流星群　ふうと吹いた風を大きく含んで広がる、黄ばんだレースのカーテン。丸くなったかと思えば端から潰れて薄汚れた網戸へ張り付く。端から端まで嗅いだところでい草の匂いなど残っていなそうな、茶色く変色した畳につけた左頬はもう跡が残っているだろう。薄らと埃の積もった部屋の端っこ。じんわりと熱を持つ傷、口の中は鉄の味がした。
　レースのカーテンが揺れると朝露に濡れた草の青臭さとどこか清涼な湿った匂いと白い光が入り、風の吹く度柔らかく一部を照らす。室内に舞う埃が反射し星のようでどこか美しく感じた。外のどこか遠くで人の声が音として聞こえてくる。レースの網目が光を零して淡く光った。
　窓から見える庭は狭く、砂利とその隙間から生えた雑草が背を伸ばしている。小ぶりな石と砂を踏む音がして、しかし身体を起こそうにも思ったように動かず視線だけを外へと向ける。レースのカーテンが揺れてその隙間から誰かの足だけが見える。じゃり、じゃり、と音を立てたのを最後に、薄汚れた白に臙脂色がぼんやりと浮かんでいる。膝であろう皺や、革靴の先がこちらを向いており、重い腕を上げる。ちょうどよく膨らんだレースを掴んで、怠惰にも横に引いたと思った。掴んでいたはずのカーテンはなくなって、薄くしか空いていなかった窓は全開になっている。어、と思わず出かけた声は何故か音にならず、喉が少しだけ震えて終わった。

スロウダンス　桐生の見舞いの帰り。
　東城会トップたちが個室を埋め、肩身の狭い思いをしつつも花屋でオススメされた季節の淡い色をした花を三輪差し入れた。随分と痩せた桐生はそれでいて朗らかに笑ってくれ、なぜかああよかった、という思いが浮かんだ。過去もあまり知らず、仲間として行動してくれた期間はそう長くなかったけれど、薄っすらと感じていた生への執着のなさが薄らいだように思ったのだ。
　それがどうにも嬉しく、寒い冬の痛さすら感じさせる空気を浴びながらも頬が緩む。ビニール袋に入ったビールが結露し、揺れ太ももを濡らし触れそこから熱を奪われても喜びが勝っていた。アルミの階段を上れば革靴で音が響く。それもひとつのメロディーのようでカラオケで以前桐生の歌っていた曲を口ずさんだ。