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    nazenazenaniyue

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    nazenazenaniyue

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    真田先輩と付き合うふりをしたら本当に付き合うことになった話。序盤、真田先輩が負傷で戦線離脱中、追っかけの女子を撒くために協力してたら、成り行きで付き合うふりをすることに。一緒に過ごすうちに段々と先輩との距離は縮まって行き…。
    ※主人公の名前:有里 湊

    #主真
    truthOfTheLord
    #主真ペルソナ3
    mainTruePersona3

    沈黙は銀なり、行動は金なり 真田先輩は、1つ学年が上の先輩だ。ボクシング部の主将で、試合では無敗。ファンクラブがあるほどのイケメンで、おまけに成績も良いらしい。学校では時々女子に囲まれていたり、寮のラウンジで牛丼を頬張っているところをよく見かけるが、会えばたまに世間話をする程度の仲だ。今は肋骨を怪我していて、未だ一緒にタルタロスへ向かったことはないが、よく好戦的な発言をして桐条先輩から嗜められている。

    …そんな距離感の先輩と、何故か付き合うふりをすることになってしまった。




     桃色の花びらを咲かせていた木々はすっかり葉桜に変わり、日差しも大分暖かくなってきた頃。放課後、寮へ帰ろうと下駄箱へ向かったところ、真田先輩から急に呼び止められた。
    「有里!今から、俺と一緒に帰らないか?」
    周りを気にしながら、やや疲れた様子で性急に言われる。返答しようとすると、遠くから、真田先輩を呼ぶ何人かの高い声が聞こえてきた。
    「くそっ、もうここまで来たか…。後で詳しく話すから、スマンが、急いで一緒に学校から出てくれないか」
    先輩から急かされ、二人で急ぎ足で校外へ走る。学校から離れた所で、先輩は学校の方を振り返り、ふう、とため息をついた。
    「…もう大丈夫そうだな」
    「一体、何事ですか」
    一緒に帰ろうと誘われ、了承する前に急かされて、正直状況がよく分からない。
    「あぁ、すまん。…実は、俺に付きまとってくる女子たちがいるんだが、最近やたらとしつこくてな…。いい加減ウンザリしてたんだが、いい所にお前がいたから、声をかけたんだ」
    確かに、先輩はよく女子から黄色い歓声を浴びていて、他人事でも大変そうだな、と思っていた。転校してすぐそう思うってことは、在校生はより思っていることだろう。
    「…先輩も大変ですね」
    「はぁ、どうしたもんだか…」
    先輩は少し困ったように笑った。これだけ顔が良ければ追いかけられるのも納得がいく。
    「すまんな、俺の事情で急に誘って。良ければ何か食って帰らないか?奢るぞ」
    「お、いいんですか?」
    「もちろんだ。定食の美味いところがあるんだ、そこにしないか」
    商店街にある定食屋へ行き、先輩と夕食を取る。こうして二人きりで話すのは初めてだ。先輩とはなかなか話す機会がなかったが、話すうちに真面目で意外と気さくな人ということがわかった。
    「うん、美味かったな。ここにはよく来るんだ。また放課後にでも飯に行かないか?」
    「もちろんです、行きましょう」
    「ああ。また誘うな」
    先輩はにこ、と小さく微笑んだ。…イケメンだ。男の自分から見ても、この先輩は本当に顔が良い。ファンクラブの女子の黄色い声援の理由がよくわかった。




     それから、何回か放課後に先輩と外食をしたり、一緒に寮まで帰ったりした。今、先輩は先のシャドウ戦で肋骨を負傷し、部活に出られない。あまり部長が居座りすぎても後輩が気を遣うから、と部活には少し顔を出す程度にしているらしい。今は部活とトレーニングを制限されているから、退屈だと溢していた。随分とストイックな性分らしい。先輩は饒舌ではないが、部活のことやトレーニング、シャドウとの戦闘の話題を振ると、嬉しそうに応えてくれた。



