思ウ春抗イ選ブ若イ人「紅君、灰ちゃん。俺はブライに行くことにした」
寮の一室に呼ばれた弟は、敬愛する兄から発された言葉も、それに対する親愛の妹の頷きも、何一つ理解が出来なかった。
「ああ。白兄さんは多分、そうするだろうと思っていた。最近沈んでいたが、今はとても良い顔つきだ」
「灰ちゃんにはバレていたか。我儘な兄で済まない」
「何、兄さんの我儘なんて妹である私の我儘に比べれば、可愛いものさ」
朗らかに話し出す兄と妹は、そういえばいつから「俺」と「私」になったのだろう。今までは「賢兄」と「愛妹」だったはずだ。だから自分は「愚弟」なのだ。何故二人は変化してしまったのだろう、変化を受け入れてしまったのだろう。ガタガタと情けなく震える体に、紅と呼ばれた青年は「何故」と震える声を吐き出した。顔つきの違う兄と妹の、ただそれだけは自分と同じ空色の瞳が此方を覗く。
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