Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    Touno_hiragi12

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🎉 🍑 💘
    POIPOI 20

    Touno_hiragi12

    ☆quiet follow

    長編書きたいなって始めたもの。雰囲気で読め

    一応⛓🌧になる
    連載形式

    波のまにまに、心のままに 意識を失う前。最後に聞いたのは、こちらを心配する男の声だった。

    数ヶ月前からフォンテーヌの全ての海域で異常な海流や地脈の流れが観測されていた。
    予測できない波の流れに、凶暴化した原海アベラントの襲撃。
    ふたつの要因によって現在のフォンテーヌ海域はとても危険なものと化している。
    水と密接な関係性にあるこの国にとって、水上の運行に支障を来すのは大きな損失を産む。
    既に漁業関係に打撃を受けており、国の産業と国民の生活の為にも早急な解決に向けてマレショーセ・ファントムが動いていた。
    しかし調査は芳しくなく、警備隊を護衛に付けるなどの一時的な対処を余儀なくされている。
    ただ悪戯に時間だけが過ぎていく中、一人のメリュジーヌがぺトリコール付近で見慣れぬ秘境を見つけたとの報告を持ち帰ってきた。
    長期間にわたる調査の結果、特殊な封印が施されている秘境に立ち入る事が出来るのは神の目の保有者など、元素力を自在に操れる限られた人物だけだということが判明した。
    この調査報告を受け、この国の異常事態を酷く憂いていた最高審判官ヌヴィレットは自らを含む信頼出来る人員を集めたチームを結成。
    秘境内にフォンテーヌを襲う事態を解決する術があると信じ、彼らは未知の空間へ踏み込んだーー。

    「……なんだか変な感じだね。」
    各国の秘境を巡ってきた旅人がぽつりと呟く。
    じめじめとしていて、薄暗い道に水の滴る音が響いている。
    何とも形容しがたい異様な雰囲気に、彼女の相棒は不安そうな顔を浮かべた。
    「オイラもそう思うぞ…。なんだか、そわそわするって言うか……。」
    「フォンテーヌに異常事態が発生してから生まれた秘境な上に、入る者を限定している場所だ。何が起こってもおかしくは無いだろう。」
    ヌヴィレットの生真面目な返答にパイモンは情けない声を上げながら旅人に抱きつく。
    涙目になっている相棒を「何かあったら守ってあげるから」と撫でて慰めつつ、残りの同行者に話題を投げかけた。
    「公爵はどう思う?」
    「そうだなぁ…。ヌヴィレットさんの言う通り、発見された時期や厳重な封印が施されていたって所から察するに、ここが今回の事態に関係しているのは間違いないだろうな。それに……。」
    「それに?」
    「場所が場所だろう?レムリア王国時代の遺産を何者かが発掘し悪用したって説も考えられる。」
    レムリア王国。その言葉を聞いて旅人は眉を顰めた。
    以前ぺトリコールの奥底に沈む、かつての王国で起きた一連の事件に関わったことがある。
    あの黄金劇場から始まった出来事を考えると、悪意のある誰かがフォンテーヌに脅威を振りまこうとしても可笑しくはないだろう。
    何せ、憎しみと邪悪はなにから生まれるのか分からないのだから。
    「ま、何があるにしろチャチャッとぶっ飛ばして解決しちゃいましょ!」
    暗い秘境内に弾けるような明るい声が上がる。
    声の主はこのチームの最後の一人、ナヴィアだ。
    海に程近いポワソン町の代表として立候補し、その実力と正義感からメンバーとして選ばれた。
    彼女の力強い言葉に全員が頷き、原因が眠っているだろう最奥を目指して秘境内を突き進む。
    道中には凶暴化した原海アベラントや濁水精霊などの魔物が行く手を阻み、その度に協力して打ち倒し先を急いだ。
    ーー秘境というのは場所によってその内装を大きく変えるものなのだが、ヌヴィレット達が攻略しているこの秘境は下へ下へと、まるで深淵に導く様に降りていく形式となっていた。
    一層降りる事に水の気配が濃くなり、奇妙な静けさが広がっていく。
    上層部にはあんなにも侵入を拒むかのような番人達がいたというのに、下層部には魔物一匹いない。
    嵐の前の静けさというのだろうか。緊張感が走る中、漸く最下層の部屋まで辿り着いた。
    水の動きを思わせる流線型の柱が立ち並び、波紋を模した柄が刻まれた装飾品が空間を彩っている。
    「なんだろ、ここ……。」
    「一見するとなにかの儀式場に見えなくもないが……。」
    場数を踏んでいる旅人と、観察力に優れるリオセスリが前に出て室内をざっと見渡す。
    広さは大体リオセスリの執務室程で、全員で戦うとなると手狭に感じる。
    床の中央には中くらいの穴が空いており、底の見えない水面が覗いているのもいざと言う時に行動を制限される要因となりそうだ。
    「ここで厄介な事が起きないのを願うばかりだな。」
    やれやれと肩を窄めたリオセスリは落ちないように気をつけつつ、穴を見下ろした。
    「……ふむ、非常に深い穴のようだ。私以外の者が誤って落ちてしまうのは危険かもしれない。」
    隣に並んで見下ろしていたヌヴィレットが呟く。
    よくよく観察すると水中に下へと導く流れが生まれていて、ヌヴィレットの様に水中を自在に動ける存在か、潜水士の様な泳ぎに長けた者でなければ確かに危険そうだ。
    「じゃあ皆気を付けながら探索しないとな。」
    「そうね。ここが一番奥なら、フォンテーヌの海をおかしくしてる原因があるって事だし。足元注意しながらしっかりと調べないとね。」
    そういうや否や彼女は早速この部屋にある柱や装飾品、壁などを確かめていく。
    旅人と公爵もナヴィアに倣って近くの壁や装飾品へと近づいた。
    ヌヴィレットは、というと……どうしてかこの穴の底が気になって仕方がなかった。
    まるで自身の心の深奥を覗いているかのような心地を覚える、この水底。
    触れられたくない本音を隠すように暗くなる水中。
    本能が、この奥底に『何か』があると告げている。
    そう感じた瞬間、その身を穴の中へ投げ出していたーー。
    「ヌヴィレットさん!?」
    異変に気が付き、駆け寄ってきた男の声が聞こえた気がする。
    けれど、慣れ親しんだ冷たくも心地のいい感覚に自分の意識が溶けて消えてしまう。
    返事もろくに出来ぬままプツリと途切れた意識の中、鮮やかなロマリタイムが見えた。

