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    だいぶ前に呟いた応楓種族逆転if
    龍尊応星×短命種丹楓のさわりだけ

    輝く星、消えゆく月羅浮の龍尊が変わり者であるというのは仙舟では有名な話である。曰く、武器の代わりに金槌を持ち、水よりも鉄を操る。先代達が積み重ねた伝統には目もくれず、最新式の武器を学ぶのにご執心の傾奇者というのが世間での龍尊、応星の評判であった。
    そんな龍尊としては一つも良い点が挙げられない応星がなぜ持明の長の立場に君臨し続けられるかといえば、その作り出す作品が天に並び立つものがないほど素晴らしいものだからである。代表的な物で言えば、羅浮剣首鏡流が持つ支離剣だ。それは鏡流が剣首になった祝いの品として応星が送ったものであるが、その切れ味の鋭さは宇宙の端にすらその名を轟かせる一品である。武器の他にも技巧や細かな装飾品に至るまで、応星の名が付いた作品にはそれこそ天文学的な金額が付き、あらゆる人々が欲しがる品なのである。
    「駄目だ~!!」
     そんな下界の事など露知らず、応星は今日も自らの天洞に引きこもり鉄を打っていた。今の応星が熱中しているのは槍である。雲のように軽く、しかしその一撃は岩すら砕くような、そんな神話の中でしかお目にかからないような品を作るべく応星は頭を捻っていた。
    「煮詰まっているようだね」
     従者がせっかく整えたであろう髪を掻きむしる応星の背後から声が聞こえる。この天洞は応星が認めた者しか入れないように細工がしてある。例え龍師であろうと入るのは至難の業であるこの場所で応星に声をかけるものなど数えるほどしかいない。
    「なんだよ景元、冷やかしか?」
    「いやいや、冷やかすなんてとんでもない。私はただ、もう一週間も天洞から出てこない龍尊様にお声がけするよう君の従者から泣きつかれただけさ」
    「おっ、もうそんなに経ってたのか。全然気が付かなかった」
    「一つのことに熱中するのはいいが、時間を気にしないのが君の悪い癖だね」
    「時間なんざ、俺たち長命種にとっちゃそれこそ湯水みたいにあるもんだろ。気にするだけ無駄だ」
     そう、応星にとって時間なんてものは応星にとっては道に落ちている石よりも軽い存在である。七百年。龍尊として一族を従え、不朽へと至る道を探すことが人生の命題である応星であるが、それでも、人生という余白を埋めるにはなお有り余るような時間である。
     幼いころは空を見上げ、星を数えてなんとかその時間を埋めようと努力をした時期もあったが、それも三度繰り返したころには諦めた。今はただ、作品という形あるものを生み出すことで満足感を得ることに必死なのである。
    「まぁ、そろそろ出てやるか。丁度行き詰ってたところだしな」
    「あ、その前に。そこにある試作品を貰ってもいいかな?」
     伸びをした背中から、ごきりと骨が元に戻る音がする。そのぐらい長く留まっていた証拠である。ふわ~、と気の抜けた欠伸を漏らす応星に景元は端の方に置いてある試作品を指さしながら尋ねる。
    「いくらこの応星の作品とはいえ、そいつらは試作品だからな。気にせずに持っていけ~。どのぐらい欲しいんだ?」
    「全部貰うよ」
    「全部!?」
     景元の言葉に流石の応星も声を上げる。何故ならその応星の試作品というのが、景元の腰ほどまで高く積み重なっていたのだから。
    「おいおいおい、遠慮がないにもほどがあるだろ! いつから雲騎軍は武器も買えないほど貧乏になっちまったんだぁ!?」
    「ははは、そこまで落ちぶれちゃいないさ。ただ、このままだと本当に武器不足になってしまいそうではあるね。彼、すぐ武器を壊してしまうから」
     笑いながらそんなことを言う景元に応星は首を捻る。
    「なんだよ、そんな化け物みたいな新兵が入ってきたのか? こりゃ鏡流も引退が近いかもな」
    「馬鹿を言ってはいけない。そうだ、君も一度見に来るといい。行き詰っているんだろう?」
     ふ、と目を細めて景元が笑う。長い付き合い上、応星は知っている。景元がこの笑い方をするときは本当に面白いものがあるときであると。久々に退屈が潰せる予感がして、応星は一も二もなく頷いた。

