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    きさぎ

    @amaizu

    伊月とナッシュ そしてナシュ月 単品のナッシュはほぼ受け想定
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    きさぎ

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    めんどくさいナシュ月

    #腐向け
    Rot
    ##ナシュ月

    After the bad weather「機嫌直せよ、シュン」
     ソファのひじ掛けにもたれて顔をそむけたままでいる伊月の黒髪を、ナッシュの長い指がすくった。
    「……やだ」
     伊月はナッシュを横目でにらむ。触れてくる手を払いのけて、またそっぽを向く。
    「おまえな。意地っ張りで頑固なのは承知だが、そこまで不貞腐れることねえだろ? 二人きりで過ごせる時間が貴重だってのはわかってるだろ。それを」
    「最初にその貴重な時間を台無しにしたのはナッシュのほうだろ」
     伊月はナッシュの顔を見ないまま、ぶっきらぼうに反論する。
     ソファに並んで座って触れ合ってキスをして、甘い熱を互いにはらんできた頃合いにナッシュのスマートフォンが鳴った。電話のようだったがいつも通り伊月を優先するのだろうと思っていたのに、ナッシュはあっさりと伊月から手を離した。
     伊月は一瞬、ナッシュの行動を理解できなかった。乱れた服を整えるという思考すら働かず、通話を始めたナッシュを呆然と見るだけだった。
     姿の見えない相手に対し、ナッシュは気安い様子だった。話している内容から察するに共演者で、次の収録の台本に関する相談であるらしい。――そこまではいい。仕事の話なら仕方がないと思える。たとえ中途半端に火照った体と気分を放り出されて手持無沙汰だとしても。
     けれど漏れ聞こえた相手の声が、女のもので。あまつさえ、これから自分の家で練習をしないかと媚びるような声音で言うものだから、伊月の胸に一気に不快感がこみ上げた。
     これが色気のない純粋な、演技に悩んでいるので事前に練習させてくれないかという誘いであれば伊月は気にしなかった。だが相手の女は明らかにナッシュに好意を向けている。しかも色欲が透けて見える類のだ。
     そんな女に恋人としての時間を邪魔されたのだから、機嫌も急降下するというものだ。
     ナッシュに非がないのはわかっている。あからさまな誘いに眉をひそめてきっぱりと断ってくれたのだから、伊月はさっさと切り替えるべきだった。
     理解していながらいつまでもへそを曲げてナッシュにご機嫌取りをさせているから、いま非難されるべきなのは伊月で正しい。逆にナッシュが気を悪くしても、大人げない振る舞いを続ける伊月に文句を言う権利はない。
     それでも伊月はナッシュをすぐには許せなかった。別に仕事より自分を優先してくれなんて思ったりしていないが、ナッシュの言うとおり二人きりで誰の目を気にすることもなく過ごせる時間はとても貴重なものだ。だからこそ、いざ愛し合おうというところになって放り出されたのが気に食わない。なにしろ今回は二か月も我慢していたのだから。
    「それについては悪かった。謝るから、いい加減こっち向いてくれよ、ダーリン」
     キャラメルシロップを溶かし込んだみたいに甘ったるい声で請われる。伊月はおもわず従いそうになるも、何とか自分を抑え込んだ。ダーリン、なんて常用しない呼び方で甘くささやけば簡単に折れるなんて思われるのが癪なので。
    「……やだ」
     素直に振り向けば、きっととろけそうなほど愛情をにじませた翠色に迎えられるのだろう。そう思うと言うことを聞いてしまいたくなる。愛されていると強く実感できる色をしているし、その瞳を見ることで伊月もまた彼がいとおしくてたまらなくなるから。見つめあったときに胸を満たしていく幸福感と充足感はまるで麻薬だ。理性と忍耐力を総動員させてひじ掛けにしがみついていなければ、甘い誘いに耐えられない。
     ふ、とかすかな笑声が伊月の耳朶を打った。ナッシュのものだ。――我慢しているのがどうやらバレている。
    「……笑うな」
     伊月は低くうなるように言う。八つ当たりじみた威嚇では、熱くなる頬をごまかせなかった。
     悪い、と笑いをかみ殺した返答があった。
    「拗ねる小鳥ちゃんがあんまりかわいいもんでな」
    「かわいくない」
    「オレにほったらかされたからって拗ねてる恋人の、どこがかわいくないって?」
    「……」
     揶揄を軽くふくんだ指摘に伊月は口を閉ざす。図星だ。そしてナッシュが伊月に後回しにされたと思って不貞腐れていても伊月はかわいいと思うだろうので反論もできない。
    「シュン」
     耳元で甘ったるく呼ばわれ、伊月はぴくりと肩を震わす。耳にかすかに触れた唇が、放り捨てたはずの官能を引き戻してくる。
    「なあ、こっち向けよ」
    「……」
    「おまえの顔見てキスしたい」
    「…………ずるい」
     そんなことを言われては、根負けせざるを得ないではないか。
     顔を見たいというのなら無理矢理に顔を向けさせればいいし、キスだって勝手にすればいいだろうに、こういうときのナッシュは決して無理強いをしない。というより必ず伊月に自ら選ばせる。伊月を求める言葉を吐いて、愛情ゆえに求めているのだと、伊月の頑迷な心を溶かしていく。そうやって伊月自身に応じさせるのだ。
     ――本当に、ずるい。
     せめてもの抵抗に、伊月はうつむけた顔をナッシュに向ける。ちらりと上目遣いに見た至上の美顔は想像通り、甘くやわらかな表情をしていた。
    「いい子だ」
     満足げに言うナッシュの両手が、伊月の頬を包む。ちゅ、と軽い音を立てて前髪越しの額に口づけを落とされた。次いで右の眦に。左の目尻。左右の頬へ順番に、ゆっくりと。
     すっかりほだされた伊月をじらすような戯れのキスだった。自分でキスをしたいといったくせ、余裕ぶって伊月に求めさせようとするのは、この男の実に面倒な性質ところだ。
     いちいち面倒くさいとは思うけれど、今回ばかりは大人げなく不貞腐れた負い目が伊月にはある。第一そもそもは伊月が、わかりやすい愛情表現を照れ臭がってあまりしないせいでもあるのだ。
     だから仕方なく、伊月はナッシュのシャツを控えめにつまんで引いてやった。
    「……はやく」
    「小鳥ちゃんもオレとキスしたいのか?」
     ナッシュがからかうようにささやく。伊月の心境を察していながら聞いてくるのには少しだけイラついたけれど、
    「……したいよ」
     うなずいてやればナッシュが嬉しそうに目を細めるのだから全部チャラだ。
     伊月からの好意を喜ぶ恋人の姿が、かわいくないわけがない。
     素直になったご褒美とでも言いたげに、ナッシュの唇が重ねられた。軽く触れあうだけのものなんてもちろん満足できないから、この上もったいつけようとしたナッシュの頭を引き寄せて伊月のほうから深く口づける。珍しく大胆なことをしてみたのにナッシュがすこしも驚いた様子を見せなかったのが、面白くないと言えば面白くない。
     食んだ唇を意趣返しみたいに甘噛みする。すこし引っ張って離れてやれば、ナッシュが吐息だけで笑うのが聞こえた。
    「悪戯だな」
     咎めるふりの声は楽し気で、なのに腰にきゅんと響く甘さをふんだんに孕んでいた。
     淫靡な熱を予感させる声音に、伊月は我知らず両腿をすり合わせる。すぐに気づいて自制したけれど、ナッシュには見透かされているだろう。
    「悪い小鳥ちゃんにはお仕置きが必要だよな、シュン?」
     伊月の太腿をゆっくりといやらしく撫でながら言うナッシュのほうが、よほど悪戯者の顔をしていた。
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