3月 新昴の日 SS2024年3月23日 新昴の日 SS
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Kiss me sweet again
午後公演が終わって小一時間。誰もいない楽屋の片隅で顎を掬われ、唇同士が重なる。ふんわりとした温かな感触。このまま時が止まってほしいと、願ってしまう。
どちらともなく熱い吐息を漏らして、けれどすぐに離れていく彼の温度。
「…えへへ」
ふにゃりと笑う新次郎の顔には、まだ初心さと幼さが残っている。彼自身、これ以上先に進むつもりは無いのだろう。だがこの熱が冷めてしまうのは惜しい。
そう思うのと同時に、僕は彼の瞳を見上げていた。
ああ…23cmもの身長差ゆえに、恐らく僕が上目遣いをする形になっている。日頃なら恥ずかしくて仕方がないが、今はそんなことを考える余裕さえない。
とにかくもう一度、彼の柔らかな温かさを感じたかった。
「ん……」
短い接吻。新次郎はそんな昴の気持ちを汲み取ってくれたらしい。
先ほどよりも少しに長い口付けに、心が高鳴った。「昴さん」と、耳元で聞こえる彼の甘い声。互いの服越しに僅かに触れ合う体___
ガチャ
不意に扉の開く音がして、シアター最年少、リカの高らかな声が響き渡る。
「わっすれっものっ、わっすれっものっ」
「全く…ちゃんと確認しろって言ったじゃないか」
「まあまあ、いいじゃないですか サジータさん」
続いてサジータ、ダイアナも楽屋へと足を踏み入れたところで、新次郎は素っ頓狂な声を上げ、その場に尻餅をついた。
「ちょっ、何してんだよ!」
「そ、そそそれはこっちのセリフですっ!」
「?? しんじろー、なに慌ててるんだー?」
「大河さん…昴さん…その……」
新次郎と昴へ、一瞬にして視線が集まる。確実に見られてしまった。ダイアナは頬を真っ赤に染め上げ、「お熱いですね」などともじもじしている。
別に僕は見られても構わないのだが、堂々としていれば良いものを、情けない新次郎の様子に軽く溜息が漏れる。
「皆〜! 早くしないとレストラン閉まっちゃうよ!」
そこへジェミニもやって来て、星組が全員集合した。
「あれっ? 皆固まっちゃってどうしたの? 待って、ダイアナさん熱があるんじゃ…!」
「すばるとしんじろーがちゅーしてたぞ!」
「え"ーーーっ!?」
「ち、違うんだジェミニ! あれはその、…」
「違わないだろ!? そういうのはこいつの部屋でやりな!」
サジータに物凄い剣幕で人差し指を指され、僕は二度目の溜息を吐く。
「昴は言った……やれやれ、と」
だが、こんな日も悪くない。
大切な人の隣で、大切な仲間と隣に居られる今が、幸せだ。
fin.