     今日は海牛の気分だ、先輩と行こうかな、と思いながら、玄関ホール付近を歩いていた時だった。
    「せんぱぁい!今日こそ一緒に帰りましょうよぉ!」「今日はワックに行きませんか〜?」「ねぇ、せんぱーい!行きましょう〜」
    「…………」
    女子3人に囲まれて、面倒くさそうな顔をしている先輩に出くわした。ふと先輩と目が合い、助太刀してくれ!とアイコンタクトを送られる。
    かなり厄介そうな状況だが、自分には何度か奢ってもらった義理がある。ここは後輩として、先輩を助けた方が良さそうだ。
    「…真田先輩、ここにいたんですか?」
    女子達の後ろから先輩に声をかける。先輩からは安堵の目線と、3人組からは、邪魔するのは誰なの?という冷たい視線が突き刺さる。
    「…誰?」「あー転校生クンでしょ、F組の」「え、真田先輩と仲良いの?」
    真田先輩と俺の間で女子たちはヒソヒソと話している。
    「有里!待ってたぞ」
    「メシ、行きますか」
    先輩は待ってましたと言わんばかりの嬉しそうな表情だ。なんだか尻尾を振った犬みたいで、ちょっと可愛い。
    「そういうことで、悪いがまた今度にしてくれ」
    「え〜?!いっつも今度って言うじゃないですかー!」「先パイ、この前、今度は行くからって言いましたよね!」「今日こそは私たちと一緒に来てくださいっ!」
    先輩の言葉に、女子達から一斉に不満が出る。今までのらりくらりと躱してきたツケがまわってきてしまったみたいだ。これはかなり厄介どころか、下手したら修羅場になりそうな状況だ。転校早々、女子たちを敵にまわすのは出来れば避けたい。どうすれば波風立てずに、先輩をこの場から救えるだろうか。おもむろに、女子に詰められて押され気味の先輩の腕を掴んで、グッと引き寄せた。
    「!!」
    先輩を含めたその場にいる全員が目を丸くしたのがわかった。取られないように、と、先輩の体に手をまわし、さらに距離を詰める。
    「…悪いけど、真田先輩は俺との約束があるから」
    女子達はしばらくポカンとした表情を浮かべていたが、焦ったように反論してきた。
    「…いやっ、でも!私達も前から先輩にゴハン行きましょって言ってたし!」「そ、そうよ!アンタ、確か寮生でしょ?譲ってよ!」「えっ、先パイと一緒の寮なの?!ならいつでも行けるじゃない!」
    …ああ言えばこう言ってくる。これをほぼ毎日やられるとなると、真田先輩の気も滅入るのもよくわかる。3人組は相変わらずギャーギャーと不満をぶち撒けてくる。今日は先輩と海牛で一緒に牛丼を食べたい日なのだ。こうなったら、ボディーガードのように、先輩を抱えるようにして学校から出て行ってやろうか。
    「先輩は、俺のだから。今回は諦めてください」
    「……………」
    …何だか言葉が少し足りなかった気がしたが、幸い女子たちは固まって動かない。今のうちに、と思い、先輩の手を引いてそのまま学校の外へ出た。真田先輩は黙ってついて来ている。
    「よし、追っかけて来てはいないみたいですね…」
    「……………」
    「…先輩?あ、手、強引に引っ張っちゃってすいません。大丈夫でしたか」
    「あ、ああ…大丈夫だ」
    先輩はなんだかちょっと恥ずかしそうだ。
    「すいません、何か長引きそうで面倒だったので……」
    「…いや、多少強引な手でも、あの場から抜け出せて良かったよ。グッジョブだ、ありがとう」
    「お礼は海牛で良いですよ?」
    「もちろん。よし、食いに行こう」
    先輩も助けられたし、海牛も奢ってもらえて、今日は何てラッキーな日なんだ。
    と、先週までは、そう思っていた。