    遠くで波が寄せては返す音がしている。
    胎児だった頃の記憶も、ひいては両親が居たのかすらも覚えていないこの身だが、何故だかこの波の音を聞いていると安らぎを感じた。
    居心地のよいぬるま湯に浸かっているような、どうにも目覚め難い気持ちのまま微睡んでいると、誰かの手が頬に添えられた。
    「ーー、ーー……。」
    優しい《大好きな》声がする。
    何度も降り注いでくるその声を、言葉をよく聞きたくて、鉛のような瞼をこじ開けた。
    「おお!漸くお目覚めになられましたか!」
    聞きたかった声は霞のように消え去り、代わりに飛び込んできたのは自分そっくりなかたちをした人物の顔だった。
    「君、は……。」
    「この姿では分からぬのも仕方ありませんな。ワシですぞ。水のヴィシャップのプリンケプスである、スキュラ。分かりましたかな?」
    「スキュラ、殿……?しかし、」
    記憶の中にあるスキュラはイコルという液体によって形成された巨躯の龍体で、このような人型…しかも自分にそっくりなものではなかったはずだ。
    困惑するヌヴィレットを見て、スキュラを名乗る男は己の体を確認した。
    「この姿に関しては…ワシもよくわかっておらんのです。気が付いたらなっていた、としか……。」
    分かりやすく眉を下げ、口をへの字に曲げたスキュラの顔にヌヴィレットは、自分の表情筋ー厳密に言えば、そっくりな別物だーがこんなにも動く事に驚いてしまった。
    人によってこんなにも違うのだろうか?と思考が横に逸れそうになったが、スキュラの「龍王様?」という呼び掛けに引き戻される。
    「あ……すまない、まだぼんやりしているようだ……。」
    「いやいや。お目覚めになられたばかりですから、意識が混濁していても仕方ありませぬ。何せ、よく分からぬ空間へ放り込まれてしまいましたからのぉ……。」
    「よく分からない空間?」
    こぼれ落ちた疑問に老爺は答える。
    「龍王様も感じ取れるかと存じ上げますが、この空間にはおかしな元素力の流れが渦巻いておるのです。それが結界のような形を成しているとは思うのじゃが、如何せんこの空間がどの様な経緯で生まれ、効果を与えるのかさっぱり掴めんのじゃ……。」
    感覚を研ぎ澄ませると、確かに激しく乱れながら何処かへと流れ行く元素力を感じ取れた。
    水元素と深く共鳴できる、元素生命体の上位種たるヌヴィレットがより詳細に探れば原因が分かるのかもしれないが、どうしてか頭の中にノイズが走り上手くいかない。
    ずきずきと痛み出した頭を抱えると、スキュラが心配の目を向ける。
    「無理はなさらず。時間はかかりますが、地道に探索するのも悪くないですぞ?」
    脳をあまり刺激しないようにゆっくりと王の体を起こしてやり、柔らかく微笑みかけた。
    乱れてしまっている前髪を整えてくれる手つきには慈しみが詰まっていて、ヌヴィレットは肉親がそばに居たらこんな感じなのだろうかと擽ったい気持ちになる。
    「歩けますかな?」
    「まだ少し頭が痛むが、支障ない。」
    のろのろと立ち上がり、周囲を見渡す。
    見覚えのない白浜に、何処までも広がっていく蒼海。
    ……ここは一体、秘境内のどこなのだろう?そもそも、秘境の中なのだろうか?
    何も分からぬまま人型となったスキュラと共に彼方を見つめていたーー。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator