彼方からの紙飛行機久しぶりに予定の無いマリオは少し遅めに起床した
いつもなら聞こえるであろう下からの家事の音や少し外れた鼻歌が全く聞こえない事に気付き弟の名前を呼びながら1階へと降りていく
「おーい、ルイージ?」
おかしいな…昨日寝る前には特に出掛けるなんて言ってなかったし、買い物も済ませてあるって言ってたのにな…
キッチン・リビング・庭といつも弟が居るであろう場所をキョロキョロと探してみるが見つからない
再度リビングへ戻ると机の上に置き手紙がある事に気付いた
「?」
マリオが手に取り広げて見るとそこには探していたルイージからの伝言があった。
ー兄さんへ
おはよう!
久しぶりのおやすみに兄さんに、美味しいものを作りたいので街の図書館へいってきます。
もし、起きたときにまだボクが帰っていなかったら
冷蔵庫のサラダ・棚の中にパンがあるので、焼いて朝ごはんにしてね!
ーーーーーーーー
「ふふ……わざわざいいのになぁ…」
弟からの伝言を頼りにパパっと準備をし
少し寂しいが1人で遅めの朝食を済ませる
使い終わった食器をキッチンで洗っていると後ろから
ガチャッと扉の開く音がした
「ただいまー」
「おかえりルイージ、目当ての本はあったかい?」
「おはよう兄さん!うん、兄さんが好きそうなレシピ本を見つけたよ!」
「ほう、それは今日の夕飯が楽しみだな」
にこにこと嬉しそうな弟を見て先程の寂しい気持ちも吹き飛んだマリオは途中にしていた洗い物を再開しようとしたが、ルイージがもう一冊本を持っている事に気付いた
「他にも何か借りてきたのか?………絵本?」
「あぁ、うん!なんだか変わった絵本でね、仕掛けがあって飛び出したりする物なんだって」
「へぇ面白そうだな…洗い物すぐ済ませるから一緒に見せてくれよ!」
「うん、じゃあ今のうちにお茶の準備しておくね!」
そういうとお互いにキッチンを行ったり来たりし
マリオが洗い物を終わらせ、食器をしまう頃には
リビングの机に先程の絵本と紅茶を準備したルイージが嬉しそうに足をユラユラさせながら待っていた
「おまたせ、紅茶ありがとう」
「へへ…今日はちょっと良い茶葉にしてみたんだ!姫様のお墨付き!」
「それは美味しいな絶対に」
紅茶を一口飲んだあと本題の絵本をそっと開いた
そこにはどこかで見た事あるようなヒーローが、宿敵や仲間と共に折り紙にされてしまった街の人々を救う
これまた見た事があるような無いようなお話が、飛び出したり・引っ張ったり・折り曲げたりと様々な仕掛けで描かれていた
「この主人公なんだか兄さんみたいだね」
「えぇ、そうかな……だったらこの時々出てくるこの子はルイージかな」
「ボクこんなにおっちょこちょいかなぁ……」
「いざという時に頼りになるいい子じゃないか、僕は好きだよ」
「うぅん……まぁ…兄さんがそう言うなら…」
鍵を探しに1人奔走するもなかなか目当てのモノを見つけられない登場人物と重ねられ若干不服な弟を微笑みながら
見つめるマリオは次のページに進もうとペラリと紙を捲った
ペラ…………カサッ…
「兄さん本から何か落ちたよ?」
「ん?」
そこには緑色の紙飛行機が落ちていました
それを拾い上げようとルイージが手を伸ばしたその瞬間
【〜〜!!!】
「ヒェッ!!!!な、何!!??」
「どうした!」
「な、か、紙飛行機から何か聞こえた!!!」
床に落ちた紙飛行機がひとりでにカタカタと動き
微かに小さな声が聞こえ、後退るルイージ
弟を背に隠し恐る恐るマリオが紙飛行機に近付き耳を済ませると聞き覚えのある声が聞こえた
【〜〜けて…!!た……け…!!誰かたすけて!!暗いよぉ〜〜!!!】
「?!ルイージ…???!」
