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    ksmt2480

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    ksmt2480

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    景丹♀

    人の振り見て我が振り直せ「将軍、お願い〜!」
    頭を下げ、両手を合わせながら彦卿は頼み込む。ここまでする理由は言うまでもなく、小遣いの前借りだ。この前長楽天で見つけた素晴らしい剣を買う為の資金が手持ちの分ではどうしても足りないのだ。
    そんな彦卿を見ながら彼の師匠であり保護者の景元ははぁ、と溜息を着いた。
    「二月ほど前にもそう言って小遣いを前借りしただろう? いい加減我慢を覚えなさい」
    「だって……」
    窘められ、彦卿はしゅん、と肩を落とす。金遣いの荒さは自分でも分かってはいるのだ。でも、どうしたって駄目なのだ。
    「目の前に素晴らしいものがあって、それに手が届きそうなのに伸ばさないなんて勿体ないよ。ぼーっとしてたら他の人に取られちゃうかもしれないんだよ?!」
    そう熱弁する彦卿に景元は微笑みながら言う。
    「その情熱は若い時だけの特権だ。大事にすべき物だよ」
    「じゃあ!」
    「しかし、分をわきまえてこそ大人というもの。それとこれとは話が別だ」
    期待させるような口ぶりをして、そんな事を言うのだから彦卿は頬を膨らませ不貞腐れる。その見て景元は「それなら、実際に実物を見て決めようか」とまた笑うのだった。
    二人並んで長楽天を歩いていると、視線の先に見慣れた後ろ姿を見つける。
    「あっ、穹先生だ!」
    彦卿の声に、相手はくるりと振り返る。
    「彦卿、それに将軍も。二人してサボりか?」
    「違うよ、今は休暇中!」
    「彦卿の買い物に付き合っているところだ。……君は?」
    景元が一瞬、サッと視線を走らせる。しかしすぐに視線を戻すと、何事もなかったかのように話を続ける。
    「俺たちは依頼。この家の整理を手伝って欲しいって頼まれたんだ」
    穹は一軒の家を指さす。その庭先に広げられた敷物の上には、見るからに古そうな品々が所狭しとと広げられている。
    「なんでも物をしまったままにしておくとスウォームが湧くらしい。羅浮は危険がいっぱいだ」
    「スウォームが?!」
    生まれてこのかた仙舟で生きてきた彦卿であるが、そんな話は初耳である。部屋に置いてある剣たちは大丈夫だろうかと不安になる彦卿とは対照的に景元は愉快そうにはは、と笑う。
    「それは多分、虫干しのことだね。着物や書物に風を通して黴の繁殖を防ぐんだ。スウォームが湧くようなことは無いから安心して欲しい」
    「そうそれ」
    「なんだ、びっくりした〜」
    三人がそんな話をしていると、家の中からきゃらりとした高い声が上がる。
    「こーら、動かない!」
    聞き覚えのある声に彦卿はぴん、と耳を立てる。
    「あっ、三月先生も居るんだ」
    「あぁ、今日は俺となのと丹恒の三人で来たんだ」
    丹恒という言葉に、景元がぴくりと反応する。部屋の奥からはなのかの楽しそうな声が漏れ聞こえている。
    「そんなに動いたらズレるでしょ! もし汚しちゃったら、うち責任取れないんだから!」
    「だったらしなければいいだろ……」
    「だーめ! 写真撮って姫子とヨウおじちゃんに見せるんだから。ちゃんと綺麗にするの!」
    一体何をしているのだろうと彦卿が家の中を覗き込むと、奥の方で二人が話しているのが見えた。こちらから見えるのはなのかの背中までで、丹恒の姿は手前にある鏡台の隠れて見えない。
    「なの、丹恒。彦卿と景元が来てるぞ」
    「えっ、ほんと?!」
    穹に声をかけられてなのかが振り返る。二人の姿を見つけた彼女は弾けるような笑顔でこちらに手を振る。
    「二人とも元気? こんな所で会うなんて偶然だね〜!」
    「うん、僕は元気だよ。三月先生は?」
    「うちもめちゃくちゃ元気! あっ、そうだ! せっかくだから二人にも見てもらおうよ、丹恒の晴れ姿!」
    「おい三月、ちょっと待て!」
    制止の声も聞かずになのかは奥に居た丹恒を引き摺り出す。現れた丹恒を見て、思わず彦卿は声を上げた。
    「うわぁ……!」
    三人の前に現れた丹恒は、普段の落ち着いた服装ではなく、鮮やかな赤の衣装に身を包んでいる。彼女の動きに合わせて長い裾はヒラヒラと揺れる。細やかに施された金糸の刺繍がキラキラと輝いて、星の煌めきを閉じ込めたようだ。
    女性の装いに疎い彦卿でも流石に知っている。仙舟羅浮の伝統的な花嫁衣裳である。
    「昔一回着て仕舞っぱなしだったのが出てきたから、着せて貰ったんだ。ついでにうちのコスメでメイクしてみたよ、いいでしょ〜!」
    「……そんなに見ないでくれ」
    注がれる視線に、丹恒は恥ずかしそうに顔を背ける。
    彦卿の中では、なのかも丹恒も共に美人の部類に入る。ただし、なのかが花の美しさだとすれば、丹恒の美しさはよく打たれた剣だ。余計な物など一つもない、実用的な美。彦卿の中の丹恒はそんなイメージだ。
    今の丹恒の顔には、左目の下の朱以外にも様々な色が乗せられている。長く伸びた睫毛に淡い桃色の頬、唇に乗る紅色は自然と目を惹き付ける。彼女もまた花の一人なのだと、改めて思い知る。
    「丹恒先生、すっごく綺麗!」
    「でしょでしょ! いいな〜、うちもオシャレしたいな〜!」
    「じゃあお前が着ればよかっただろ」
    「それはほら、もし引っ掛けて破いたりしたら責任取れないし……」
    「なのを舐めるなよ。多分破けるだけじゃ済まないぞ」
    辛辣な意見の穹をなのかが拳でポカポカと殴り、それを丹恒が溜息を付く。仲睦まじい三人の姿に思わずこちらの頬も緩む。
    「ねぇ将軍、将軍もそう思うでしょ?」
    同意を求めるように彦卿は傍らの師に尋ねる。そういえば、先程から一言も言葉を発していない。不思議に思いその顔を覗き込んだ。
    金色の瞳が大きく開いている。巷では無眼将軍などと渾名されるその瞳が開かれているのは珍しい。彦卿の問いかけに答えることなく、ただじっと、目の前の丹恒を見つめている。
    「将軍、どうしたの?」
    服の袖をくい、と引っ張れば、景元はまるで夢から醒めたようにはっと意識を取り戻す。
    「済まない、少し惚けていたようだ。どうかしたかな」
    「だから、丹恒先生綺麗だねって」
    「あ、あぁ、そうだね。うん。とても綺麗だとも」
    うんうんと頷く景元だったが、何処と無く言葉がぎこちない。僅かな違和感に首を傾げる彦卿を他所に列車の面々は話に花が咲いている。
    「でもほんとに似合ってるよ丹恒。特別に宇宙一の美少女二号に任命しちゃう」
    「は? 俺もいるから三号なんですけど」
    「宇宙一なのに複数人いたら問題だろ」
    「美少女は何人いてもいいんです〜!」
    「俺たちぐらいの美少女なら、きっと宇宙のどこにでもすぐお嫁にいけちゃうな」