    「ねえ、ちょっと!有里くん!」
    放課後、職員室での用事が終わり教室に戻ると、ゆかりが小走りで寄って来て話しかけてきた。
    「真田先輩と…その…、付き合ってるって、ホント?」
    「………え?」
    聞き間違いだろうか。突拍子もない話題を急に振られ、頭がフリーズする。真田先輩と俺が、何だって?
    「…えーっと?」
    何故そんな質問を?何故俺と真田先輩?何から聞こうか、と迷っていると。
    廊下が何だか騒がしい。女子の声が聞こえてくる。
    「ゲッ、真田先輩ファンの子たちじゃん…。有里くん、捕まる前に早めに帰った方がいいかも」
    この前のようにまた押し問答されるのはめちゃくちゃ面倒くさい。ゆかりのアドバイス通り、気配を消しつつ、速やかに下校する事にした。

    夕食を寮で適当に取り、自室で課題を片付けている時だった。
    「有里、今いいか?」
    ドアがノックされ、真田先輩の声がした。先輩が部屋に来るのは珍しい。部屋に招き入れ、椅子に座ってもらう。先輩はなんだか疲れている様子だ。
    「実はな、面倒なことになってしまったんだ……」
    先輩は、ふぅ、と息を吐きながら言った。…何となく嫌な予感がする。
    「前に、お前が対応してくれた俺のファンとかいう女子達がいるだろう。その子たちが、俺とお前が付き合っていると噂を広めているらしい」
    ゆかりが言ってたのは、この事だったようだ。
    「おかげで俺が部活が出られないのを良い事に、放課後やたらと誘ってくる子たちは激減したんだ。しかしだな…」
    先輩は目頭に手を当てている。
    「その、今日、付き合ってるのは本当かって詰めて来たんだ…適当にはぐらかして部室へ逃げ込んだんだが、そのうちお前の所にも来るかもしれない。もしそうなったら、スマンが適当に対応してくれないか」
    まさに今日、乗り込まれるところだったのか。
    「…………何で先輩と付き合ってるってことになっているんですかね」
    「…知らん。ただ、ここ数日は俺にとって平穏な日々だった。少なくとも俺にはメリットがある。…そこでだ」
    先輩は椅子に座り直して言葉を続ける。
    「お前が良ければ、俺が部活に復帰できるまで、付き合ってる体にしてくれないだろうか」

    先輩からの突然の提案に、少し驚いた。確かに、最近女子からのアプローチに疲弊している上に、部活にも出られず、シャドウ掃討もお預けを食らっているから、少しでも穏やかに過ごしたいのだろう。それにしても突飛な提案ではあるが。だが、真田先輩は必要のない冗談を言うタイプではないし、表情から真剣さが伝わってくる。

    「何をするわけでもない…お互いこれまで通り接すればいい。ただ、付き合ってるということだけは否定しない」
    「………俺には何のメリットがありますか?」
    困っている先輩を助けたい気持ちはあるが、やるからにはこちらにも何か利点が欲しい。
    「デートの体でお前と飯に行く時、3回に1回は奢ってやろう。大盛り、トッピング、好きなだけつけろ。さすがに毎回は俺の財布がキツいからな。…どうだ?」
    「…決まりですね」
    3回に1回ならかなり良い提案だ。男子高校生は何より食費がかかる。付き合ってるフリといっても、1ヶ月ほど特に何をするでもなく、たまに先輩と食事したり一緒に過ごしたりするだけ。これに乗らない手はない。
    「じゃあ先輩、明日から宜しくお願いします」
    「有里、お前ならわかってくれると思ってた。よろしくな」
    男同士の固い握手を交わした。明日から先輩は俺の彼氏となる。いや、俺が先輩の彼氏?…とにかく、明日から先輩と共同戦線を張ることになった。



