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    すなの

    @sunanonano25

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    すなの

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    庭ナニ+ウォーロック坊ちゃん

    Fluite 結論から言えばウォーロック・ダウリングは反キリストではなかったが、かと言って凡夫というわけでもなかった。父譲りの野心と母譲りの豪胆さは周りの子どもたちから彼を際立たせたし、素直で賢く、恵まれていた。そして、彼を見守ってきた天使と悪魔を五年も騙しおおせた程に悪魔的ないたずらっ子でもあった。
    事の発端は六歳になったウォーロックが探偵もののドラマにハマったことだった。ウォーロックの家には何人もの使用人が暮らしていたが、その中にフランシスという庭師の男がいた。フランシスは少し浮世離れしている変わり者だったが、彼がこの家に来てからというもの庭の薔薇はまるで天使に祝福されたかのように美しく咲き誇り、屋敷に住む者の目を楽しませるようになった。ウォーロック少年もこの男を気に入っていた。彼の身なりは粗末だったが、土に汚れたポケットの中にはなぜかいつも似つかわしくない高級店のバタークッキーやチョコレートが入っているのだ。さて、ウォーロックは探偵ごっこの最中、このフランシスの手元に興味深い謎を発見した。最初は花壇の土に混ざった石の欠片かと思ったが、どうもそうではない。キラキラした細かな輝きが庭師の指に付いている。一体あれはなんだろうか。あの人の善い庭師が屋敷の誰にも秘密で触れているなにか。それは何なのか? ウォーロックは不思議な庭師の秘密を掴めるかもしれないとわくわくした。
    ウォーロックがまず調査に乗り出したのは屋敷のキッチンだった。庭師の好みそうなお菓子の箱には決まって美しい装飾とリボンがかけられている。それをこっそり開けた時にあのキラキラが付いてしまったに違いない。
    「つまみ食いですか? 坊っちゃま、まるで天使みたいなことをなさる」 背後から声をかけられてウォーロックは戸棚に伸ばしかけた手を止めた。振り向くとキッチンの戸口に寄りかかるようにナニーが腕組みをして立っていた。
    「天使はつまみ食いなんて悪いことしないよ」
    「おや? そうですか、ならば結構。続けてください」
    この子守りも、確か庭師と同時期に屋敷にやってきた、どこか掴みどころのない不思議な女だった。彼女の歌う支離滅裂な歌詞の子守唄は妙によく眠れるのだ。今も、天使のようだと言って行いを咎めて、悪いことを勧めようとしてくる。
    「続けない。つまみ食いしに来たんじゃないから」
    「じゃあどんな悪戯を?」
    「悪戯じゃない、調査だよ。僕は探偵なんだ」
    ナニーは、へえ? と眉を上げてサングラス越しにウォーロックに笑いかけた。少年は彼女の、大人相手にするようなこの挑発的な笑みを気に入っていた。
    「だれの悪事を暴くつもりでいらっしゃる? 旦那様は政治家のわりに悪いことはなさらないし、メイドのアニーのことなら……ちょっと坊ちゃんには刺激が強すぎるかも」
    「どっちでもない。フランシスだよ、庭師のフランシス」
    「まあ! 面白い……彼がどんなことをしたのか、私もとても興味がありますわ」ナニーは楽しそうに声を揺らしてから、キッチンを見回して首を傾げる。「…………まさか、坊ちゃんのおやつのつまみ食いを?」
    「それはまだわからない。でも、証拠があるかも」
    それを聞いたナニーは小さく頭を抱えて、「あー……やりかねん」と気まずく呻いた。どうしたのかとウォーロックが彼女の方を見上げると、珍しくしどもどと「ちょっと今日は、もう遅いからお部屋に戻りましょうか。彼の好きそうなおやつは今日はここにはないかも」などと言う。
    「でも、アシュトレス」
    「いいえ坊ちゃん、今日はもう遊びはおしまい。お部屋に戻りましょうね」
    「部屋で子守唄歌ってくれる?」
    「もちろん」そう言って額をなでてくれる指から、ふと瑞々しい薔薇の香りがした。コロンではない。生きた花の香りだ。ウォーロックはもうちょっとで謎が解けそうな気がして怪訝な顔をしたナニーをじっと見つめる。そして、気がついた。

