全てを失ったあの日から、プリズムリバーの屋敷での日々を忘れた日はなかった――と言えば嘘になる。
花よ蝶よと育てられた貴族の娘が、父も身分も資産も失い、たった一人で生きるには相当な苦労が必要だった。最初は父のことを恨んでいたような気がするが、もはや顔さえ朧気だった。私は必死だった。昔、家族がまだ一緒だった頃には確かにあった、美術品だとか音楽だとかの娯楽を楽しむ心の余裕は、すっかり失われてしまった。
もはや「お嬢さん」ではなくなった私だが、それでも私は「生きている」。未だに離れ離れになった姉の一人とは、連絡すら取れていない。つまり、生死不明ということだ。私の生き方は間違ってはいなかった、はずだ。そう思いたい。
そんな私が何十年ぶりにこの場所を訪れたのは、何か大切な忘れ物をしているような気がしたからに他ならない。過去を振り返ることをやめた私が、何故今更そんな気を起こしたのか。自分でも不思議に思うけれど、おそらく霊感のようなものだろう。
――マジックアイテム。私達の全てを壊したソレ。
「もしかして『喚ばれてる』とかね」
半信半疑で何十年ぶりに、かつて我が家と呼んだ場所に向かう。半信半疑と言ったものの、私達は魔法の実在を「知っている」。
「まさか誰も呼んでないとは思わないじゃない」
――そこには何も無かった。
一応元住人として、いつ屋敷が取り壊されたのかを尋ねて回った。最後に誰が住んでいたのかも。すると不思議なことが分かった。
そこには最初から何も無かったのだ。
「メルランはどう思う?」
「どうって最後に出たのはリリカでしょ」
「そうだっけ? レイラじゃない?」
「レイラ?」
何言ってるのしっかりしてよ。とメルランは呆れ顔だ。
「私達、三人姉妹じゃない」
その言葉に若干の違和感を覚えながら、
「そうだったね。どうして勘違いしていたんだろう」
と、私は現実だけを受け入れることに決めた。