Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    企画倉庫

    企画アカウントのCSや交流絵を置きます。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🐙 🍎 😊 🎃
    POIPOI 40

    企画倉庫

    ☆quiet follow

    企画内イベント「地底桜に攫われる!」の自機達の行動SSその2です!
    幻覚、流血描写、人体変貌などがあります。

    #タンガン宅うちのこ
    #小説
    novel
    #無法都市シナプス

    激怒る犬神、選択ぶ蝙蝠、微笑う鬼左腕をチェーンソーに代えた呪具は、自らの体で敵の攻撃を受けながら、攻撃を繰り出した枝を切り落としていく。回る骨の鎖は吸血桜の体を抉り千切って、内側の赤々とした欠片を散らしていく。勿論呪具の青年も完全な無傷ではなく、刺し貫かれた肌の内側からぽたぽたと赤色の体液が零れている。最初こそ星空じみた闇と煌めきで包まれた肉体も、内側は生きた人間とさして変わらない構造になっている。彼は別段、無痛でも無敵でもない。
    (動けない程度じゃないけど、煩わしくはあるかな)
    ならば攻撃を受けずに先手を打てば良いのだろうが、そこに思考が剥かないのは自分の暴力性への無意識の嫌悪があるからだろう。元は人間であった呪具、梔子は分かりやすく傷を負わない限り悪意を返すことが不得手である。
    (痛覚を切るのは得策じゃないよね。毒や幻覚を使われているか、見極める必要もあるだろうし)
    毒や幻覚への警戒は、彼の所有者である巴蛇からの忠告だった。相手が人を襲う植物でありながら、即死の攻撃を向けない場合、それらには「人を動けなくさせるだけの力を持つ可能性も高い」のだと老成した呪術師は言う。
    (持続的に養分を得る為、獲物を殺さず捕縛するそれならば。生きたままに逃げられない状態を作るにも、長ける可能性を秘めている。幻覚剤には悪夢を見せるものも多いが、快楽物質を注ぎ込むことで廃人となすものもある。相手に悪意があるのか、単純な種としての本能かは断定出来ないが。人を壊すのは、何も悪意ばかりではない)
    油断をするなよ。そう伝えてくれた所有主に感謝を向けつつ、梔子は自分の肩を抉った枝を斬り落とす。吸ったばかりの自分の血が満ちていたのか、断面から霧状の液体が散布されて、回避の体勢は取ったものの隻眼の粘膜に液体が触ったか、仄かに眼球がごろつく痛みを感じた。
    (しまった、目に入った。視界に影響が出なきゃ良いけど)
    目を擦ってはより深く染み込んでしまうかもしれないと、擦ることもせず追撃の桜を躱す。幸いにも失明には至っていないし、目のごろつきもすぐに収まった。――――そんな思い込みを突き崩したのは、遠い昔の声だった。
    「乱離、ごめんね」
    捨てた名前を呼ぶ鈴のなるような声。返事も出来ぬままに目をやれば、自分とは似ても似つかない愛らしい姿の女がいる。自分の恋心の為だけに子供を産み、求められた形ではないと嬲り捨てて――――叶わないと確定した恋心の八つ当たりに、出来損ないの息子を殺そうとした女。年の割に少女のような顔立ちをした女は言う。
    「お母さん達、反省してるの。どうか許して。彼もね、貴方と仲直りしたいって」
    彼とは顔も知らぬ父親のことだろうか。思考を引き摺られた瞬間に首に回される腕があった。懐かしい低く甘い声がまたもや捨てた名を呼ぶ。ほとんど本能的に、梔子は一つ残った隻眼を掌で覆う。
    「乱離、今度こそ幸せにする。だから俺達と一緒に来てくれ。俺はお前を、あ」
    「マザコンとメンヘラも大概にしろよ」
    鈍い音がした。右目から外した掌からは長く杭のようなものが生えて、自分の目玉ごと背後にいた男の喉を貫いていた。見えぬ目にも、攻撃を受けて苦痛に顔を歪める男と、恐怖に顔を歪める女の姿が重なる。
    「この二人が、僕の為に自分自身を変えるわけが無い。だから僕は、この二人を殺したんだ」
    愛を否定された母親も、愛を拒絶された元恋人も、自分が吐き出した言葉で命を絶った。それを殺したと形容する呪具は、どうしようもない怒りに現状の姿を歪める。潰したはずの眼球の代わりだろう、呪い達の助力によって満ちていく視界は犬の死骸に群がった蟲のようでもあった。
    「過去に構ってもらいたいが為に、大事な家族を見捨てるくらいなら」
    お前らが望んだんだろう僕なんかぶち壊してやる。牙じみた並びの良い歯を見せて怒号する呪具を、幻覚は歪んだ表情のまま破局の過去と同じ声音で「化物」と呼んだ。

