それはそれ、これはこれ 今日は何の予定もないお休みの日。いつもよりゆっくりと起きて、朝ごはんを軽く済ます。少し暴走気味の髪の毛も栄養バランスも何もない朝食も、一人だけのこの城では咎められることもない。
片付けと洗濯を済ませ、外を見る。お天気は快晴で洗濯物日和だからお布団一式を洗って干してしまおうか。時間があって晴れている時にしかできないのだからすぐに取り掛かる。
洗い上がりを待つ間にESアイドルたちを可愛らしくしたぬいぐるみと遊んだり、録画した番組を消化する。
「ぬいちゃん本当に可愛いなぁ……。巽くんはカッコいい寄りだけど、こうやってふわふわのぬいぐるみになるとやっぱり可愛さが勝っちゃうな」
薄く色付いた頬をツンツンとつつく。支えなしでは上手に立てない彼のぬいぐるみはコテンと転がってしまうがそんな姿もまた愛らしい。
本日何度目かの洗濯完了のメロディが聞こえる。
「よし、これでお布団一式も全部おしまいだ!さあ干すぞ〜」
シワが残らないように叩いて伸ばしてから落ちないように洗濯バサミでしっかりと留める。たくさんの洗濯物が風を受けてパタパタと揺れている光景に少しの達成感を覚える。思いつきでやり始めたこととはいえタスクをこなした自分を自分で褒め称える。
ご褒美に割引になっていたプリンとカフェオレを用意する。
「朝も昼も適当に済ませちゃったし、頑張ったご褒美だからね、うん」
誰もいないのに弁解の言葉を並べるのは側から見ると滑稽だろうがそれを指摘する人もいないし、一人でいる時の悲しい癖なのだから仕方ない。
ご褒美タイムを終えると同時に小さなあくびが出た。――お休みだしいいお天気だしちょっとだけなら、いいよね……?
寝室から薄手のブランケットと抱き枕代わりにしているもちマスピローの巽くんを持ってくる。この巽くんもぬいぐるみとは違った可愛さで日々癒してくれている。ふにふにと感触を楽しんでいるうちに夢の世界へと沈んでいった。
意識が夢の浅瀬の方へと戻ってきた時、小さな物音と人の気配がする。色々と思考を巡らせたあと恐る恐る目を開けてみると巽くんがいた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「うん……うん?」
ふわふわと頭を撫でられて思わず猫のように喉を鳴らしてしまうが、起き上がったあと本人に問いかける。
「巽くんお仕事じゃなかったっけ?早めに終わったの?」
「今日の撮影は先方の都合でリスケになりまして。午前は寮のサークル活動に顔を出していたんですが会いたくなってしまって……ダメでしたか?」
「嬉しいよ!けど連絡くれたら何か用意できたのに。ごめんね、寝ちゃってて」
「俺としては愛らしい寝顔が見れて嬉しかったですよ」
そう言われてからよだれを垂らしてなかったかな、そういえば朝の寝癖が……なんて気になり始める。
「……お昼寝するんじゃなかった」
「どうしてですかな?」
「だって、今日は油断してたから……急に恥ずかしくなってきた」
「俺は貴女のどんな姿も好きですよ。寝ている時に少しよだれが出ていても全く気になりません」
「えっ、出てたの!?」
「今のはあくまで例えですよ。気持ちよさそうに寝ていたことは本当ですけれど。ふふ、頬をつんつん、としても全く起きないくらいに」
良かったけれど良くない。
「うう……まさかそんなに寝顔を見られるなんて……」
「寝顔なんてお互いに何度も見たことはあるでしょう」
「それはそれ、これはこれなの…!」
「では俺からも一つ。もちもち君だけ貴女の寝顔を独り占めできる時があるのはずるいです」
「もちマスもぬいちゃんもぬいぐるみだよ?この間はぬいちゃんのこと巽くんも可愛いって言ってたよね?」
「それはそれ、これはこれですな。可愛らしい寝顔を見るのは俺だけで充分です」
「もしかして、もちマスに嫉妬してる……?」
「はい」
そう答えたあと抱えていたもちマスピローを取り上げられる。テーブルの上にそっと置かれるまでの動作を見ていると、こちらに向き直った巽くんに抱き締められる。
「気が変わりました。明日の仕事は午後からですし、あのもちもち君より俺と一緒に眠る方が良いということを実感してもらいます。」
一切澱みのない笑顔で宣言をされてしまった。間違いなく本気なのだろう。……今度からもちマスピローは巽くんにバレないように使うことにしようと心に決めた。