パーシヴァルがとち狂った。
よりよって私に惚れた。
こんなしがない海賊に。
よし、パーシヴァルの為に付き合うはないなと思っていた。
だってパーシヴァルは素敵な青年だ。
聖槍を持ち、高潔で、それでいて冗談も通じる気やすさ。
とはいえ、価値観も住む世界も違うのだからと、猛アタックされたが、かわしたりいなしたりとして諦めてくれるのを待っていたのだが、一向にこちらに向ける情熱の炎を消す気配がない。
うーんと方針をかえた。
とりあえず付き合った。
そして横恋慕が入ったら盛大になびいて幻滅されて振られよう。
常日頃から浮気はよくないと言っている彼の事だ、幻滅するに違いない。
そして私は生前からの男も女も虜にした伊達男バーソロミュー・ロバーツ。
フラフラ隙だらけにしてたら誰か一人ぐらいは声をかけてくれるだろう。流石に同僚はマズイと英霊が声をかけてこなかったら、その時はレイシフト先でもいいのだ。
まさに完璧な計画。
そう思っていたというのに、
「なのにっ! なぜ!」
ダンッとバーソロミューはグラスをカウンターに叩きつけるように置く。勢いがありすぎてウィスキーで手とカウンターが汚れたがかまっていられない。
「サーヴァントは予想していたが、レイシフト先の酒場でも持ち帰ろうとする奴等が現れないなんて……」
何が悪いんだ。
生前と何か容姿が変わったのだろうか? 生前は町を歩くだけで入れ食い状態だったというのに。
そう嘆いていれば、横に座る騎士がおしぼりでそっと手を拭いてくれる。
「カルデアで貴方とパーシヴァル卿仲を知らない者はいないので声をかけづらいのでしょう。レイシフト先は今のところ、私やランスロット卿、トリスタン卿といった円卓の騎士が同行しており、パーシヴァル卿頼みで目を光らせているからではないですかね? ほら、カウンターも拭くので手をあげてください」
優しく太陽の騎士に言われて、素直に手をあげるバーソロミュー。
「ううううう。私の完璧な計画がぁこのままじゃあ、失敗に終わってしまうぅぅぅ」
「はい、もう手をおろしてもいいですよ。それでいい加減、諦めては?」
ウィスキーで濡れたおしぼりを横に置いてガウェインが言えば、バーソロミューが拗ねたように唇を尖らせる。
「……いい加減、諦めてパーシヴァルの愛を受け取れって?」
「それもありますが、いい加減、諦めて自分の心に素直になればどうですかという意味ですね」
いい加減、腹を括りなさい。と、ガウェインが横目でバーソロミューを見れば、バーソロミューは顔を逸らして「なんの事かわからないな」と言った。
「ふむ。では、踏み込みましょう。パーシヴァル卿を褒め称える言葉を食堂でもBARでも散々謳って、パーシヴァル卿と毎日のようにストームボーダー内を仲睦まじく散歩してマスターにも祝福され、あれだけマスターにも認められたラブラブアツアツカップルを見せつけられればサーヴァントの食指が動くはずがなく。レイシフト先では、パーシヴァル卿耳に入らないと意味がないからとわざと誰かに見られるように動いていたようですが、その“誰か”は全て止めてくれる者を選んでましたよね? “誰か”がいない時、絡まれてもかわすか殴りとばしてるでしょう? 計画を潰してるのは貴方ですよね? そしてパーシヴァル卿と交流のある騎士を誘って愚痴るのは、自分と煮え切らない態度で接してしまうパーシヴァル卿に対する弁明ですか?」
朗々と語る太陽の騎士に、バーソロミューの頬は酒ではない違う朱がさす。
そのまま五分、互いに何も話さない。
先に口を開いたのはバーソロミューで、声は小さく、恥ずかしげに震えていた。
「……だって」
「だって?」
「自分の気持ちを計画に組み込んでなかったんだもん……」
「…………なるほどこれがあざと可愛いですか」
「はっ!? 誰が!?」
バーソロミューが顔を真っ赤にしてガウェインに噛みつく。
だがガウェインは涼しい顔で、全てを受け流し、バーソロミュー、その背後に声をかけた。
「私は酒を呑みなおしますので、どうぞ部屋なりシミュレーターなりで恋人水入らずで」
「え? へ? え! パーシヴァル!?」
驚きの声をあげるバーソロミューが、パーシヴァルに連れられてBARを去っていく。
静かになったBAR。ガウェインはマスターに「辛口のウィスキーをお任せでお願いします」と注文した。