    「おはよう、ブラザーフランシス」
    「おはようございますウォーロック坊ちゃん」
    庭師はウォーロックが目の前ににゅっと手を差し伸べるとびっくりしたようすで目をぱちぱちと瞬かせた。
    「クイズだよブラザー。さっき僕が触ってきたもの、当ててみて」
    「おやおや、また面白いことを考えましたな」
    庭師はウォーロック少年の差し出された手をじっと観察して、「ふうむ」とそれらしく唸ってみせる。
    「なんだろう、庭の小鳥と遊んだ? ああでも羽がついてない。今朝咲いた薔薇をリビングにお持ちに?」
    「ちがうよ」
    「難しいですねえ……おや、いい匂いがする。おやつのチョコレートをつまみ食いしましたかな?」
    「全部ちがうよ! ハズレだ! じゃあ大ヒントをあげる、フランシスも今日同じものにさわったよ」
    「ええ? なんだろう……やっぱり薔薇の花じゃあないですか? 今そこの株の朝露を払ってやったところなんですよ」
    見当違いな答えばかり繰り出す庭師にふだんだったらイライラしたかもしれないが、この日は違った。ウォーロックは困り顔で眉を寄せる庭師を機嫌よく眺めてから「降参?」と囁いた。「ええ、参りました、降参です」といつも通りの朗らかな笑顔で手を上げた庭師に自慢げに正解を告げる。
    「正解はね、ナニーのほっぺ!」
    「…………見ッ!??」
    フランシスはふだんからは考えられないような俊敏さでウォーロックの手を離して飛び退いた。
    「待ってくれあれは違う……いや、嘘はよくないな」
    狼狽える庭師をウォーロックはきょとんとして見ている。
    「なにを言ってるの? 僕、フランシスの指にくっついてるキラキラがどこから来たのか推理したんだよ! 見ただけでだよ、すごいでしょ?」
    「……なんですって?」
    せっかく種明かしをしてやったのにまだ何事かわかっていなさそうなフランシスにウォーロックは少々機嫌を損ねていたが、仕方がない、もう一度初めから説明してやることにした。
    「フランシス、君、自分では気づいていないようだけど、たまに手にキラキラしたものがついているんだよ」ウォーロックはドラマの探偵の口調を真似しながら言った。
    庭師の指にたびたび着いているキラキラがなんなのか調べようとしたこと、キッチンを調べようとしたらナニーに止められたこと、そのまま彼女に手を引かれて部屋に戻ったら自分の手にも例のキラキラがくっついていたこと。キッチンでは結局お菓子の箱には一つも触らなかったから、これはナニーの手袋から移ってきたものに違いなかった。彼女は自分の手を引いてキッチンを出る前、珍しい仕草をしていた。利き手で口元と頬を覆うようにして、ため息をついたのだ。ベッド横にナニーを呼びつけて改めて彼女を観察してみると、謎は解けた。
    「キラキラの正体はナニーのお化粧だ。当たりでしょ?」
    「ああ……ああ坊ちゃん、素晴らしい推理です。その通りでございます」
    庭師はそう言ってキョロキョロと周りを見回すと、腰をかがめて声を潜めた。
    「坊ちゃん、その……このことはみんなには内緒に」
    「賄賂はまずいんじゃないのか?」
    ウォーロックからは庭師の背後にナニーが近づいてきているのが見えていたのだが、フランシスは声をかけられるまで彼女が近くにいるのに気がつかなかったらしい。びくっと肩を跳ねさせて、ぎこちなく声の方を振り返る。
    「……なんのことかな? 賄賂なんてわたしは」
    「ポケットに手を入れてた」
    「そんな! 手を入れただけだよ!」
    「で、そのポケットには何が入ってる?」
    ぐっと言葉に詰まる庭師の肩を小突いてナニーはウォーロックに向き直る。
    「坊ちゃん、よろしいですか? 坊ちゃんも子守唄でもお話でも寝付かれない時私にキスをねだったりするでしょう?」
    「待て君子ども相手になにを」
    「キス? キスがどうかしたの?」
    ナニーがウォーロックの言葉にさっと顔色を変えた。ゆっくりと庭師の方を振り返ってなにやら小声で文句を言っているのが聞こえたが、どうも自分の推理への評価ではないようだ。ウォーロックはだんだん面白くなくなってきた。
    「あのさあ」六歳の子どもの不機嫌などふだんの二人なら歯牙にもかけないだろうが、今二人は天使と悪魔ではなく不埒な庭師とナニーで、六歳の少年は彼らの雇い主だ。項垂れて主人の言葉を待つほかない。
    「フランシスはもう大人なんだから一人で眠らないといけないし、そもそも仕事中なんだから起きていなくちゃ」
    「ええ、おっしゃる通りで……」
    「アシュトレスもだよ! 僕には一人でできることは一人でって言うくせに大人は甘やかすなんてズルだ!」
    「それは……そうか?」
    「とにかく二人とも反省して!」庭師とナニーは顔を見合せて、二人してかわいい主に頭を下げた。ナニーは悪魔らしくお辞儀をしながら舌を出していたし、庭師は天使らしからぬ仕草で口元の髭にも付いているであろう細かいラメをできるだけそっと取り払おうとしていたが、どちらもウォーロックからは見えなかったようだ。
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    すなの

    DONEアイスフレーバーワードパレット
    12.バナナ
    ひとがら/そばかす/脆弱性 でした🍌
    人間AUリーマンパロです👓👔
    スイートスポット 情報システム部と総務部なんて一番縁遠そう部署がどういうわけか同じフロアで隣り合っているのは、結局どうしてなんだっけ。
    クロウリーに聞くと「実働とそれ以外みたいに雑に分けてんだろ、どうせ」とか言うけれど、あの日のことを思い出す限り二人にとってこのオフィスの不思議な配置は幸運と言う他なかった。
    土曜の昼下がりだった。産休中のアンナが人事書類を提出しにくるというので、アジラフェルはガランとした休日のオフィスで彼女らを待っていた。それ自体は前々から予定していたことだったし、こちらにもあちらの用意した書類にも不備はなかったから手続きは無事済んで、復職時期の相談もできた。誤算だったのは、どこから情報が漏れたのか、生まれたてのかわいいアンナの赤ん坊を一目見ようとやれ彼女の所属する営業部のだれそれや、同期のなにがしがわらわらとオフィスを覗きに来て、アンナはアンナで「これ皆さんでどうぞ」なんて言ってえらいタイミングでお菓子の箱を出してきたことだ。チョコとバナナのふんわり甘い匂いのするマフィン。個包装だから持ち帰れはするが、まあみんなこの場でいただく流れだろう。そういうタイミングだ。カップが足りない!
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