    握手を交わして、早数日。先輩と俺はたまに昼食を一緒にとったり、放課後食事に行ったり、一緒に下校するなどして過ごした。真田先輩は、しょうもない冗談を言うと冷静に突っ込んでくれるし、ちょっとした相談にも真摯に解決策を考えてくれる。少し前までほとんど話したことがなかった先輩との距離は、ここ最近でグッと縮まった。当人同士の接し方は特に変わっていないが、付き合っているかも、というフィルターをかけられると、それらしく見えるのだろう。それに、仲が深まっているのも事実である。ファンクラブの女子たちは俺と真田先輩が一緒にいるのを遠巻きに眺めるだけになった。たまに、クラスメイトから本当にあの真田先輩と付き合ってるの?と聞かれるが、意味深に黙っていると、それ以上深掘りはされない。一応嘘はついていないし、黙っていれば勝手に解釈してくれるから、楽だ。それに、真田先輩と付き合ってるらしい、という噂が、先輩との繋がりがさも公認になったみたいで、どことなく嬉しく思っている自分もいる。

    「最近は、お前のおかげで平和に過ごせている。ありがとうな、有里」
    「いえ、先輩のおかげで俺は満足のいく食生活を送れてます。逆にありがとうございます」
    「……俺の財布は大分逼迫してきているがな。大盛りトッピング増しばかり頼みやがって…」
    先輩は恨めしそうに横目で見てきたが、俺は明後日の方向を見てやり過ごした。
    先輩と話しながら玄関ホールへ向かうと、丁度向かいから例の3人組が歩いてきているところだった。
    「あっ、先パイ!」「ちょっと、有里!本当に真田先輩と付き合ってるの?!」「実際、どーなんですかっ!」
    「……………」 
    捕まってしまった。しかし、黙っていれば、勝手に解釈してくれるはずだ。沈黙は金なり。しかし、彼女達からの追及は止まらない。
    「いやーでも、付き合ってる割には、あんまりそういう雰囲気を感じないんだよね〜」「確かに!恋人って感じじゃないっていうか」「何か怪しくなーい?嘘ついてるとか?」
    …彼女達が厄介なことを忘れていた。痛いところをピンポイントで突かれ、真田先輩は明らかに動揺している。そんなに顔に出したらバレますよ、先輩。
    「ここでキチンと答えてくださいー!」「先パイ!ハッキリさせてくださいよー!」

    「…付き合ってるよ」
    先輩に矛先が集中しそうだったので、自分が応じることにした。
    「えー?本当ぉ?」「なんか嘘くさいっていうかー」「真実味に欠けるよね、あの時は先輩の反応がそうっぽかったから一瞬信じたけどぉ〜」
    あの時、と言えば恐らく前回ボディーガードよろしく先輩を引き寄せた時だろう。…先輩がどんな反応だったのかは見ていないが。真田先輩を見ると、これまた分かりやすく狼狽えている。先輩は嘘をつくのが下手なタイプなんだろう。自分がリードするしかなさそうだ。
    「本当に付き合ってるよ?ね、先輩」
    先輩の腕を引き寄せて、顔を覗き込みながら、先輩に振ってみる。二人で答えた方が、真実味が増しそうだからだ。
    「!…あ、ああ。そうだ」
    先輩は俺から目を逸らしながら答えた。嘘がバレないよう緊張しているのか、身体が強張っている。
    「え〜……なんかアヤシイ…」「確かに…言葉では何とでも言えるもんねー」
    なんて疑り深くて、そして聡いんだ。さっさと帰りたいのに。…もう面倒になってきた。言葉でわからないなら、行動で示せばいいんだろう。俺は先輩の顔を引き寄せて、頬に軽くキスをした。
    「!!」
    咄嗟の行動に、これまた全員が目を丸くしたのがわかった。女子よりも先輩の方が吃驚している。頬だけじゃなく、段々と耳まで赤く染まってきた。
    「…これでいい?普通、先輩後輩でこんなことしないでしょ」
    「………」
    女子達はさすがに諦めがついたのか、顔を見合わせてすごすごと退散していった。
    「…よし、帰りましょう、先輩」
    「ああ…」
    靴を履き替え、先輩と校門を出る。言葉少ない先輩と、しばらく歩いていると。
    「…俺、寮まで走って帰る」
    先輩が小さい声で言ってきた。
    「えっ、アバラ折れてるのに?」
    「…………大分治ったんだ」
    「別に止めませんけど。でも、今無理して、部活に復帰するの遅れたら元も子もなくないですか?」
    「……………」
    先輩はいつも先を見越して計画を練るタイプなのに、らしくない発言だ。それとも、ここから離れたい理由があるのか。となると、もしかしたらさっきの行動はやり過ぎてしまったかもしれない。
    「…先輩?もしかして、さっきの…」
    先輩の肩がピクリと揺れた。
    「えと、ビックリしましたよね、すいません」
    「…………お前は、こういうのに慣れているのか?」
    先輩は少し眉を寄せて、複雑そうな顔で俺を見つめている。慣れているかはともかく、俺は先輩との時間を確保したかっただけだった。
    「……やっぱり嫌でしたか?」
    「……………」
    先輩は黙ったままだ。
    「…俺は寄って帰る所があるから。気をつけて帰れよ」
    先輩は目を合わせてくれないまま、足早に去っていった。もしかしたら、怒らせてしまったかもしれない。せっかく、真田先輩との距離が縮まったのに、振り出しに戻ったのだろうか。いや、何ならマイナス?心のモヤモヤは晴れないままだったが、それを無理やり無視して寮への道へ歩を進めた。



