さらに闇を待つこのアパートの一室をねぐらとして与えられてからもうすぐ一年ほどになるが、部屋のメンテナンスなどは一度もした事がなかった。老朽化が激しく至る所が隙間だらけで、冬は寒く、夏は暑い。押し入れの引き戸は立て付けが悪く開けるのに苦労するし、窓枠は風が少し吹くだけでもガタガタと音を立てる。床板も傷んできており、歩けばあちこちでぎいと苦しそうに鳴くという始末である。
勿論、電球など変えた事もない。粗末な裸電球は、この所もう虫の息だった。息絶える直前の蝉の如き瞬きを繰り返しては、卓袱台を挟み対峙する、俺と目の前の男の肌を蜜柑色に照らしている。
何を思ったか俺の今の管理者であるこの男は、真島ちゃんの家で一杯やろうよ、などと宣いこのねぐらに上がり込んだ。卓袱台にはコンビニで買ってきた缶ビールが数本と、つまみの貝ひもの袋が開けられている。それだけで卓の上はもう余白がない。ろくに会話もないままに換気の悪い部屋でゆっくりと飲み続け、しかも真夏という季節も相まってビールはすっかりぬるくなっていた。卓の上に視線を落とす佐川の首筋は、手元の缶と同じく汗で濡れ、電球が点滅するたびに爬虫類の皮膚のようにあやしく光る。それを見つめる俺自身も、全身にじっとりと汗をかいていた。
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