猫一匹に期す朝、身支度を整えて居室を出ると、鶴丸国永とばったり行き会った。
否、ばったりと言うのは正しくないかもしれない。鶴丸は吹き曝しの渡り廊下で桟にもたれ掛かって、何かを待っているような風体だった。まだ早い時間だが戦衣装をきっちり着込んだ姿は、すっかり色づいた庭の紅葉の中で白く浮き上がって一層目を惹いた。金鎖が薄い朝日を弾いて光る。
刀剣男士の居室が並ぶ棟は廻廊になっていて、一本の渡り廊下で他の棟へ続いている。彼はそこに居た。
鶴丸はこちらと目が合うと、思いがけず面白いものが現れたように笑う。
「お、三日月か。なるほどな」
「お早う、鶴丸。俺になにか用か」
「早起きのきみにこいつをやろう」
軽い動作で近寄ってきた鶴丸は、三日月の目線の高さに何かを掲げた。白い指がつまみ上げているのは体を丸めて眠る猫の根付だった。象牙を削ったもので温かみを感じる色をしている。それほど精巧な造りではないからこそ、間の抜けた姿は見るものをほっと和ませる力がある。
9834