元使用人の話 子供が苦手だった。話通じないし敬語も使えない。どうしても苦手だ。クラウン家の使用人として勤め初めてルミナスお嬢様と出逢った。お嬢様は使用人がやる事を積極的に手伝うお方だった。それに笑顔がとても素敵でルミナスお嬢様をきっかけに子供が好きになった。
使用人として勤めルミナスお嬢様が9歳頃のとある朝、目の色が変わるという事態が発生してしまった。食べたものは普通だったし特に変わったことはなく、医者に診て貰っても視力も正常と判断された。異変が起きたルミナスお嬢様への対応がご両親は違った。心配する素振りもなくいきなりお嬢様の頬を打った。何が起きたかわからず困惑するお嬢様に「出来損ない!」「クラウン家は皆瞳の色が紅くなくてはならないのになんであなただけ!」「お前なんかクラウン家には相応しくない悪魔の子だ!」大声で俯くお嬢様に向かって放った言葉だった。
小さい体を震わせて小さな声でただひたすら「ごめんなさい」と謝り続ける姿を見て痺れを切らし「言い過ぎです」と私は遮った。お嬢様と二人きりになった時まずお嬢様を抱き締めた。でもお嬢様は「大丈夫です」といつもと変わらない笑顔で返答した。普通なら泣き喚くと思った。辛いはずなのに。暫くすると再びご両親がやってきて「ルミナス、今から貴方をクラウン家から追放します。二度と顔を見せないように」と告げ去って行った。お嬢様を見ると屋敷を出ようとしていた。他の使用人を見ると皆スッと視線をそらし見て見ぬ振りでとうとうお嬢様は「ありがとうございました」と笑顔で告げそれから二度と帰ってこなかった。
夜こっそり抜けルミナスお嬢様を探しに出た。私だけでなく他の使用人も同じ事をしていた。でもどこを探しても見付から無かった。
ルミナスお嬢様が居なくなってから数年後に私は妹様の専属になった。
「どうしてお洋服の準備ができてないのよ!」「悪魔の姉がいたなんてはずかしいわ!」「なによこのボロ布〜あ〜悪魔の服ね、捨てときなさいよ!」とこんな有り様だ。本当に姉妹なのかと疑いたくなる。何かあればすぐルミナスお嬢様を見下す発言が多くそれに我儘も多く屋敷中の使用人を困らせていた。
「今日は私の許嫁様と対談があるんだから!とびきり良いドレスを用意なさい!」
「…かしこまりました」
正直、「失敗してしまえ」なんて願う自分がいた。本来ならルミナスお嬢様が対談するお相手。どんな反応するのか。
対談は盛り上がっているように見えた。でもお相手のご両親はとても不思議な顔で妹様を見ている。
「本日はありがとうございます。あの、とても言い難いのですが…ルミナス嬢はどちらに…?」
「私はルミナス・クラウン様と対談しにやってきましたが…居ないのであれば申し訳ありませんがこの対談は無かったことにさせて頂きます。」
許嫁様から断られその場で妹様は泣き喚いていたが内心ホッとしてしまった。
「なんでなんでー!あんな悪魔みたいな姉のどこが良いのよ!もう追放されて屋敷には居ないのに私でいいじゃない!」
妹様の発言に呆れてしまった。さて、許嫁様の返答は…?
「追放…?自分の娘を追放したのですか?なぜ?理由は分かりませんがとにかくこの話は無しです。私はルミナスさんとお話がしたかった…では。」
1時間もしないで対談は終わった。その夜に私はご両親の元を訪れ「本日でクラウン家の使用人を辞職させて頂きます。」と一言告げクラウン家を去った。その後は自分のやりたかった旅行をしていろんなところを渡り歩いている。
一人旅をするようになってからとある街にやってきた。人が賑わっていてとても楽しそうな街。そこには背が高く明らかに人間ではない男性が居たがその隣に見覚えのある髪色の女性がいた。ルミナスお嬢様だった。笑顔で他人とお話していて私は心底安心した。思わず泣きそうになった。話しかけたいと一歩踏み出したがだめだ。また関わってしまったら離れたくないという我儘が動いてしまう。
私はルミナスお嬢様が近くの店に入り噴水の近くで待っている背が高く明らかに人間ではない男性に「失礼します。突然ですが貴方様のお連れの女性にこの手紙をお渡し頂けますか?」
と頼みすぐ離れたかったが「自分で渡せばいいんじゃねぇか」とごもっともなことを言われ言葉に詰まった。「駄目なんです。なのでどうかお願いします。それでは」と男性には失礼で申し訳ないが手紙を押し付けた。
その手紙を読んでも私を探そうとなんてしないでくださいねルミナスお嬢様。
「さて、次はどこに行こうかな」
見上げた空の色がとても綺麗に感じた。