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    すなの

    @sunanonano25

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    すなの

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    メリーコテージシェアクリスマス小説

    だからやめておけって言っただろうが!「私に何かいうことは? クロウリー」
    天使がむっと眉を寄せて体の前で指を組んだ。機嫌を損ねた時の仕草だ。
    「綺麗だろう?」
    「ハロウィンじゃないんだぞ。どこから持ってきたんだこんな真っ黒い……もみの木? もみの木で合ってる?」
    合ってるよ、とこれまたどこからか持ってきた禍々しいオーナメントをツリーに吊るしながら悪魔が頷く。
    「そこの、お前が用意した白いふわふわの綿とかぴかぴかの林檎とかを飾りつけさせる気か? 似合わなすぎる。悪魔だぞ俺は」
    「たしかにそうかもしれないけど、君昔ほど悪魔であることにアイデンティティ割いてないだろ」
    アジラフェルが言うところの昔がいつのことなのか測りかねたが、とにかく、とクロウリーは「悪魔らしくもないし、俺らしくもない」と付け足した。
    二人はいまだ天使と悪魔ではあったが、お互いが天使らしく、悪魔らしくあることには昔ほど頓着しなくなった。クロウリーはともかく、アジラフェルにとってこれは大きな変化だった。ほとんど革命に近い。
    「私がツリーを飾り付けて、君にはクッキーを焼いてもらう方がよかったかな?」
    「そりゃあいいな。今日はあとどのくらい悪魔らしくない仕事をこなさなきゃならないんだ?」
    嫌味のつもりだったが、「今日はあとはケーキとターキーを取りに行って、マッシュポテトは今年は自分で作ってみようと思って……手伝ってくれる?」と、本当に残りの仕事をあげ連ねる天使には通じていないらしい。
    「あと、今日は子どもたちも来るからアレを買った。サンタクロースの」
    「サンタのコートを買うのはやめろって言わなかったか!? 言ったよな!? 似合いすぎて洒落にならないからやめろって!」
    腹を抱えて笑いながら今すぐ着て見せろ! と詰め寄ってくるクロウリーにアジラフェルはつんとそっぽを向く。たしかに悪魔も愉快な気持ちになったらいいと思いはしたが、それがメインではない。今日の主賓は子ども達だ。
    「まだ着ない。パーティの終盤で取っておきの手品を考えてる、最後に私が煙突から……」
    「待て。いや本当にそれはちょっと待て。子どもらが来るからってはしゃぎすぎだろ」
    「君にだけは言われたくないね! ハロウィンで何を着た!? ドラキュラ姿で飲んだくれて……ふふ、大人まで君のグラスの中身を確認してた」
    問題は衣装ではないのだが、呑気に笑う天使にはやはり諸々通じていないらしい。
    「大丈夫だよ! 私がどっちかっていうと大きい仕掛けの方が得意なのは知ってるだろ? 私の一番の大舞台……ウェストエンドのステージだって」
    「お前あの舞台を成功体験として記憶してるのか? 本気で?」
    「もちろん君の協力ありきだが、あれは見事だった」
    「…………わかった、とりあえず金輪際その話はするな。忘れろ。今日の舞台の方がずっと素晴らしくなるからな。俺が保証する」
    そう言って差し出したクロウリーの手をアジラフェルはしばし不思議そうに眺め、ああ助手を引き受けてくれると言うことかと握手で応えるとすげなく振り払われた。
    「違う! タネを教えろと言ってる!」
    「そんな……嫌だよ! 私は君のことも驚かせたいんだ」
    「口先で言うのは簡単だな。絶対に驚かない。お前の背中から羽が生えてもそのまま飛び上がっても俺だけは驚かないからな。それよりどういう仕掛けでなにをやるのかわからないと助けてやれない」
    「なら助けてもらわなくていい! 手品を披露すること自体、そもそも君に言う義理はない」
    こうなると頑固なのはこれまでの付き合いで痛いほどわかっている。クロウリーは頭を抱えて「……わかった、じゃあ」と絞り出すように言った。
    「じゃあ、経路の確認だけ一緒にさせてくれ。邪魔なものがあったらいけないし。煙突を使うんだよな?」
    「そうだね……あっ!」
    悲しげに手で口を覆ってアジラフェルが視線をうろうろさせる。「どうした」と聞くと「煙突を掃除するのを忘れてしまっていた……」としょんぼり下を向く。
    「いくら煙突から出てくるサンタでもあまり煤けていたんじゃ、なんだかみっともないし……」
    「煙突ならさっき俺が掃除したぞ」
    そいつでな、とクロウリーが真っ黒いクリスマスツリーを顎でしゃくりながら言うのでアジラフェルはびっくりしてしまう。このもみの木の黒い色うちの煙突の煤!? こんなに汚かったのか……
    「年末の大掃除もできて一石二鳥だろう?」
    「ああクロウリー、なんて言ったらいいか……いや本当になんて言ったらいいかわからない。なにをしてるんだ君……違うね、たすかった。最高だよ、君に頼んで正解だった」
    甘い香りがキッチンから流れてくる。そろそろクッキーが焼き上がる。みんなのお土産用に包んであげなくては。
    「そろそろお互いの作業に戻ろう。経路の確認は後だ」
    「ああ」
    「クロウリー、ツリーはともかくオーナメントはこっちの私が用意したのも飾ってくれる気はない? 君の趣味じゃないのはわかってるけど……ほらこの林檎、私がスプレーを吹いて作ったんだ」
    赤と金のつやつやした丸い飾りを差し出すとクロウリーはため息をつきつつ両手でそれらを受け取った。
    「なあ、もしかしてまたそこの箱いっぱいに全部これが? 作りすぎだ」
    クロウリーの指摘通り、アジラフェルは今年のイースターでも同じミスをした。同じようにかわいいイースターエッグを作りすぎたのだ。今回も、毎週教会で一緒になる仲良しの老婦人から仕上げにマニキュアを塗るときれいに仕上がると聞いてやってみたら楽しくなって時間を忘れてしまったらしい。クロウリーはひっそりと(絶対イースターの時も同じ老婦人が犯人だ)と睨んでいる。
    「ごめん、つい……でもこれなんか特にかわいくできたんだ。金地に黄色い模様が入ってる。美しいだろう?」
    「……仕方のない天使だな」
    クリスマスオーナメントやイースターエッグをうっかり作りすぎて悪魔に泣きつくのが天使の性質に由来するわけじゃないのはクロウリーも心得ている。ここで言う天使は口癖とか、あだ名とか、そういう類のものだ。でも、と少し考えてから「お前らしい」と付け足した。アジラフェルは照れたように目を細めてうきうきとキッチンに踵を返したが、この調子だときっとクッキーも大量に焼いてるだろう。
    大量のオーナメントはクッキーと一緒に包んでゲストたちにお土産として持たせることにしよう。
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    すなの

