恋の不満と恋の模様③ あの海賊が騎士と共同に借りている部屋に足を運んだが留守で、次に海賊部屋のドアをノックしたがおらず、喫煙所に足を運んだがおらず、たむろってた連中に居場所を聞いたが誰も知らず、他に行きそうな所と考え廊下を歩くも、そこまでしてやる義理はあるかねぇともう何度も浮かんだ疑問に足を止めた。
隅によると、懐から葉を刻んでブレンドし、紙で巻いた物とオイルライターを取りだした。紙の片側をくわえ、オイルライターの蓋を開ける。回転式ヤスリを親指で回せば簡単に火がついた。
軽く息を吸い込めば葉の香りとオイルと独特な匂いが口の中に入ってくる。
そのまま火に、口にくわえているのとは違う方の先端を当てようとすれば、ゴホンと聞こえてくる咳払い。
気配には気づいていたのでそのまま紙に火をつけ、息を吸い込み、口の中に入ってきた煙をふぅーと吐きだす。
紫炎にとてもよく似た煙はキャスター、クーフーリンの息によって白く伸び、先から輪郭が弛んで空気へと溶けていく。
「……キャスター、喫煙所以外は禁煙のは………タバコではないのか?」
眉を寄せて睨みつけ、両手で抱える箱に入った食材を煙から遠ざけるようにしていたアーチャーは苦言を呈そうとして、おや? と不思議そうな顔をする。
驚いた時や笑った時、案外、幼い顔になるんだよなコイツ、と思いながら、「そ」ともう一吸いする。
よし、よくできていると、味と効能を確認してから、煙を吐きだした。
「ライダーの海賊いるだろう?」
「今現在マスターと縁を結んでいる海賊のサーヴァンは全てライダーだと記憶しているが?」
いちいち話し方が嫌味ったらしくて遠回りなんだよなぁ、オレが海賊のライダーと呼ぶのは誰だか分かっているくせにと苦笑して、キャスターは情報を追加する。
「ライダーの姉ちゃんと同じぐらい古株の方」
「女性のライダーも多くいるのだが」
「オレとよく話すライダー」
「君は顔が広いのでよく話すライダーも多くいるのだが……」
「じゃあ髪が黒い」
次はどんな遠回りな情報にしてやろうかと思っていれば、話が進まないと先にアーチャーが降参した。
「……バーソロミュー・ロバーツがどうかしたのか?」
人間で目が青くてと言おうと思っていたのになと、葉を巻いた紙を一吸いして吐きだす。
「どうにも本人の自覚している以上にストレス溜め込んでるみたいでな、この前の微小特異点でなんか貰ってもきてるっぽいし、ストレス緩和と血行促進と対魔術の値をあげる効果のある香を吸えるようにして、」
「それは普通の香ではダメだったのか?」
どこか呆れたように問うアーチャーにキャスターはニッと笑う。
「こっちの方が面白ぇだろ?」
男のこだわりだよこだわりと言ってから、それに、と話を戻した。
「アイツ伊達男気取ってるし、恋人と二人でかりている部屋でストレス緩和の香とかたかねぇだろ」
すぅーと一気に紙を吸うと、最後の煙を吐きだし、携帯用灰皿に押し込む。
「で、アイツ探してるんだが、どこか知ってるか?」
「知らないが……バーソロミューはそんなにもストレスを?」
意外そうに問うアーチャーにキャスターはがりがりと頭をかく。
「生きてる時だって人の性根なんてそうそうかわらねぇよ。海賊なんてやって成果あげてる時点でアイツはどう頑張ってひっくりかえったって混沌悪だ」
とキャスターはもう一本、葉を巻いた紙を取り出すとくわえて火をつけた。
「それなのに、お綺麗な騎士様に惚れぬいて、恋人になれたのが奇跡だと舞い上がり、恋人様に不満なんて一つも持たない我儘も控えめな聖人様してやがる。そんなもん、恋人なんだから不満の一つや二つや十や百はでて衝突してなんぼだろうに」
煙を苛立たしげに吐きだすと、煙が消えないうちに話を続ける。
「オレ達はサーヴァント。側面を切り取られ型に流し込まれて作られた影法師。聖杯の力もなく自分の意思だけでかわれるかよ、それはただ耐え忍んでいるだけだ。自分を軋ませてまでな」
「パーシヴァル卿にその事を言う気は?」
「はっ」
キャスターは鼻で笑う。
清き愚か者のパーシヴァル。
バーソロミューがストレスを抱えていると知れば、話し合いをしようと動くだろう。清廉潔白で恋人を心の底から愛している騎士なのだから。そう考えてのアーチャーの言葉をキャスターは鼻で笑った。
「オマエさんもアイツも、ちょっとあの騎士様をなめすぎなんだよな」
確かに清く、正しく、美しくを地でいくような騎士だ。
だが彼も一人の男で人間で、欲もあれば感情もあり、頭がきれる上に状況把握して理性的に行動ができる。
そんな騎士が自分が周囲から向けられている、えてすれば舐められているような清き愚か者のレッテルを認識してないはずがない。積極的に使う事はないにしろ、自分の不利益になりそうなら清き愚か者らしく気づかないふりぐらいはするだろう。
不満を溜め込む恋人を見て、自分の為にそこまでと感動しているのか、恋とはそんなものと勘違いしているのか。それとも、それとなく不満がないか聞いており、言い出してくれるのを待っているのか。
「……」
後者が一番ありそうだ。
なにせあの海賊、しっかりしていてなかなかのうっかりさんだ。恋人がそれとなく水を向けても気づかないもありえる。
今回の件だって、不満やわがままをぶつけたところで、騎士はむしろ喜ぶという考えが抜けている。
まぁ結局のところ、何が正解なんてキャスターにはわからないし、深く首を突っ込むつもりはない。
「妙なこだわりすてて素直になりゃ、一気に解決なんだけどなぁ」
キャスターはぼやくように言うとまだ半分以上残っていた葉を包んだ紙を携帯灰皿に押し込んで、バーソロミューを探しを再開した。