夜にほどける 真島の狸寝入りに気付いているのかいないのか、佐川は先ほどから煙草を吸う片手間に、敷布団に散った真島の髪をすくいあげては何度も指で梳いていた。されるがままになりながら、汗で濡れた髪なのに不快ではないのか、と真島は疑問に思う。佐川に背を向けたままでいるので、真島にはその表情を計り知る事は出来なかった。
蒼天堀の夜は長く、少し開けた窓からは絶えず喧騒が漏れ聞こえ、明かりが差し込んでいる。粗末な裸電球ひとつ消したところで、この部屋に暗闇は訪れない。目を閉じていてもそれは変わらず、金を吸い上げて生まれた刹那のきらめきが瞼を貫き、覚醒を促してくる。そこに来て、佐川のこの戯れである。真島は苛立ちが抑えきれなくなり、何か言ってやろうかとついに口を開こうとしたところ、突然くっ、と頭皮が強く引っ張られた。髪が絡んでいたらしい。するりと指が抜ける感触があり、ああやっと離れていったと安堵していたら、やや間があった後ぱちんと硬い音が響いた。
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