紙飛行機から微かに聞こえた声はルイージのものだった
マリオは自分の弟は今後ろに居るのに何故紙飛行機から…?と頭に大量の?マークを浮かべていた
【暗いよぉ………せ、狭い…兄さぁん!!どこ〜〜!】
背後で震えていたルイージもマリオのプチパニックに気付き、どうしたのかと覗き込むとカタカタ動く紙飛行機から自分と瓜ふたつの声が聞こえ慌ててその紙飛行機を机の上に掬い上げた
「に、兄さん、か、紙飛行機からボクの声がする…!!」
「う、うん、え…でも何でだ…?」
【兄さん!そこにいるの!!?】
慌てる二人の声が紙飛行機の中の人物にも聞こえたのか
返事が返ってくる
「き、君はルイージなのかい……?」
【そうだよ兄さん!!気づいたら折りたたまれちゃって出れなくなっちゃったんだ、開いて助けて〜!!】
「に、にいさん、本当に大丈夫…???」
「………開けてみない事にはどうにもならないだろ…」
このまま放置する事も出来ず恐る恐る紙飛行機を開いていく……
そこには少し折り目の残ったペーパールイージが挟まれていた
【ありがとうにいさん…って、え!!?誰!?大きい!!!ペラペラじゃない!!?うわぁぁ!?】
喜んだのも束の間見知らぬ世界で見知らぬ兄弟に見下されぱたぱたと慌てふためくペーパールイージ
「「ペーパールイージ!?」」
【!!!?】
以前の冒険で共にしたペーパーな兄と同じ出で立ちだが、サイズが一周りも二周りも小さい弟を見て大声を出す二人
敵ではないとわかった二人は机の上をぱたぱたと走り回るペーパールイージの目線に合わせしゃがみこんだ
「きみはあの紙の兄さんの弟なのかい?」
【そ、そうだよ……君たちは…もしかして前に兄さんが話してくれた飛び出したみんなを戻してくれた兄弟…?】
「そう!そうだよ!……じゃあやっぱりきみはあのペーパールイージなんだね、うわぁ!会えて嬉しいよ!」
先程のパニックはどこへやら、弟は楽しそうに紙の弟と会話に花を咲かせ始めた
自分の弟とはどこか少し違う紙の弟との会話風景にマリオは日々の疲れが溶けていくような気までした
「ペーパールイージ、君のマリオはどこへ行ったんだ?前に別れた時は本の中に帰っていった筈だけど」
【わぁ、大きい兄さん!………それがボクにも分からないんだ、起きて気付いたらあの紙飛行機に挟まってて…】
「うーん……手がかり無しか、困ったな」
「あ!兄さん、もしかしたらお城のあの本を開けば帰れるんじゃないかな…あの絵本もお城近くの図書館から借りてきたから」
「なるほど、行ってみようか」
【ちゃんと帰れるかな……うぅ……】
手がかり無しの不安から、心なしかしわしわになっている様に見えるペーパールイージ
そんな自分の分身の様な彼を見てそっと大切に抱え上げ、オーバーオールの胸ポケットに降ろすルイージ
「大丈夫だよ!兄さんとボクが必ずきみを元のマリオの所に帰してあげるからね!」
【…ありがとう大きなボク!】
まるで小さな子を安心させるかのような微笑みを向け
少し飛び出した帽子の上から頭を指先で撫でる弟を見て
声にならない幸せを噛みしめるマリオだった
ーーーーピーチ城にて
「まぁ…なるほどそうなのですね……それは災難でしたねペーパールイージ…」
あれから世間話やお互いの世界の事などを情報共有しつつ目的の図書館に向かった三人だったが、これといった手掛かりは無く、それならばと以前ペーパーマリオ達が飛び出してきた本のあるピーチ城までやってきた
昔馴染みとはいえ、流石に無断で物置を漁るわけにもいかずかといって姫に誤魔化しても仕方ないという事で
一旦姫の元へ事情を説明しに来たのだった
「……という事なので以前使った本をもう一度開いても良いですか?」
