立てるのも困窮するようになった——かのようにみせかけた。
     その罠にかかり、ゲール家はロバーツ家に援助を申し入れた。その見返りに、“長男”を妻に迎え入れ欲しいと。
     ゲール家、当主の言い分は、『長男の噂は知っているでしょう? 噂通りの奴でして、家督に継がすわけには……ねぇ? かといってもう25。これから婿を取る娘の為にも出て行ってもらわねば。という事で、引き取ってくだされば金を出しましょう。なぁーに、妻らしい事はできぬがおとなしい奴ですので、別宅でも用意して放り込んでおけば問題ないですよ』との事。
     問題のある厄介者を侯爵に嫁がせ、繋がりを持ちたい。侯爵の名を使って悪さをしたい。
     そんな悪巧みが透けて見える。
     だからあえてゲール家は策にのった。
     問題は誰が夫となるか。
     そこで声を上げたのは、婚約者はおらず、家を出る事が決定しているパーシヴァル。
     ロバーツ家は歳が違いすぎると難色を示すかと思われたが、元より長男次男の嫁にだせると思っていなかったらしく、すんなりと受け入れた。
     ロバーツ家はゲール家の爵位の威光にあやかりたく、ゲール家はロバーツ家の悪事を暴きたい。
     そんな思惑の果てに決まった結婚。
     顔合わせや結婚式に忙しくなると考えていれば、『もう25ですし、堅苦しい顔合わせや結婚式もいらんでしょう。なのでバーソロミュー送りますね』というロバーツ家の手紙と共に、急遽用意した結婚生活用の屋敷に花嫁がやってきた。
     そこで始めて顔を合わせたバーソロミュー・ロバーツは、噂通りの見た目であった。
     顔だけでなく腰までも覆う傷んだ髪。いつ櫛でとかしたのかも不明な髪。絡まっており、櫛がとおりはしないだろう。
     体型すら分からなくなるほど傷んだ布を着込んでおり、動きにくくないのかと聞きたくなる。
     噂では気分の起伏が激しく、癇癪持ちで、メイドや妹にあたり、息を吐くように嘘をつくと、性格は破綻しているとの事だ。
     数度、妹と共にお茶会やパーティに出席した記録はあるが、グラスや皿を投げ、妹に手をあげようとした為、連れて帰られたという。
     結婚相手としては最悪だろう。それでもと、パーシヴァルは招き入れた妻に説明をする。
     三年白い夫婦でいる気である事、その間にバーソロミューの生家の悪事を暴いて潰す気である事、バーソロミューにはまとまった金を渡して離縁するつもりである事。その時点でバーソロミューは平民になるだろう事も。
    「貴方の事は調べました。奇行はあるものの、ロバーツ家の不正には関与しているけいせきはなかった。様々な思惑があるとはいえ夫婦です。困窮している、そういう事になってますので贅沢はさせられませんが、欲しい物があるなら善処します」
     告げるが、返事があるとは思っていなかった。
     なぜならここまで、バーソロミューは無言を貫いていたからだ。
     いきなり発狂されるのも困るが、反応がないのも困ると考えていれば、髪で隠れた唇が少し動く気配がした。
    「…………を」
     息が萎んでいくような掠れた声が、部屋に細く響く。
     パーシヴァルは「もう一度お願いします」と、バーソロミューの唇がある場所に注目し、耳を澄ませる。
     三十秒ほどして、今度はまだ聞き取れる音量の声が耳に届いた。
    「……はなれ……が、あるの、を」
     一音一音、音階が違い、耳障りに聞こえる声だった。
     わざとなのか、それとも生まれつきなのか。長時間は聞いておきたくない声だが、不快を顔には出さない。
    「み、ました………そこを、くだ、さぃ。それ、だけ……で。ぁとは……しつ、じに」
     そんな事でいいのならと、パーシヴァルは妻の求めを快諾した。


    ◆◆◆


     バーソロミューはゲール家の執事に離れに案内され、離れの中に入る。
     手伝いを全て断り、扉を閉めて鍵をかけ、窓のカーテンも閉め、手早く部屋の中をチェックし、誰も見ていないのを確認すれば、バーソロミューは片手を天に突き上げた。
     そして小声だが歓喜に打ち震えた声で叫ぶ。

    「よっしゃー! 神は我に味方した!!」

     その声はしわがれても音程がおかしい事もない。はりがあり、聞きやすく、耳に届いた者の意識を奪う声だ。
    「メカクレ〜♪」
     鼻歌をうたい、バーソロミューは傷んだ髪を鷲掴むと、ずるりと脱ぐ。その下から現れたのは軽くウェーブのかかった黒髪で、青い目は理性的に光っており、とても整った顔立ちをしており、二目と見られぬ醜さではない。
     バーソロミューはカツラをポイッとソファーに投げ捨てて、身を纏う布もポイポイ脱いではソファーに投げていく。
    「よぉーし」
     バーソロミューは下着と右腕の包帯だけになれば、誰に見られるわけでもないとそれなりに鍛えられた身体を晒して、生家から唯一持ってきたトランクを開ける。
     掴んだのは、執事服。
     バーソロミューは取り出して自身にあてると、にんまりと笑った。
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