夢を見ていた。伏せた眼の先に映るのは畳の目。青々とした [[rb:藺草 > いぐさ]]の匂いに混じって、木蓮の甘く馥郁とした香りが漂ってくる。春の陽射しが欄間を透かして、やわらかな光と淡い翳の彩模様を落としている。規則正しく、緻密に続く網目を辿っていると、床の間の前に座す膝頭が視界に入った。着物を着た、子供の膝だ。
「顔、上げろ」
ひややかなほど凛とした声が耳朶を打つ。何かを思うよりも先に、気付けば声に命じられるまま面を上げていた。単衣の袖から伸びるほっそりと白い指先が、こちらを指し示している。
「こいつにするから」
目線を上げるにつれ、濃藍の帯を締めた細い腰元が、雪輪紋の織られた浅葱の[[rb:綸子 > りんず]]が視界を移ろっていく。襟から覗く喉元の[[rb:皓 > しろ]]さが目に焼き付く。けれどその[[rb:頤 > おとがい]]の先に続く顔を見上げようとしたとたん、映像はふいに途切れて暗転する。
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