無自覚にもほどがある【サンプル】
「俺、先生のことが好き」
ある日の任務の帰り、教え子から言われた言葉。振り向いた先にあった見慣れた顔は、今まで見たことがないくらい真っ赤に染まっていた。ただの親愛としての「好き」ではないことは明白だった。
もちろん悠仁のことは好きだし、大切に思っている。今必死でこちらを見てくる赤い顔もかわいいなと思うけれど、それはあくまで教え子としてそう思っているだけだ。
僕はそう結論付けて、アイマスク越しにも視線を合わせてくる教え子の方を向いて笑みを返した。
「僕も悠仁のことは好きだよ」
目の前で真っ直ぐこちらを見つめる瞳に、わざと軽く返す。意地の悪いやり方だが、これで引き下がってくれればどちらにとってもなかったことにできる。そう思ったけど、やはりそうはいかなかったようだ。僕の言葉を聞いた悠仁は、ぐっと口元に力を入れ、それでも必死で食い下がった。
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