    「それで、その怪物はどいつだ?」
    「そんなに急かさなくても、すぐに分かるよ」
     祭りに来た子どものようにはしゃぎながら訓練所へとやってきた応星に場の空気がざっ、とどよめく。一瞬の静寂のうち、至る所で武器を打つ音が大きくなる。
    「相変わらず人気者だね」
    「へっ、どうせ目的は俺じゃなくて俺の作品だろ」
     応星の言うように彼らの目的は少しでも応星の目に留まり、彼の作品を下賜されることである。昔、応星が戯れに一人の兵に武器を渡したことから始まったこれは、今では雲騎軍での立ち位置を決めるほどにまで大きくなっているのだという。
    しかし、そこは天上天下唯我独尊傲慢龍尊様の応星である。いかに羨望の眼差しで見られようが気に入らなければ渡さないし、万一渡しても、くれてやってもいいかという、あまりにも上から目線な態度であった。
    「ほらあそこ、丁度、模擬試合が始まるよ」
     景元が指を差す先に応星は目を向ける。雲騎軍を武器不足にするほどの怪物とは果たしてどのような人物なのか。人込みの中からその姿を見つけた応星は思わず叫んだ。
    「景元、なんだよあれ! まだ餓鬼じゃねぇか!」
     中心にいたのは、年はまだ二十に入ったばかりの青年である。他の兵士よりも一回りほど小さい体もそうだが、その見た目も、武人と呼ぶには麗しく、腰ほどまで長い髪と整った顔立ちは窓辺に座り詩でも読む方が似合いの容姿である。そんな、修練場に似つかわしくない姿の青年を見て叫ぶ応星を前に景元はどこか楽し気に答える。
    「まぁまぁ、彼、見た目はまだ若いがその実力は折り紙付きだよ。現に、この前私も一本取られた」
    「そんなのお前が寝ぼけてただけだろ。あんなまだ尻に卵の殻が付いたようなガキんちょ相手に負けるなんざ、お前も堕ちたもんだな」
    「君も見ればわかるさ。ほら、始まるよ」
     銅鑼の音が響く。試合開始の合図である。試合の相手は二回りは大きいであろう仙舟人の兵士である。中段に剣を構える相手を前に、青年は槍先を下げて相手を睨む。互いに相手の隙を伺う中、先に動いたのは兵士の方であった。兵士の振り上げる剣をいなしながらも、青年はじりじりと後ろに後退する。そうして、端まで追い詰められた青年に、間合いに入り込んで来た兵士が剣を振り上げる。
    「ほれ見ろ、あれじゃもう終わりだ」
     槍の利点はその間合いの長さである。しかしその長所も、間合いに入られてしまえば無きに等しい。それが体格差のある相手であれば尚更、状況をひっくり返せるはずもない。勝負は決まったも同然である。はぁ~と大きな溜息と共に吐き捨てる応星を前に、景元はいたずらっ子のような笑みを崩さない。
     ガキン! と固い物同士がぶつかる音が響き、それと同時に青年の体が宙を舞い、修練場の中央へと着地する。兵士が剣を振り下ろす瞬間に合わせて少年は自らの槍を相手の手元に引っかける。そのまま、その力を利用して後方へと飛び上がり、素早く自分の間合いを取り戻した青年は振り返る兵士に向かって槍先を突き出す。
    それはまるで、天高く登る龍のような、荒々しくも真っ直ぐな一筋。見事に胸の中央に当たった一撃は相手を場外へと弾き飛ばす。それと同時に、持っていた槍はその天寿を全うし二つに折れてしまった。
    「どうだい、見事なものだろう?」
     ふふん、と自慢げに笑う景元は応星には届いてはいなかった。しばしの間固まっていた応星は、やがてはっと意識を取り戻して場内へと駆けていく。
    「おい、そこのお前!」
     青年に近づいた応星に周囲がざわめく。そんな喧騒を無視して応星は青年の手首を掴む。折れた槍先と、青年の手を見比べながら、応星は叫んだ。
    「なんだこんな粗末な槍使ってんだよ、どう考えてもお前には重いだろうが!」
     応星が粗末な槍と言い切ったそれは、雲騎軍の兵士に支給される標準的な槍である。ただし、体格のよい兵士向けに作られたそれは青年が持つには確かに少し重いように見える。
    「打撃が想定より右にズレただろ、重心がぶれてんだよ。もっと重心は後ろに、あと全体的に軽くして……」
     青年の手を握りながら思考を纏めるように応星はブツブツと呟く。その頭の中には先ほどまで煮詰まっていた槍の構想が湯水のように湧き上がっている。
    「なぁ、今度俺の作った槍使ってみろよ。こんなのよりずっと使いやすいぜ」
    頬を紅潮させながら応星は青年に言う。そうだ、応星が求めていたのはこれだ。どれだけ素晴らしい武器を考えようが、使い手が見えなければ完成しない。応星の考える槍は、この青年ならきっと、上手く使いこなせる。青年だってきっとそれを望んでいるはずだ。
    「いらない」
     手を握られたままの青年は、応星の顔を困った様に見ながら、けれどきっぱりそう言った。
    「はぁ!?」
     周りの喧騒が一際大きくなる。あの応星が自ら試作を申し出る事すら珍しいというのに、それを断る者がいるなんて! 周囲の言葉にならない衝撃の中でも青年は冷静な様子で言った。
    「申し出は有難いが、余には必要ない」
    「なんでだよ!」
    「どうせすぐ壊す」
     青年の一言に、ぴきり、と応星のこめかみに青筋が浮かぶ。この餓鬼、応星の申し出を断るだけでなくその作品がすぐ壊れると抜かすとは。なんたる不遜、なんたる傲慢!
    「だぁれの槍がすぐ壊れるだって!?」
    「形あるものはいつか壊れる。槍も、故郷も、余の身体も。すぐに朽ち果てる」
     ゆっくりと青年が応星を見る。応星を映す翡翠の瞳は湖畔のように凪いでいる。