    ◆◆◆

    助けに来ると言ったっていくらなんでも早すぎないか。茶化すように口にされた言葉は激情で姿さえ歪めた青年を落ち着かせるに十分だった。彼は「面目ないです」と恥ずかしげな声を出して、桜に脇腹を貫かれたまま拘束されている。
    「にしても、酷い顔してんのな。いつもの5倍くらい不細工」
    「普段から君、僕のこと底辺不細工っていうから大して変わらないでしょ。0を5倍しても0だからね」
    「お前の場合は0じゃねぇ、マイナスだ」
    「酷いなぁ」
    そんな緩やかな会話をしながらも、梔子は耳まで裂けた口と鋭い牙を使い、自分を拘束する枝をガリガリと削っている。その間にも吸血はなされているし、幻覚も見続けているのだが、実の妹と妹に恋する青年を見つけられた時点で、精神的には大分安定している。勿論その安定は、オターリアの魔術によって「暴走する未来」を潰されていることにも因るのだが。オターリアは魔術を使い続けて、僅かに人型の変貌が解けかけている。
    「まぁ、俺も言えた姿じゃねぇが。色男が台無しだ、みるらちゃんが起きてなくて良かった」
    「みるらちゃんは、君の本性なんて気にしないよ。こんな化物でもお兄ちゃんって呼んでくれるんだから」
    「はっ。人間の不細工如きが化け物を語るなよ。俺なんぞ二種族混ざったタイプの化け物だぜ」
    「……ふへへ、不思議。人間じゃなくなった今の方が、僕は人間って呼ばれがちだ」
    男達の悲しい軽口の応酬に、少女が泣き出さないのは眠っているからだ。異形の姿で妹の前に引きずり出された瞬間、梔子は妹を呪った。一時的に全ての感覚を他人に乗っ取られる呪い――――夢も見ないような眠りに落ち、その間に与えられた苦痛は、感覚を奪い取った兄に肩代わりされるという構造だ。兄を救いたいと思っている妹からすれば、これほど悪質な呪いはないだろう。それでも、オターリアからすれば魔術リソースを別枠に使える分感謝という他になかった。
    「梔子お兄ちゃんが格好良く助けてくれれば、俺がこんな格好悪い姿になるこたぁなかったんだけど」
    「本当にごめんね。僕だけじゃ全然歯が立たなかった。シナプスじゃ僕なんか、全然怖い生き物になれないや」
    そんなことを言いながら、どこか楽しそうな声色をする梔子に、オターリアはため息をつきつつ「お前ら兄妹はやっぱり似てない」なんて悪態を吐く。
    「祈りと呪いが似る訳がねぇんだよ。祈りは捧げるもので、呪いはかけるもの。呪いは同程度がそれ以下の相手に向けられるが、祈りは自分より強くて怖い奴らへの果たし状なんだからよ」
    相手の機嫌によっては、より酷い状況を押し付けられても仕方のない、人の身に分不相応な行動。精神的にも肉体的にも非効率、べそべそと泣きながら恨みつらみで動く呪術師より、祈り手は傲慢で高潔で壊されやすい存在だ。
    「だからこそ、俺達は身を削ってでも、恥を捨てても守らなきゃいけないんだよなぁ。自分より強くて怖い奴らに物申しちゃうような、優しい女の子をさ」
    「本当に。……ありがとうね、オターリア。みるらちゃんの為に、化け物になってくれて」
    「成ったんじゃねぇよ、元に戻っただけ。元に戻ったって後悔しないくらいには、みるらちゃんが良い子だからさ」
    ばきばきと拘束の中で体が組み替えられる。オターリア・ピピストレッロ、ギャラクシーオットセイとコスモチスイコウモリの血を繋ぐ宇宙生物は、だらだらと唾液を零しながら吸血桜に噛みついた。
    「お前らが吸い出した血液が、俺の涎で固まらず流れちまったら、儲けもんなんだがなぁ」
    そうでなくとも引き裂いてやる。恋する人外舐めんなと、オターリアは吸血桜の枝葉を噛み千切るのだった。

    ◆◆◆

    目緋絲。聞こえた声は確かに愛した人の声だった。斧と鉈とを振るいながら、開けた先に彼がいた。
    「目緋絲、助けて」
    弱り切った、泣き出しそうな声。その時点で、普段の自己犠牲的な彼との相違点はあったが、それでも傷つけられた体の様子を見れば、その懇願は当たり前に思えた。出会い愛を交えた頃から、反応に酷く怯えと悲しみを含む場所。その凌辱はどれほど、彼の心を傷つけたのかきっと儂には理解の及ばぬことだ。信仰も貞節も異なる我らだからこそ、安易な「分かる」で彼の傷痕を軽んじたくはなかった。
    だからこそ助けてという端的な言葉は、駆け付けるに十分だった。痛みの程度は分からずとも、彼が助けられたいと願っていることは分かるのだから。必要としているものは、そこに提示されているのだから。ならば儂も、それを彼に差し出す以外に行動を持たない。たとえそれに、数パーセントの虚偽が混ざっていたとしても。
    「今、助ける」
    飛び込んだ瞬間に背中から脇腹を貫く痛みがあった。血液が吸われているのだろう体温の下がる感覚に、しかしこの程度で値を上げる訳には行かない。背中から伸びる丸々と太った枝を叩き折りながら、彼の腕を掴む。力なく私に縋る腕、そこから続く掌は、柔らかく温かった。瞬間、理解に血が沸く。
    (違う、幻覚だ。この肌は熱がこもり過ぎている)
    (失敗をした。それでも、この手を伸ばさずにはいられなかった)
    (貴方を助けられぬ未来のバッドエンド増やすくらいならば、儂が騙されることなど大した問題ではない!)
    振り返ると、もう一人の最愛が酷い表情をして此方を見ている。当たり前だ、我らはお互いを愛しているから、誰が欠けても悲しいものだ。だからこそ、鬼は笑おう。鬼が笑えば、未来の予定も罷り通るというわけだ。
    「すまないなぁ! この桜には幻覚作用があるようだ!」
    気づいた言葉は残しておこう。儂一人では助けられない現状も、人が増えれば時に解決へと向かう。
    「何、鬼ってのは案外しぶといものなのだ。幻覚の先に、どうあっても彼という最愛に辿り着いて、一緒に帰ってこれるように頑張るよ」
    理由さえあれば、鬼は裂かない種も撒き、無償で橋を直し、自慢の角を叩き折って恩ある方に仕えるものだ。軽口じみた言葉を重ねながら、この手が愛を守るに届くように、一つを願いながら鬼は桜に引きずり込まれた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works