待ち合わせ場所にした駅前は、ハロウィンということもあり仮装した人々で埋まっていた。
その中で一人、場違いなスーツ姿で周辺を見回しているのは降谷だ。
「降谷さん!」
よく知った声で呼ばれて、声の方へ顔を向けると黒いマントを羽織った新一がこちらに手を振っている。
「うーん。僕も仮装した方がよかったかなぁ」
「まあ。スーツ姿の仮装ってことでいいんじゃない」
「それで、君は吸血鬼かい」
警察という組織の中で激務をこなし、今でこそ第一線から退いたとはいえ降谷の職務は今でも激務と呼ばれているのだ。それでも現在、新一とこうして落ち合って、新一に合わせてくれるというのはそれほどに降谷の中で、新一の存在が大きいということと考えて自惚れてもいいのだろうか。
「ここは変わらずに人が多いなぁ」
「まあ。ハロウィンなんで特にかもしれないけどね」
駅前の交差点を抜けて商業施設の前で空を仰ぐ。周りには思い思いの仮装をした若者の姿がある。
この場所ではじめて仮装をしたときには、警察学校同期の彼奴らがいた。
卒業後に道は違えども、同じ釜の飯を食べた仲間との思い出は鮮明だ。その後、この場に立った時には小さくて勇敢な探偵くんとだった。
「あの時はどうなることかと思ったけれど、君とならどうにかなってしまうものだね」
「降谷さんだって、結構無茶してたじゃん」
そんなことを言い合って、顔を見合わせて吹き出す。
「今はこうして新一くんの隣か……」
「なんか不服でもあんの? 零さんは」
じろりと見上げて、また笑い合った。ドラキュラ伯に扮した新一の頬に降谷の指が触れる。
「恐悦至極にございます。伯爵」
「よろしい」
「で。トリックオアトリート、キスしてもいいかい?」
「なんだそれ」
唐突に。唇をなぞっていた指のかわりにキスが落ちてくる。
それはお菓子より甘くて、イタズラというには真剣なキスだった。