ああ〜いってぇ…鈍器物で思いっきり殴られた頭がズキズキと痛む。
首を突っ込むつもりではなかったのだが、子供が誘拐されている現場を目撃しといて大人しく目を瞑っている程許される行為ではないと体が動いてこのザマだ。
殴られた上に出血している様で、こめかみ辺りからジクジクとした痛みと自分の生暖かい流れ出る血が気持ち悪く感じていた。できるならいっそ放置して欲しいくらいなのに、誰かが俺の頭を触っているのが解る。触るだけではない、傷口をペチャペチャと音を立てて何かをしているのがわかる。傷口に触れる度にこめかみに激痛が走り、余りの痛みについ声を荒げてしまった。
「っだああぁっ痛いから傷口に触るなっ!!」
「え?まだ痛いですか?」
「はぁっ!?」
痛いに決まってるだろっと、文句を言おうと起き上がって気付いた。そう自力で起き上がれる程回復していた、それだけでなくこめかみのジクジクした痛みどころか縫うほどの傷口は止血され跡形もなく傷口が塞がっていたのだ。
「急に起き上がらない方がいいですよ、傷口が塞がったとは言えかなり出血してましたから」
「っ!?」
声を掛けて来た人物を見て色んな意味でギョッとした、そこに居たのは誘拐された子供だ。その時頭まですっぽりと被っていたフードコートを着ているから間違いない。まず驚いたのはその素顔だ、青白い顔に黒い縁取りに真紅の眼、それに頭部には羊の様な黒い巻き角が生えていてどう見ても人外でしかなかった、フードで顔まで隠していたのはその為なのだろう。そして極め付けは、幼い子供の口元と手が血塗れに汚れている姿だ。
「まだ、血で汚れてますが私が舐めて治療しましたから大丈夫だと思いますよ」
あどけない笑顔を見せながら笑う子供に、一瞬言葉を失う。
「それよりすみません、私の所為で一緒に攫われちゃったみたいで」
「俺は吸血鬼退治人のロナルドだ。目の前で子供が攫われてほっとける訳ないだろっだが…お前は一体何者なんだ?」
俺は吸血鬼退治人を生業をしている退治人の端くれだ、異形な吸血鬼だっていくらでも相手して来た。治癒能力…しかも舐めて治すなんて奴見た事も聞いた事もない。
「私はドラルクと申します。この異形の姿に驚かれたでしょう?一応吸血鬼ですが、この姿は一族の…お祖父様の血を色濃く受け継いた事が原因ではないかとお父様が話してくださいました」
子供はポケットから白いハンカチを取り出し口元を拭いながらそう語った。
「この能力については私にもわかりません。後、これ以上の事は今さっき出会った方にはちょっと…」
「ああ、悪い。余り検索するべき内容じゃないな、忘れてくれ」
確かに事細かに聞ける内容ではないなと思い、これ以上は触れるべきではないのだと判断してこの話はやめにした。
「攫われた理由とか分かるか?」
「お金持ちだからとか?」
「え?実はかなりの資産家?」
長い年月を生きる吸血鬼の中には、この世界に溶け込む様に生活する者だっている。よく見ればドラルクと名乗る子供の吸血鬼の身なりは、かなり良いと言えるだろう。
「お母様は弁護士をしてます」
「充分だな」
吸血鬼であれそれなりの地位を築いているのなら、誘拐されてもおかしくはないな。
「よしっ逃げるぞ!!」
「え?でも…」
「怪我さえ治ればどうにかなるさ」
武器である銃は取り上げられているが、どうって事はない。誘拐犯は俺が怪我して気を失っていたからと、俺を拘束しなかったのが幸いした。
立ち上がり鍵を締められたドアと向き合う俺を、ドラルクは不安そうに見上げた。
「危ないから退いていろ」
渾身の力を込めてドアに体当たりしてやれば、あっさりとドアは壊れて開いた。
「え…怖っ退治人ってサイボーグなの!?」
若干引き気味なドラルクに言われて内心やり過ぎたかと思ったりもしたが、すぐさま異変に気付いた誘拐犯が来た所で瞬時に戦闘モードに切り替えた。
その後、ドラルクの家族とも一悶着あったがそれはまた別の話…。