    先輩に謝るタイミングがなかなか巡ってこず、数日が経った。学校では部活や生徒会を顔を出したり、先輩が先に帰ってしまっていたりでなかなか会えていなかった。寮で食事に誘っても、自室でトレーニングや勉強をするから、と断られてしまっていた。先輩は世間話には応じてくれるが、どこか一線を引いているように感じてしまい、寂しい気持ちばかりが蓄積していく。このまま、今の気まずい感じを引きずりたくない。真田先輩と、もっと色んな所へ行ったり、一緒に食事をとって、もっと話したい。ただの先輩後輩に戻りたくない。ここ最近はモヤモヤした気持ちに無理やり蓋をして、暫く見ていない真田先輩の微笑んだ顔を思い出しながら床につく日々だ。そろそろ限界が近い。


    「…!有里…」
    「真田先輩、今から帰りですよね。はがくれ、行きますよ」
    避けられているなら待ち伏せしてやろうと、先輩の下駄箱周辺に張り込みをしたのは、正解だったようだ。少し気まずそうにしていたが、それに気づかないふりをして、逃げられないように先輩の腕をガッチリ掴んで商店街へ向かう。

    どちらともなくポツポツと話しながら、二人で特製ラーメン大盛りと餃子を平らげ、真田先輩から教えてもらった参考書を本屋で買い、寮へ戻る道を二人で歩く。
    「はがくれってレベル高いですよね」
    「確かにな。しかし、人の金で食うラーメンは美味かった」
    「ボクサーにジャンケン挑むべきじゃなかったなぁ…」
    先輩との久しぶりの会話は、楽しい。
    「…最近、真田先輩ロスでした」
    「フ、何だそれ…」
    「だから、今日ラーメン行けて嬉しいです」
    「…………ほぼ強制だったけどな」
    「無事、拉致に成功しました」
    久しぶりに先輩の笑った顔を見た。数日ぶり見れて、自分もつい顔が綻ぶ。