    「その前に一つでも多く豊穣を滅ぼすのだ。だから武器など、使えれば何でもよい」

    けれど応星は見た。その湖畔の奥で復讐の熱が燃え滾るその様を。
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    ksmt2480

    DOODLE急に生理来ちゃった丹恒ちゃんのために深夜の薬局で生理用品コーナーの前で挙動不審になる刃ちゃんの話
    刃ちゃんの異世界冒険記 草木も微睡む深夜零時、刃は異世界に居た。
     いや、正確にはここは惑星地球にある刃の家の近くの薬局であるのだが。刃にとっては未知の世界が目の前に広がっている。近くで足音が聞こえる度にぴくりと身体を跳ねさせている刃の姿を同僚が見たらどう思うのだろう。それでも、果たすべき使命のためを刃はじっとその場で、───生理用品コーナーの前で、何を買えばいいのかを真剣に悩んでいた。

     そもそもの話は数十分前に遡る。眠っていたはずの刃はぐい、と身体を引かれる感覚で目を覚ます。何事かと、その大きな身体をのっそりと起こすのと同時に下敷きになっていたシーツが抜けて、横からどたん、と大きな音が聞こえた。
    「……何をしている」
     刃が音の原因を探せば、意識があるまで腕の中に閉じ込めていたはずの丹恒が床で尻もちを付いている。その腕の中にある白い布が証拠だ。わざわざ恋人のために用意した柔らかなベッドではなく、なぜそんな床にいるのか。何気ない疑問を簡略化して問うのは刃にとっては当たり前のことであるのだが、今日に限ってはその当たり前が悪い方向に働いてしまった。
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