正式なお付き合いまでの話『気に入った。オレのものにしてやる』
XANXUSは山本の腰を抱き引き寄せると、無防備な唇にキスをする。それが数日前の出来事だった。
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現在、山本は悩んでいた。いきなりXANXUSに告白(?)をされ、皆の前でキスをされたのだ。山本はXANXUSをあまりよく知らない。XANXUSだって山本のことをよく知らないと山本は思っている。それなのにいきなり告白(?)をされて、最近はずっとXANXUSのことを考えていた。
「ねぇ、山本。大丈夫?」
「!ツナ…」
「おい野球バカ、テメェもしかしてXANXUSの言葉本気にしてんじゃねぇだろうな」
「獄寺…。本気にしてるってか、わかんねーんだ。なんでXANXUSはオレにあんなこと言ったんだって」
考えても考えても、山本は答えにたどり着かない。XANXUSを、よく知らないからだ。知らないことは、知りたいと思った。XANXUSを知れば、山本もこの悩みから解放されるのでは、と思った。
「ツナ、ヴァリアー呼ぶことってできねーのか?」
「え?!あー…実は、来てるみたいなんだよね、ヴァリアー」
「マジで?!」
「ディーノさんから、同じホテルに泊まってるって教えてもらったんだ。なんでディーノさんもこっちにいるかは知らないけど」
恐らくディーノもXANXUSと山本のことを気にしている。だからヴァリアーが並盛にやってくるときを見計らって同じ頃に並盛に来たのだろう。
「オレ、会いに行ってくる」
「会ってどうするつもりだ。まさか、あの告白まがいを受ける気じゃねぇだろうな」
「んー、それはわかんねーけど、XANXUSのこと、何も知らねーから少しずつ知っていきたいとは思うのな。そしたら、なんかわかる気がする」
だからホテルの場所を教えてほしいと、山本は沢田に頼んだ。その瞳が真剣そのもので、沢田は頷いてホテルの場所を教える。
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部活終わり、山本がホテルに向かおうと校門を出ると、「う゛い!」と聞いたことのある叫び声が聞こえ、喉元に剣が突き立てられる。
「あ、スクアーロ」
「遅ぇぞぉ!何してやがった!」
「?部活だぜ」
ヴァリアーが並盛に来ているのだからここにスクアーロがいても変ではない。しかし、遅いと言うことはずっと山本を待っていたと言うことになる。山本が首を傾げると、スクアーロは「まぁいい。乗れ」と黒塗りの車に山本を乗せる。きょとんとする山本を乗せた車は、ホテルまで走って行った。
ホテルの前に着くと、車から降ろされ山本はスクアーロの後ろを歩いてホテルに入った。豪華な造りに思わずキョロキョロと辺りを見て歩く山本。エレベーターに乗ると、最上階まで登る。
「なぁスクアーロ、どこ行くんだ?」
「?クソボスの部屋だ」
「XANXUSの…」
会いに来るつもりだったからよかったが、山本に緊張が走る。XANXUSのことを知りたい。だから会いたい。その気持ちに嘘偽りはない。しかし、同時にXANXUSの気持ちを知るのが怖いと思った。昼はただ呑気に知りたいとだけ思っていたが、ここにきて、XANXUSの本音を知るのが少しだけ怖いと感じた。
「…答えるかどうかは好きにしろぉ」
「ん、わかってる」
最上階に着くと、山本はスクアーロに背中を押されてエレベーターを出る。XANXUSは真ん中の、大きい扉の向こうにいる。山本は扉の前で深呼吸をすると、重たい扉を開けた。
「…」
「…遅ぇ」
「!」
椅子に座りこちらを見ながらワインを飲むXANXUS。山本は部屋に入ると笑顔で「久しぶり」と軽く手を上げる。XANXUSに歩み寄りながら、部屋を見回し「すげー部屋だな」と笑った。XANXUSはワインを一口飲むと、目の前まで来た山本を見つめる。
「オレのものになる決心がついたか」
「んー、まだわかんねー。XANXUSはオレのこと好きなのか?」
「…」
「…」
山本の純粋な質問に、XANXUSは少し思考を巡らし「…そうだ」と答える。
「そっか。オレ、XANXUSのこと何も知らねーからさ、もっと知ってから答えてーんだけど、だめか?」
「オレを知りたければオレのものになれ」
「だから、まだよくわかんねーから」
「んーと、」と山本は頬を掻いて悩む。XANXUSはどうしても山本を自分のものにしたいらしい。XANXUSの言う“もの”と山本の思う“もの”が同じなのか、その確認も兼ねて山本は「XANXUSってオレと恋人になりてーってことなんだよな?」と問う。XANXUSの眉間に皺が寄り、だんだんXANXUSが殺気を隠せない程苛ついているのがわかるが、山本は後ずさりせずじっとXANXUSを見つめる。
「ものにしてぇと思ったのは初めてだ。それが恋人なんてもんになりてぇのかは、知らねぇ」
「…あ、じゃあ一緒に知ってこうぜ。オレ、XANXUSにキスされたとき恥ずかしかったけど嫌じゃなかったし、嫌いじゃねーと思うんだ。でも、XANXUSのこと何も知らねーからどうすっかなーって悩んで。知りてーって思った。恋人になってみて、XANXUSを知りてぇ」
「…あぁ」
「XANXUSはオレのこと気に入ってくれたけど、オレのことほとんど知らねーだろ?」
「…あぁ」
「じゃあ決まりな!連絡先交換しようぜ!」
「…武」
「ん?」
XANXUSは立ち上がると山本にキスをする。強引なわりに優しい触れるだけのキス。山本は驚いて目をパチパチさせた。
「オレのものになるなら、一生離さねぇ」
「………ははっ、XANXUSって一途なのな!」
「わかった」と山本は笑う。
「これからよろしくな」
「あぁ」
こうして二人は正式に、お付き合い(?)を始めることになった。二人で歩んでいく道が、始まった。