    「それは駄目」

    その一言に、和気藹々とはしゃいでいた三人の視線が一斉にこちらに向けられる。彦卿も思わず隣を見た。
    四人に視線を向けられた景元は一瞬、きょとんとした顔をして、それから口元を抑えながら慌てて続けた。
    「いやその、私としては見ず知らずの相手に君たちを任せる訳にはいかないというか……。行く前に一回相談して欲しい、かな?」
    景元の言葉に、あはは、となのは笑い出す。
    「何それ。景元ってばヨウおじちゃんみたいなこと言うんだね!」
    「じゃあ、俺がお嫁に行く前にはちゃんと景元に相談するな」
    「お前たち、そんな気軽に将軍の手を煩わせるな」
    「構わないよ。……丹恒殿も、是非そうしてくれたまえ」
    こうして暫しの歓談の後、景元と彦卿はその場を離れた。
    隣を歩く景元をちらりと見て、彦卿は思う。列車組と離れてからというもの、景元は心ここに在らずといった様子で、遠くに視線を向けている。
    「何か考え事?」
    彦卿がそう尋ねる。普段ならば即座に返事を返す景元だが、今は数秒遅れて言葉を返した。
    「いや、なんでもないよ」
    「嘘、絶対何か考えてる。しかもすっごく大事な事」
    彦卿とて、生まれた時から景元の傍にいるのだ。例え他の人には分からないような変化であったとしてもすぐに気が付く。
    真っ直ぐ向けられる彦卿の視線に、根負けした景元はぽつりと呟いた。
    「彦卿、私は先程『分をわきまえるのが大人』と言ったね」
    「うん、覚えているよ」
    「よろしい。……ただ、私も人に高説を垂れるほど出来た人間ではなかったと、そう思ってね」
    「それってどういうこと?」
    首を傾げる彦卿に景元は恥ずかしそうに微笑む。
    「私にも、どうしても欲しい物が出来てしまった」
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