飲月リリィがやって来た!
クリスマス限定イベント『末代はサンタさん!』の配布サーヴァントとしてやって来た飲月・サンタ・オルタ・リリィ(ムーンキャンサー)
「はじめまして、おれはいんげつ・サンタ・オルタ・リリィ。クラスはむーんきゃんさー。いんげつでもたんふうでも、すきによぶといい」
特異点で死んだはずの龍の子が、何の因果かカルデアにやって来ました。
月餅のような皮を被る謎の生命体達に乗って飲月・リリィはもちもちと動きます。カルデアには珍しいものがいっぱいで、ついついキョロキョロと視線を動かすせいで、何かにぶつかってしまいました。
「あいたっ」
ぶつかった拍子に一等お気に入りの、もち団子と呼ばれるネコの上から小さい身体がコロンと落ちますら、飲月リリィは長い事牢獄に入れられていたので、自分で起き上がることは出来ないのです。
何度か体を動かしてみるもどうしようもなくて、諦めた飲月リリィは腕の力だけでズルズルと床を這い進みます。飲月リリィは「助けて」なんて言いません。ただ世界の端の端に居ても邪魔にならないようにするだけです。
そんな小さな体を、大きな手ががしりと掴みました。そのままゆっくり持ち上げられたので、飲月リリィはぎゅっと目を瞑り衝撃に備えます。床に叩き落とされるか。それとも壁に叩きつけられるか。ありとあらゆるパターンを想像する飲月リリィですが、幸運にも持ち上げた人はその小さな身体を自らの腕の中に抱えてくれました。
こんなことは初めて! 抱きしめられた身体のなんとぽかぽかと暖かいこと。嬉しくなった飲月リリィは、きらきらとした笑顔で言います。
「ありがとう、みしらぬもの!」
長い髪は頬に当たる度にくすぐったくて、飲月リリィはくすくすと笑います。そうすると、大きな手が優しくその頬を撫でてくるので、飲月リリィは嬉しくなって、またくすくすと笑います。
「俺のだ」
大きな人は言いました。
「もう二度と手放すものか。これは俺の、俺の月だ」
はて、と飲月リリィは首を傾げます。生まれてこの方邪魔者扱いされたことはあれど、自分の物と言われたことはありません。飲月リリィは大きな頭をこくんと傾けて尋ねます。
「だれかとまちがえてはいないか? 」
「見間違える筈がない。お前は俺の飲月だ」
返ってきた言葉に、やっぱり人違いをしていると飲月リリィは思いました。
間違いは正さねばなりません。大きい人の広い肩に手を置いて、耳元でこしょこしょと囁きます。
「おれ、ほんとはいんげつでもたんふうでもないよ」
ただ皆が飲月と、丹楓と呼んだからそう名乗っただけ。飲月リリィは自分の名前なんてほんとうは知らなかったのです。
優しくしてくれた大きな人が悲しい顔をするのは嫌なので、飲月リリィは答えます。名残り惜しいけれど大丈夫。元から飲月リリィは一人ぼっちだったので。
大きい人はじっとこちらを見つめます。紫の花の色をした目に、金色の筋が入った不思議な瞳でこちらを見つめます。
「では名をやろう」
「なを?」
「そうだ。飲月でも丹楓でもないお前が、それでもお前なのだと俺が証明してやる」
その日聞いた音の響きを飲月リリィはきっと、座に帰っても忘れることは無いでしょう。
「月明。俺の手にある月の名だ」
「罪人月影。廊下での誘拐からの拉致監禁、永罰に値する。八つ裂きにしてくれるわ」
「八つと言わず十の二乗分ぐらいに裂け。細切れにしろ」
「ねぇねぇ刃ちゃん。刃ちゃんって割いた部分から増えるタイプの個体だったりしない? 大丈夫?」
「増えぬ。次その呼び方をしたら命はないぞ小僧」
「もし飲月に何かあったらその時はその身で罪を贖って貰うからな。覚悟しろ応星」
「なんで俺!?」
「貴様が全ての元凶だからだろ。短命種なのにこんなに何回も出て恥ずかしくないのか?」
「知らねぇよなんか勝手に増えてんだよ!文句ならこっちのコピーファイルに言え」
「黙れ『鍛造途中設計図ver.2』」
「誰が秘蔵のエロ画像ファイルだぶっ飛ばすぞ!」
「オルター! 丹恒と丹楓がブチ切れて部屋壊す前に1回出てきて!お願い!」
飲月リリィが外の騒ぎに気がつくのは、もう少し先の話になります。
それまでは、初めて名前をくれた大きな人の膝の上で飲月リリィはすやすやと眠りにつくのでした。