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    ksmt2480

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    ksmt2480

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    「「「わ~っしょい! わ~っしょい!!」」」
     開拓者からただ一言「助けて!!!!!!」というメッセージを受け宇宙ステーションへとやって来た刃。指定された場所にやって来て最初に目に飛び込んだのは、布を被った猫のような不思議な生き物に運ばれている丹恒の姿であった。
     丹恒を運ぶ生物たちは、前に刃のスマホに開拓者が送って来た『ワンダーペット』なるものに柄は違うがよく似ている。ここに来る間にも似たような形のカラフルな生き物を何匹か見たため恐らく亜種なのだろう。そんな、小さくてもにょもにょした生物は自分たちの甲羅(というには柔らかそうだ)の上に丹恒を乗せて、えっさほいさと移動しているのである。
    「……何をしている」
    「だれ?」
    「知らない人」
    「とっても大きいね!」
     思わず刃が声をかければ、それに反応するように彼らは答える。人語を理解する辺り見かけに寄らず知性は高いようだ。六つのまんまるとした瞳が一斉に刃を捕らえた。
    「貴様らが運んでいるそれの知り合いだ」
    「ままの知り合い?」
     刃がそう答えれば、丹恒の頭部分を運んでいた個体が何やら聞き捨てならない呼び方で丹恒を呼んだ。
    「それは、貴様らが運んでいる男のことか?」
    「そうだよ。きゅーままとなのままとたんこーまま、私たちのまま!」
     最初の一体が答えると、その他の二匹も口々に話し出す。
    「本当はわたしたちを作ったのはルアン・メェイで、彼女をままと呼ばなくちゃいけないのだけど。彼女は忙しくてわたしたちには会いに来てくれない」
    「その代わり、三人がわたしたちの世話をしてくれるの」
    「生命活動の手助けしてくれる彼ら三人を、わたしたちは『まま』と定義したよ!」
     可愛らしい外見に反してその言動は機械のような合理性がある。状況を飲み込む刃を前に三匹はまた「よ~いしょ!」と丹恒を運ぶことを再開した。歩くようなスピードで運ばれる丹恒と並走して刃も足を進め始める。
    「それをどこへ連れていくつもりだ」
    「寝ている子はベッドに連れていくに決まっているでしょ?」
     ぼよんぼよんと不安定に揺れる生物に静かに運ばれている丹恒はどうやら眠っているらしい。以前開拓者から聞いた『丹恒は一本の縄の上でも寝られる』という情報が嘘ではないということをこんな所で確認することになろうとは夢にも思わなかった。
    「ちょっと前にわたしたちを生み出す生命オーブンがこわれちゃって」
    「わたしたちの兄弟がたくさん生まれてきたの」
    「でも収容できる数には限りがあるでしょ?」
    「だから今、きゅーままとなのままがわたしたちの新しいおうちを探してくれているの」
    「その間たんこーままはわたしたちの兄弟を洗ってくれたよ」
    「七十二時間休まずにね!」
     要するに、この生き物たちは疲労の末眠った丹恒を寝所まで運んでいるのだそうだ。良く耳を澄ませば確かに小さく寝息が聞こえた。三日間も不休で生き物を洗い続けるなど一体どういう精神構造をしているのかと疑問に思う刃であったが、相手が丹恒であるというだけでその疑問も呑み込めてしまうのだから悲しい話である。
    「着いた!」
     そうして三匹が辿り着いたのは事務用の椅子を三つ並べ、その上に毛布を敷いた簡易的なベッドの前である。恐らく丹恒は作業中ここで寝ていたのであろう、毛布の乱れ方が列車に作った巣と全く同じだ。椅子の前に来た三匹は突然その場でうみょーんと縦に伸縮し始める。
    「上げて上げて~」
    「起こさないないようにね!」
    「落ちちゃうよ~」
     椅子に丹恒を持ち上げようと必死の三匹であったが、自分の倍以上ある人間を持ち上げるには力が足りない。暫く傍観していた刃は溜息を付きながら彼らの上から丹恒を抱え上げ、椅子の上へと下ろした。
    「「「ありがと~!」」」」
    「ふん……」
     椅子の上の丹恒は静かな寝息を立てている。刃が傍に居ても目を覚まさない辺り、相当に疲れていたのだろう。無防備な丹恒の姿に、どうにかしてやろうかと剣を抜きかけた所で足元から地鳴りのような音が聞こえた。
     見ると、三匹の横に別の個体がいる。他の創造物と違い真っ黒で、底が見えない深淵を覗いているような瞳のあいつには見覚えがある。開拓者が写真で送ってきた刃に似た個体。それが丹恒を見つめて喉をゴロゴロと鳴らしていた。
     刃似の生き物はチラリとこちらを一瞥した後、その場でうみょーんと伸び始める。丹恒を運んだ三匹と比べ、体格の大きなこれは器用に丹恒の眠る椅子に前足を引っかけると、そのまま眠る丹恒の顔にむちゅりと自らの顔を押し付けた。二度、三度、むちゅむちゅと顔を押し当てる奴の目的が分からずに刃が眺めていると、足元の三匹がみゃーみゃーと騒ぎだす。
    「わたしもやる!」
    「かわってかわって~」
     そうして足元の二匹は大きな個体にまとわりつき、足掛かりにするように登ると同じように丹恒のおでこにむちゅり顔を押し付けた。
    「なんだそれは」
    「おやすみのキスだよ!」
     言われて刃は、ようやく彼らが丹恒にしているのがおやすみのキスであるということに気が付いた。この生き物たちはそんな事までするのか。半ば関心する刃であったが、ふと最初に丹恒にキスをした、自分似の生き物と目が合う。猫は刃に向かって、ニヤリと、おおよそ猫では見た事がないような表情で笑った。それが何故か「お前には出来ないだろう」と挑発されているような気がして、なんとなく腹が立ってきた。
     そもそも自分が居るにも関わらず惰眠を貪り、小動物とはいえ唇を許すなど油断しすぎだ。これでは何をされたって文句は言えないだろう。
     刃は眠っている丹恒の前に屈むとすやすやと寝息を立てる丹恒の唇にキスをする。
    「ふっ、ん、ぁ……」
     今だ寝ぼけている丹恒の顎を掴んで固定する。小さく開いた口の間から舌を入れてやれば、触れ合う唇が小さく震えた。舌先で軽く突けば、刃が教え込んだ合図に答えるように無意識の丹恒も舌を絡めて、ぐちゅりと部屋に似つかない水音が響いた。
    「ふぁ……? あっ、ん、んン……」
    彼ら四匹がしていたよりも長く、柔らかな唇の感触を楽しんだ刃が口を離せば、四対の目がそれぞれじぃ、と二人を見つめていた。
    「きみもおまじないしてくれたの?」
    「すっごく熱心!」
    「いい夢見れるかな~」
     きゃあきゃあと騒ぐ三匹の横で大きな個体は毛を逆立てながらフシャー! と唸っている。そうして、怒れるそれを前にようやく口を離した刃はお返しと言わんばかりにはっ、と笑ってやったのだ。

    「いや~、なんとか里親見つかってよかった~!」
    「てか、ほぼ景元が引き取っちゃたけど大丈夫なの? うち、なんか心配だよ」
    「大丈夫でしょ、将軍だし」
    「ほんとかな~」
     ワンダーペットたちの里親を見つけげっそりとした顔の穹となのかは洗いを担当していた丹恒の元へと戻って来ると、そこに居たのはキャーキャーと楽し気な声をあげるごま団子たちと、飛び回る黒い物体。それを鞘のついた剣で適当にいなしている刃の姿であった。
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