拷問(全年齢)「拷問の時間だ、魏嬰」
「含光君。この俺が姑蘇藍氏の拷問ごときに屈するとでも?」
魏無羨はそう言い放ち、藍忘機が特別に用意したフカフカの椅子にドカリと腰掛けた。頬杖をつき妖しく微笑む姿は妖艶そのもので、細い首に掛けられた鎖が鈍い音を立てる。
「で、今日は何だ」
魏無羨がゆっくりと足を組むのを横目でジッと見つめていた藍忘機が、ふかふかのミトンで湯気の立つスキレットを掴んだ。テーブルに鍋敷きと共に並べると、食欲を唆るニンニクの香りがフワリと広がる。
「今日の拷問は海老のアヒージョだ。君の好みに合わせて辛味を増してある。今夜はアヒージョによく合うと聞いた姑蘇の麦酒を用意した」
「屈するッ!!」
牢に魏無羨の声が響き渡る。驚異的な早さの屈しに対し、藍忘機はまだミトンも外していなかった。ミトンを並べてから霜の降りたグラスと麦酒の瓶を持ち、魏無羨に問いかける。
「では、黙っていた事をひとつを明かしなさい」
――魏無羨は話した。鬼道の始祖である夷陵老祖の弱点が犬である事は江家の姉弟しか知らない秘密であったが、その理由から犬に出くわした自分がどうなってしまうかまでひと息で話した。
「今日もおいしそ~♡」
フォークを持った魏無羨は笑顔を溢れさせた。瞳をキラキラと輝かせて今にもひと口頬張ってしまいそうな雰囲気だが、藍忘機がグラスに麦酒を注ぐのをちゃんと大人しく待っている。
「早く食べようよ。折角のお前の手料理が冷めちゃうだろ?」
「うん」
キメ細かい泡が浮かんだグラスが魏無羨の手元に置かれ、向かい側の椅子に藍忘機が腰掛ける。それをしっかりと見届けてから魏無羨は一番大きな海老にフォークを刺した。
「ん~♡ おいひ~♡♡」
蕩けそうな頬を両手で支えて笑う魏無羨を見つめ、藍忘機も微かに口角を上げる。
「明日の拷問は、雲夢の味付けの油そばだ」
「おっ、いいな。屈する屈する」
早速空になったグラスに魏無羨は手酌で麦酒を注ぎ「お前のとこにくる嫁は幸せ者だな!」と言いながら熱々の海老と共に豪快に喉に流し込んだ。
「今夜も極上に美味い!」
「……この後残ったオイルでパスタを作る」
「最高っ、愛してるよ含光君! 口吸いでもしようか?」
「…………」
「なんで黙るんだ? 拒否しないと本当にするぞ?」
「…………」
*
雲深不知処の山奥に建てられた牢から賑やかな声が溢れている。今夜の拷問も大成功を収めた。
終わり