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    r103123

    @r103123

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    忘羨。現代AU。二人ともDK。
    文化祭の最後の告白タイムを二人きりで過ごす話。

    ずっと二人きり「分かってたけどさぁ。やっぱ悔しい」
     暗闇の中、後夜祭を楽しむ生徒達を見下ろしながら魏無羨がぽつりと呟く。三階にあるこの教室にいるのは魏無羨と藍忘機の二人だけで、先程授与されたトロフィーを紙袋に詰める藍忘機からは返事もない。だが、聞いてはいるだろう。
    「去年の俺は三位で、姉さんと付き合い始めた孔雀野郎が今年は二位から順位を落として……それでも俺は今年も優勝できなかった」
    「ただの催しだ」
     一度だけ振り返った藍忘機がそう言い、また荷物を片付け続ける。
    「そうなんだけどさぁ……」
     魏無羨は座っていた椅子を傾けて、足を載せた机を行儀悪くガタガタと揺らした。

     イケメンコンテスト。文化祭のメインイベントの一つで、先程表彰式が終わったばかりの催しだ。マイクを向けられて淡々と投票への感謝を述べる藍忘機の隣で、魏無羨が大袈裟に悔しがって笑いを取るのは最早恒例行事だった。
    「藍家強すぎ。お兄さんの卒業後はお前がずっと一位じゃん」
     荷物をまとめ終えたらしい藍忘機が隣に腰掛ける。魏無羨は机に載せていた足を下ろし、頬杖をついて藍忘機を見上げる。悔しい。悔しいがこの顔には勝てないと、大袈裟に溜息をつく。
    「数日も経てば皆忘れる」
    「そうだろうけど。最後くらい一位になりたかったって話」
     魏無羨の首にかけられたメダルには大きく『二位』と書かれていた。それを弄びながら賑々しいこの三日間を思い返す。イケメンコンテストに女装喫茶。お化け屋敷に、準備に数ヶ月をかけた劇……。
     高校生活最後の文化祭だった。エスカレーター式に進学できるため受験勉強は必要ないが、これから迎える定期試験での成績次第では選べる学部が限られてしまう。学生らしく遊んで過ごせるのは恐らく今日までだろう。
     藍忘機に出会い、共に過ごした三年間は本当に色々なことがあった。……そんな高校生活の最後の大きなイベントでもあった。
    「全校生徒の四割の投票を集められちゃったら二位以下には勝ち目がないよな」
     熱くなった目頭を誤魔化すように、鼻を啜ってニヤッと笑う。窓の外の明るさと逆光になって、赤くなった鼻先は藍忘機からは見えないだろう。
    「私は君に投票した」
    「……は? 藍湛が? 俺に?」
     投票権は全校生徒にあるが、このくだらない催しに藍忘機まで参加しているとは思わなかった。いや、それよりも喧嘩ばかりの俺に投票したなんて……。
    「一番格好良いと思う生徒に投票しましょう、とあった」
    「ハハハハハハハハ。藍湛は俺のどこが格好良いって?」
     藍忘機が冗談を言うのなんて、初めて聞いた。零れた涙を拭うと笑いすぎだと怒っていると思っていた藍忘機が、何故か真剣な顔をしてこちらを見ていた。

    「体育祭で助けてくれた時から……思っている」
    「体育祭? あぁ、肩を貸した時か!」
     頷く藍忘機の耳朶は、暗闇でも分かってしまうほど真っ赤だ。余程恥ずかしい思い出なのだろう。
     体育祭が行われたあの日、他のクラスの生徒に押された藍忘機は足を怪我して、それを魏無羨が救護テントまで連れて行ってやったのだ。嫌がる藍忘機は子供のようで面白かった。懐かしい記憶だ。

    『それでは、待ちに待った告白タイムです! 放送席は校舎側、テントの下にあります! この文化祭を盛り上げ続けた司会、三年二組聶懐桑は放送席におります!』
     校庭から笑い声と歓声が聞こえてくる。後夜祭は随分と盛り上がっているようだ。
    「告白タイムだって」
     立ち上がり、藍忘機を真っ直ぐに見つめる。魏無羨を見上げる男は何も言わない。
     ずっと準備してきたのに、みっともないほど手が震えている。小さく息を吸い、ゆっくりと吐く。

    「三年一組、魏無羨は……藍忘機が好きです」

     他に誰もいない、明かりも消したままの教室にその声はよく響いた。呆けたようにぽかんと口を開ける藍忘機は少し幼く見える。
    「多分、入試で前後の席になったあの日からずっとお前が好き……急で、驚いたよな」
     自嘲気味に笑う魏無羨の細い影が机に落ちる。藍忘機は身動ぎもしない。
    「言いたかっただけなんだ。気持ち悪がらせたらごめん、ちゃんと俺が忘れられたら、また友達に、」

    「私も」
     藍忘機が倒した椅子が大きな音を立てた。腕を引かれた魏無羨はバランスを崩し、藍忘機の胸に鼻先を打ち付ける。
    「私もずっと魏嬰が好き」
     顎を掴まれ、至近距離で目が合う。何かを言う前に目の前がぼやけて、何も分からなくなった。

     そっと触れた唇は互いに少し震えていて、こんな風に初めてを積み重ねていけたらいいと、そっと思った。
     窓の外から花火の音が聞こえてくる。

    終わり
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