0820 魏無羨は好奇心旺盛な性質だ。良く言えば積極的で、悪く言えば我慢が効かない。
それは今日、八月二十日がノーパンの日だと聞いてしまったらデートの最中であろうと近くのお手洗いに駆け込まずにはいられないといった具合だ。
魏無羨の姿を認めてベンチから立ち上がった藍忘機の元に笑顔で駆け寄り、隣にぴたりとくっつく。
「なぁ藍湛。俺はいま何をしてきたと思う?」
「用を足してきたのではないのか」
藍忘機は何やら悪い笑みを浮かべながら腕に絡み付く恋人を見つめ、彼の問い掛けに答えようと考えを巡らせたが、さっぱり何も思い付かなかった。彼の見たいショップを巡り、カフェで休憩をして大きめの本屋に入り、それぞれ興味のある棚を眺めていたところで「藍湛、ちょっと来て」と腕を引かれて今に至るのだ。別れていた数分の間に何かが起こったのは分かるが、彼の奇抜な思考回路が藍忘機の想像が及ぶ範囲に収まったことなど一度もない。
魏無羨は更に身体を寄せ、藍忘機の耳に殆ど唇を触れさせながらそっと囁く。
「八月二十日は『パン』『ツ』『ゼロ』で、ノーパンの日らしいんだ」
藍忘機は目線だけを魏無羨の履く緩めのボトムスに送り、それから二藍の大きな瞳を見つめた。魏無羨は無表情のまま視線を走らせる藍忘機を眺めながら笑みを浮かべていて、悪戯の成功を喜ぶ子供そのものだ。
「なぁ、俺は何をしてきたと思う?」
魏無羨の手が藍忘機の二の腕の撫で、するりと指の股に優しく触れる。
「藍兄ちゃんクイズだよ。当たったらイイコトがあるかも」
魏無羨がふっと吹いた息は藍忘機の首筋を擽り、喉仏が上下する。硝子に似た切れ長の瞳は伏せられ、形の良い小さな唇が囁く。
「下着を、」
「下着を?」
真っ赤になった耳朶は熟れた果実によく似ている。被りついたらきっと甘い蜜が滴るのだろう。それ以上は紡げないまま口を噤んだ藍忘機の恥じらい様はまるで生娘のようだ。
「当てないとイイコトもお預けだよ」
「っ、…………」
ポソポソと。魏無羨にしか聞こえない声量で呟いた藍忘機の声は途中から笑い声にかき消される。
笑いながら男子トイレに引き摺り込まれた魏無羨はその後、内股を伝う何かを抑えるために一度わざわざ脱いだ下着を身に付けなければならなくなり、藍忘機に腰を抱かれながら帰宅した。
終わり