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    すなの

    @sunanonano25

    👼😈👼
    書いたやつ‪‪𓂃 𓈒𓏸✎

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    すなの

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    バレンタインぽいアジクロ
    ココアの話です🍫

    ココア それは素敵な出会いだった。悪魔からもたらされたという点ではアジラフェルにとって憚らず好意を示すのは問題があったかもしれないが、とにかく初めて口をつけた瞬間ぱあっと目前が明るくなるような、鮮烈な喜びが舌に広がった。
    「これは……いいな、すごく」
    「それはよかった」
    君も飲んでみるといい、と勧めたが悪魔は「お前が気にいると思って持ってきたやつだ」とちょっと口をつけたあとはただ天使を眺めるばかりだった。あまつさえ「ほら、俺のも飲むか?」とマグをこちらに寄せてくるので、アジラフェルは(あんまり好みの味じゃないのかな?)(まあ天使とお揃いの味が好きな悪魔っていうのも変だもんな)とクロウリーの分もありがたくいただくことにした。天使の気に入りそうな飲み物を手土産に遊びに来る悪魔も相当変なのだが、そこには気がつかない。アジラフェルの天使らしいところだ。
    それからずっとアジラフェルの書店奥の小さなキッチンには紅茶の缶にまじってチョコレートが常備されるようになった。それらを楽しむ時はふつうややこしい考えごとなんかはしないもので、しかしふとクロウリーが自分に寄越したこの素晴らしい飲みものを一緒に楽しめないのは少し残念だなと考えることはあった。元々お店の趣味は合ってもオーダーが被ることはほとんどないし、そんなものかもしれない。天使と悪魔だし、そもそもの味覚が違うのかも。
    ある冬の日のことだった。クロウリーが連絡もなしにふらっと書店を訪ねてきた。どうも疲れたようすで、かっこつけの彼にしては珍しく無防備なため息が多い。ぐったりと奥のソファに腰かけて「店が終わるまで待ってていいか」と呻くように言う。それから、「あれが飲みたい、おまえがいつも飲んでるやつ」とねだられたのでびっくりして、でもあついミルクにチョコレートを溶かしてやって渡したらちびちび飲み始めた。アジラフェルは珍しい光景につい見入って、ソファの前に立ち尽くした。
    「……君はそれが苦手なのかと」
    「なんでだ? 最初にお前に勧めたの俺なのに」
    そんなふうに言って笑う顔がやっぱりくたびれていて、アジラフェルははて、と首を傾げる。チョコレートが嫌いじゃないのも嘘ではないだろうけど、やっぱりクロウリーが今本当に欲しいものはこれじゃないんじゃないかという気がした。でもそれがなんなのかわからない。
    「…………クロウリー、私は……」
    不器用に言葉を探すのを黙って待ってくれている悪魔を見下ろす。両手で大事そうにカップを持っているのが目に入って、それがなにか無性に切なかった。
    「私になにかして欲しいことがある?」
    そう聞くと金色の目がはっと見開かれて、すぐ気まずげに伏せられる。
    「べつに、なにも」
    「…………そうか」
    店に戻ろうとソファに背を向けると「やっぱり」と呼び止められた。振り向くと見上げてくる目と目が合って、それがいやに切実そうで、なんだろうと思う。向き直るとまたしょんぼりと顔をさげてしまうからわからなくてもどかしい。
    「…………抱いてくれって言ったら困るか? 困るよな」
    駆け寄って、忘れてくれとそっぽを向く頬を手のひらで挟んで捕まえる。
    「なんだ、そんなのでいいのか?」
    そう言ってそのままぎゅうっと胸元に悪魔を抱き寄せると何故かため息をつかれたが背中に腕が回って抱きしめ返してきたからほっとする。
    店の表に閉店の札を下げたら自分のカップにもチョコレートを用意しよう。それから彼と並んで飲むのがいい。与えてくれたあたたかなものをやっと分けてあげられたようで嬉しくて腕の力を強めると、耳のすぐ横でくすぐったそうに悪魔が笑った。
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    💘💖🙏😭😭😭❤❤❤❤☕☕☕
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    すなの

    DONEアイスフレーバーワードパレット
    12.バナナ
    ひとがら/そばかす/脆弱性 でした🍌
    人間AUリーマンパロです👓👔
    スイートスポット 情報システム部と総務部なんて一番縁遠そう部署がどういうわけか同じフロアで隣り合っているのは、結局どうしてなんだっけ。
    クロウリーに聞くと「実働とそれ以外みたいに雑に分けてんだろ、どうせ」とか言うけれど、あの日のことを思い出す限り二人にとってこのオフィスの不思議な配置は幸運と言う他なかった。
    土曜の昼下がりだった。産休中のアンナが人事書類を提出しにくるというので、アジラフェルはガランとした休日のオフィスで彼女らを待っていた。それ自体は前々から予定していたことだったし、こちらにもあちらの用意した書類にも不備はなかったから手続きは無事済んで、復職時期の相談もできた。誤算だったのは、どこから情報が漏れたのか、生まれたてのかわいいアンナの赤ん坊を一目見ようとやれ彼女の所属する営業部のだれそれや、同期のなにがしがわらわらとオフィスを覗きに来て、アンナはアンナで「これ皆さんでどうぞ」なんて言ってえらいタイミングでお菓子の箱を出してきたことだ。チョコとバナナのふんわり甘い匂いのするマフィン。個包装だから持ち帰れはするが、まあみんなこの場でいただく流れだろう。そういうタイミングだ。カップが足りない!
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