生前、ジョンであった時も一介の船員にまともな休みなどあるはずがなく、バーソロミュー・ロバーツになってからは、目まぐるしく、忙しい日々をおくったと思う。
音楽家に安息日に休みを与えていたが、船を動かす船長や船員はそうもいかなかった。
当時はそれが普通で疑問にも思いはしなかったし、今でも思ってはいない。
話が逸れた気がするので本題に入るが、つまり生前には得られなかった何日、下手をすれば何ヶ月もの自由に過ごせ休める時間。それを持てるようになってからというもの、休みをどうするのか悩むようになった。
休日って何をするものだ。しかもこんな長期間。
だから色々と手を出した。
趣味のメカクレウォッチングや、アニメや漫画、小説。シミュレーター。現代のスポーツや図書館にゲームに他サーヴァントとの交流。
そして一夏で終わらなかった恋。
どれも楽しんで堪能して満喫して、これは一日25時間あっても足りないななどと思い、充実してるなぁと借りている部屋に帰り、ベッドに腰掛けて、するりとある言葉が口から漏れた。
「疲れたな……」
発する気がなかった言葉と自分でも驚くほど疲れ果てた響きに、自分が疲れているのだと自覚する。
もちろんマスターのサーヴァントとしての本分は忘れてはいない。マスターの為ならばいつでも希望を届ける船になってみせよう。
だがそれはそれとして、このカルデアにはバーソロミュー以上の戦力が揃い、智将もいる。マスターのメンタルをケアするのだって、専門家がいるのだ。
正直、弱小霊基のバーソロミューに出番などない。
不貞腐れる、なんて事はなく、よしこの機会、めっちゃ遊んでやろうとスケジュールを組んで、毎日、満喫して充実していたのだが、どうやらやりすぎたようだ。
思った以上に身体にも精神にも疲労が蓄積している。
楽しい事だけしていても精神も肉体も疲れるのだと、なにかのアニメキャラが言っていたっけ。
よし休もう。
善は急げとバーソロミューはベッドに横になり、次に起きた時には三日経過していた。
は?
と何度も日付を確認した。何度日付を確認しても三日後から変化はしなかった。
バーソロミューが寝続けた三日。
三日の間にも“遊び”の約束はしていた。幸い、約束をすっぽかしても騒ぎにならない連中だった為、大ごとにはならなかった。
これがあの夏でできた友達だったら、心配して部屋を訪ねて医務室に運び込まれて騒ぎになっていたかもしれないと胸を撫で下ろす。
よほど疲れていたんだなぁベッドの上、スッキリした頭と身体で伸びをする。
身体も精神も好調だ。
これはいいかもしれない。
真面目に休日を楽しみ、時たましっかり休息する。
寝るだけというのもいい。誰にも迷惑をかけない。期間としては一ヶ月に三日ぐらいだろうか?
バーソロミューは良い休息の仕方を見つけたと喜んだ。
「だから、心配などいらないんだよ」
半年後、いつも通り三日間寝て、起きたら心配そうな騎士がバーソロミューの寝顔を見つめていた。
なぜここにという前に、心配なんですと顔に書いて犬耳も垂らしたように見える騎士に事情を説明していた。
心配するかと話さなかったのだが、愚かではあるが聡い騎士が気付かぬわけがないのだ。
毎日なにかしら遊ぶ予定をたてて忙しくしている海賊が、一ヶ月おきに三日間、予定を空けて部屋に閉じこもっている事に。
実際は寝ているだけなのだが、何かしらの霊基異常を疑われてもおかしくはない。
バーソロミューが説明を終える。それでパーシヴァルが胸を撫で下ろすと思ったのだが、パーシヴァルの顔色は晴れない。
「きちんと診てもらうべきでは?」
「秩序善らしい言葉ありがとう。定期検診は受けているし、問題はないよ。本当に日々の遊びに疲れてドバッと寝ているだけなんだ。こういうライフスタイルだと思ってくれ」
パーシヴァルは心配そうな顔のまま、一分ほど考え込み、口を開いた。
「では、」
「……」
どんな忠告がくるのか。遊ぶのを少し控えては? だろうか。
それともやはり一度、精密検査を、だろうか?
「三日間、寝る時は私がずっと側にいても?」
「うん?」
なんだって?
とパーシヴァルを見上げれば、少し頬を赤くして照れたように早口で捲し立ててくる。
「もちろんレイシフトメンバーやマスターからの要請があればそちらを優先するが、私も貴方に合わせて休みをとろう。私の休息にもなる。それにそうすればもし貴方に異変があってもすぐに対処できるし、貴方の力になれるのが私だと嬉しい。気配が気になるというなら霊体化しておこう。この勢いで本音を語るが、いつも人に囲まれている貴方を三日間独占できる機会を逃したくないんだ」
「……」
バーソロミューが何も言えなくなっていると、パーシヴァルはきゅんと鳴きそうな表情で、「だめだろうか?」と言ってくる。
それに赤い顔で、「だめでは、ない、かな……」と返すのが精一杯だった。