    「先輩」
    途中、神社に寄り道を申し出てみた。…2人きりの今がチャンスだ。
    「前の…俺の行動に怒ってますよね…あれ、謝りたくて」
    先輩は黙って、俺の言葉を聞いている。
    「あの子達に、行動で示せって言われて、咄嗟に、その、キスしちゃって。さすがに、やりすぎですよね…。先輩と最近仲良くさせてもらってるからって、調子乗っちゃいました。ごめんなさい」
    「…………」
    「先輩……俺、気まずいままは嫌だ。このまま、終わりにしたくない」
    黙ったままの先輩に不安になって、顔を覗き込む。先輩は何とも言えない顔をしている。
    「……やり過ぎなんかじゃないさ。そりゃ、ビックリはしたがな。でも、結果的にあの子達を黙らせてやったんだ」
    「…じゃあ、何で怒って帰っちゃったんですか」
    「その、嫌な気持ちはなかった……でも、あの時お前が何でもないようにするから、ドキドキしたのは俺だけかと思うと、少しモヤモヤして…」
    先輩は目を伏せて歯切れ悪く言った。少し赤いのは、夕日のせいだけではなさそうだ。
    「…それって……」
    「ここ数日、お前と距離を置いて改めて考えてみたんだ…最初は期限付きで付き合うふりから始まったが、距離が近くなるにつれて、もっとお前と一緒にいたいと思うようになった…。今じゃ、部活に復帰したい気持ちと、そうなると付き合うのも終わるのかって、全く逆の気持ちが混ざってよく分からなくなってしまったよ。それに…」
    先輩はひと呼吸置いて、ちら、と俺の目を見た。
    「お前はロスって言ったけど、…俺だってそうだった」
    先輩は、スクールバッグを持ち直しながら、照れ臭そうに言った。
    「……え、てことは、俺たち同じ気持ちだったってことですか?」
    この数日間、先輩のことが頭から離れなくて、ずっと不安な気持ちで過ごしていたけど、先輩も、俺を想ってくれてたなんて。…やばい、思わず口が綻ぶ。
    「わっ!」
    嬉しさのあまり、先輩を抱きしめてしまった。
    「もう、フリじゃなくて、事実になったってことですよね…?」
    先輩の首元に顔を埋めると、ほんのり洗剤のにおいがする。
    「…っおい!有里、嗅ぐな!」
    先輩からのクレームを無視して、抱きしめている腕に力を込めた。先輩は小さく抵抗をしたが、俺がガッチリとホールドして離す気がないことを悟ると、俺の背中にそっと腕を回した。




    それから数週間。先輩は部活にもタルタロス調査にも復帰し、ようやく思い切りトレーニングができる!と生き生きしている。自分も部活を掛け持ちしたり、生徒会の手伝いを頼まれたりで、それなりに忙しくしていた。先輩の取り巻きの女子達は部活の見学に行ったり差し入れを部員に渡したり、陰ながら推し活をしているみたいだ。
    前と変わったことといえば。

    「有里、待ったか?」
    「いえ、先輩。じゃ、行きましょうか?」

    先輩と俺はお互い用事がない日は一緒に夕食を取って寮に帰るのがルーティンになっていた。負けが続いていたジャンケンも、反射神経を鍛えたおかげか、勝率は今のところ五分五分だ。今日の特製はがくれラーメンは、あいこが続いた末に何とか払わずに済んだ。大盛りとトッピングをつけた甲斐があった。悔しそうな先輩と一緒に店を出ると、例の3人組と鉢合わせた。
    「あっ…!真田先輩…」「有里くんも…」「ご、ごゆっくり〜」
    キャー!と高い声を出しながらニヤニヤと去っていく女子達。噂では、ファンクラブ内でどこぞの女に取られるよりかは、男の俺の方が良いのではという結論に至ったらしい。
    「俺たち、すっかり公認になったみたいですね」
    「…そうかもな」
    真田先輩とのきっかけを作ってくれたことには感謝しないとな、と思いながら、彼女たちの遠くなっていく背中を見つめる。
    「おい、有里。何をボーッとしてるんだ?行くぞ」
    「えー、待ってくださいよー。せんぱぁい」
    「おい、全然急ぐ気がない声だな」
    くすくすと笑ってどんどん先へ進む先輩。俺は大股で近付き、先輩をぐっとこちらに引き寄せ、耳元に囁く。
    「今夜、先輩の部屋に行っても良いですか?」
    俺の言葉に思わず立ち止まる先輩。
    「…お前、やっぱり、なんか慣れてる」
    「でも、そんな俺も嫌いじゃないでしょ?」
    先輩は悔しそうに俺をにらみ、顔を真っ赤にしながら微かに頷いたのだった。



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