【お願いします大きい姫様!】
「うふふ……えぇ構いませんよ、無事に帰れる事を祈っていますね」
「ありがとうございます姫様!」
「マリオ、ルイージ頑張って下さいね」
「「はい!」」
無事許可を貰い物置へと来た3人
目当ての本はすぐに見つかったが、以前のように開いても何も起こらない
「うーん…何でだ??前にペーパーの僕が帰ったときはこう……キラキラというか、吸い込まれる感じだったよな?」
「そうだね……でも今回は何もだね………お話の内容が読めるただの本になってる」
【乗ってみても何も起こらないや……】
ペーパールイージは開いた本に乗りジャンプやページを叩いてみたりとアクションをしてみるが何も変化が無い
栞のように挟まってみたり、身体をページに寄り添わせて見ても何も起こらず部屋の中をウロウロしているペーパールイージ
「何でだ…?何がダメなんだろうな……」
「んーーー………」
【うわぁぁぁ…!!】
「「!?」」
うんうん唸っていると突然ペーパールイージの悲鳴が聞こえてくる
慌てて振り返るとそこにはチュウチュウに襲われかけているペーパールイージが居た
壁際に追い詰められ貼り付いているのを今にも飛び掛かって破ろうとしている
「やめろ!ルイージから離れろ!」
「きみ!!まだ居たのか!!」
【ひぃぃ……助けて〜〜……】
2人はペーパールイージを助けようと駆け寄るが
それよりも速くチュウチュウが襲い掛かる
パコンッ
もうダメだとペーパールイージが目を閉じた瞬間
今まで何も起きなかった本が眩しく光り、中からチュウチュウ目掛けハンマーが飛んできた
ヂッ
飛んできたハンマーが直撃したチュウチュウはその場で気絶して動かなくなった
驚いて固まっていた2人だったがパタリと倒れたチュウチュウを見て我に返り
ルイージは震えて動けないペーパールイージを
マリオはハンマーが飛び出した本を
それぞれ駆け寄り分担した
「大丈夫かい!!?ごめんね、ボクらが目を離したばかりに……」
【ありがとう、大きいボク!ちょっと怖かったけど大丈夫だよ!それに今のハンマー…】
「おーい!ルイージ、ペーパールイージ、こっちに来てくれ!」
【ーーー!(手を振る)】
ルイージ達が振り返るとそこにはマリオ"達"が居た
そう、先程のハンマーは本の中からペーパーマリオが投げたものだった
「兄さん!あ、ペーパーの兄さん!!」
【わぁぁ!!!兄さん会いたかったよ〜!!!ありがとう助けてくれて!】
【ーーーー(抱き止める)】
「何が原因か分からないけれど、再会出来て良かったよ」
「本もキラキラしてるよ兄さん!これで帰れるんじゃないかな?」
眩い光を放ちながら兄弟の戻りを今か今かと待つ本
その中からはいつぞやに聞いた時と同じく
■■マリオさん!!助けてください!!!■■
■■クッパが!!姫様がーー!!!■■
と慌ただしい声が聞こえて来た
「はは、前に君が来た時も別れはこんな感じだったな」
【…コクリ】
「よかったね、兄さんに会えて!」
【本当にほんとうにありがとう!大きいボク!大きい兄さん!】
「またいつか会えたらその時はゆっくりお茶でもしようね」
「次は騒動の無いように!」
今度は離さない様にとしっかり繋がれた手を見て
もう大丈夫だろうと目を合わせ微笑む大きな2人
元の世界に帰る最後の最後まで手を振るペーパーな2人
光が鎮まりながら静かに本が閉じていった
「なんだか夢みたいな時間だったね」
「あぁ、でももうてんやわんやなるのは懲り懲りだよ」
「あはは確かに……でも前は会えなかったペーパーなボクに会えて嬉しかったな!」
「今度は普通に会えるといいな」
「そうだね」
2人はそう話しながら本を元の場所に戻し
物置を後にした