    DONEアイスフレーバーワードパレット
    12.バナナ
    ひとがら/そばかす/脆弱性 でした🍌
    人間AUリーマンパロです👓👔
    スイートスポット 情報システム部と総務部なんて一番縁遠そう部署がどういうわけか同じフロアで隣り合っているのは、結局どうしてなんだっけ。
    クロウリーに聞くと「実働とそれ以外みたいに雑に分けてんだろ、どうせ」とか言うけれど、あの日のことを思い出す限り二人にとってこのオフィスの不思議な配置は幸運と言う他なかった。
    土曜の昼下がりだった。産休中のアンナが人事書類を提出しにくるというので、アジラフェルはガランとした休日のオフィスで彼女らを待っていた。それ自体は前々から予定していたことだったし、こちらにもあちらの用意した書類にも不備はなかったから手続きは無事済んで、復職時期の相談もできた。誤算だったのは、どこから情報が漏れたのか、生まれたてのかわいいアンナの赤ん坊を一目見ようとやれ彼女の所属する営業部のだれそれや、同期のなにがしがわらわらとオフィスを覗きに来て、アンナはアンナで「これ皆さんでどうぞ」なんて言ってえらいタイミングでお菓子の箱を出してきたことだ。チョコとバナナのふんわり甘い匂いのするマフィン。個包装だから持ち帰れはするが、まあみんなこの場でいただく流れだろう。そういうタイミングだ。カップが足りない!
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